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子1人100万円のバラマキで地方移住するほど国民はバカではない。「子供の未来を考えれば、あえて都市部から離れる理由がない」

集英社オンライン / 2023年1月7日 11時1分

2023年度から18歳未満の子供がいる世帯が東京圏から地方移住すると支給される移住支援金の加算額が、現在の子1人当たり最大30万円から100万円に増額される。「地方創生移住支援事業」の一環で、少子化が進む地方の現状に配慮したこの政策。しかし、地方の若者が都心へと流出する理由を考えれば意味のないバラマキでしかない。

地方から若者が消えるたった1つの理由

多くの方がご存知の通り、日本では東京一極集中が進み、地方は若者が少ないという状況が永らく続いています。その流れを止めるために、東京都、もしくは埼玉県、千葉県、神奈川県から東京都へ通勤する人が地方移住をした場合、要件を満たせば移住支援金が支給される地方創生移住支援事業を国は行っています。



現在は1世帯が移住すると最大100万円の支援金に加え、18歳未満の子供がいる場合は30万円の加算金が支給されます。2023年度より、この子供の加算金が子1人当たり30万円から100万円に増額される見込みです。

みなさんは、これについてどう思われるでしょうか?

筆者は、この程度のバラマキで移住を決断する人はほとんどいないと思っています。そもそも、なぜ地方から若者が流出して東京に集中するのかを考えれば、地方に人が住まないのは単発支給のお金では解決できない問題だとわかるはずです。

地方の問題はずっと言われ続けているとおり、「仕事」がないという1点にあります。

地元に満足な仕事さえあれば、多くの若者は地元で働きたいと思っています。しかし、それができないから仕事のある都市部に出て行くのです。

さらに、地方で子供を育てている人の多くは大学進学時には学費だけでなく、下宿費用も想定して準備している人も少なくありません。下宿費用は大学の学費とほぼ同額ほど必要になりますので、そう考えると今回の加算金など雀の涙程度にしかなりません。

100万円など下宿費用に比べれば、少なすぎる

日本学生支援機構の令和2年度学生生活調査によると、自宅以外から大学に通っている学生の生活費は年間で約111万円となっています。一方で自宅から通っている学生の生活費は約39万円となっており、その差は72万円です。

4年間で288万円(72万円×4年間)の差となり、さらに受験のための交通費、賃貸物件の下見、契約、家電購入などの費用まで考えると400万円近くの差が生まれると考えられます。

独立行政法人 日本学生支援機構「令和2年度 学生生活調査結果」

つまり、地方移住しても子供が地元の学校に進学しないのであれば子供の加算金の100万円などあっという間になくなります。近年の子育て世帯はお金のことをよく考えているので、先々必要となる教育費のことを考えれば、この程度のバラマキで移住できると思える人は多くないと思われます。

そして大学を卒業した後に地元企業に就職せず、結局東京などの都市部に行くのであれば、地方に高齢者だけが残り、若者がいないという状況を解決できません。問題の根本を解決しなければ、うまくいったとしても一時的に移住者が増えるだけですので、バラマキと言わざるを得ません。

地方移住の問題は「住まい」にもある

筆者は35年間住んでいた大阪から高知県に移住をした身ですので、都市部から地方移住した人間です。移住自体には非常に満足していますが、同時に様々な問題も感じています。

ちなみに子供はいません。子供がいれば、地方移住せず大阪に住んでいたと思います。理由はシンプルで、子供の未来を考えれば、あえて都市部から離れる理由がないからです。

仕事についても筆者はWEBを中心に仕事をしているため、地域に紐付いた仕事はほぼありません。もし、移住先で働くことを考えれば移住はしなかったと思います。仕事がないわけではありませんが、望む仕事はほぼありません。子供のいないリモートワーカーだからこそ、気軽に移住できたというのが本音です。

それでも、移住のハードルは他にもあります。それはインフラです。今の時代、ネットで買い物ができるので日々の買い物の多くはAmazonなどで済ませられるため、その点は地方であっても、あまり気になりません。

しかしサービスやインフラは運ぶことができないため、ここが都市部と地方の大きな差となります。特に住まいについては、ひどいレベルです。まず、都市部の人間には考えられないほど賃貸物件がありません。

いまや、都市部ですらファミリータイプの賃貸は多くありません。それが地方だと中心部から離れると物件はほとんどなく、あっても築70年ほどの一軒家です。隙間風が入り、トイレはくみ取り式。都市部の生活に慣れた人間には、あまりにもハードルが高すぎます。

移住したい人が住む場所がない

また不思議なことに田舎には空き家は多いのに、誰も売りたがらないため住む場所がないのです。理由はシンプルで田舎に住む人ほど、よそ者を望んでいないからです。
一方で自治体は人を呼びたいと思っています。自治体の担当者と話す機会があったのですが、「誰も家を譲ってくれないため、移住者に提供する賃貸を用意できない」と嘆いていました。

田舎は近隣住民の評判がついてまわるため、土地の保有者も見ず知らずの人に貸すリスクを冒せません。また都市部から移住する人は「田舎というサービス」を楽しみたいと思っており、面倒な地元行事を避けたがります。しかし、地元の人間は地域参加と居住はセットと考えています。

こうした問題もあり、地方には選ぶほどの「住まい」がありません。とはいえ、いきなり見ず知らずの土地で家を建てる人などいないでしょう。筆者も偶然見つけることができた今の住まいを逃していれば移住を見送っていました。

そもそも移住できるのは経済的にもゆとりのあるリモートワーカーでしょうから、お金を配るより、そのお金を使って最低限手入れされた住まいを提供する方がよほど移住促進に繋がると思います。

お金をもらっても住める場所がないのであれば、どうやって移住するのか? 最近はバラマキ政策ばかりが目立ち、本当に問題解決したいと思っているのか疑問でなりません。

文/井上ヨウスケ

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