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「成人式を人生の目標に生きてきた10代の気持ちに応えたい」…北九州・ド派手成人式を支える貸衣装屋「みやび」店主の女意気

集英社オンライン / 2023年1月8日 7時1分

成人式は人生における通過儀礼の大事な儀ではあるが、一般的には「目標」とはなり得ない。だがド派手衣装で有名な北九州の若者たちにとって、人生で最も重要な晴れ舞台は成人式だという。その地で絶大な人気を誇る貸衣装店に話を聞いた。

近年、成人式といえばド派手な衣装で有名な北九州を思い浮かべる人が増えたのではないだろうか。20年もの間、そのド派手な衣装を支えてきたのはレンタル衣装店「みやび」だ。
式典を2週間後に控えた2022年のクリスマスイブにお店にお伺いすると、店内にはド派手な衣装が山積みだった。

「えっ!? 少しでも背を高く見せたいから草履の高さを2cm高いものにして欲しい?」


「わかった、なんとかしてあげて」
「新しく発注すると予算オーバーになる?」
「うーん、それでもなんとかしてあげて!」

…喧騒真っ只中の中で、店主の池田雅氏に話を聞いた。

「金と銀しかないっちゃ!
それを着て成人式に出るのがオレらの夢なんです!!」

――ド派手衣装の始まりは20年前、2003年の成人式と聞いています。

その1年前、2002年の成人式が終わったすぐ後くらいに2人の男の子、通称「金さん」と「銀さん」がお店にやって来て。背が高く身体のおっきい方が金さんで、細くてひょろりとした方が銀さん。2人ともパッと見は怖そうなんですけど、話をすると謙虚で人懐っこい笑顔が印象的でした。

――その2人のリクエストが……。

1年後の成人式で、金と銀の羽織袴を着たいって言うんですよ。男の子の羽織袴は黒とか白とか、せいぜい赤が一般的で、金と銀なんて聞いたこともない。だから素直に「ありません」って言えばよかったんですけどね(苦笑)。

――その一言が言えなかった!?

女の子は1年前から晴れ着の準備を始めるんですが、男の子は2、3ヶ月前に色を決めてもらって、あとはサイズの合うもの用意するだけだったんです。ところが2人がお店にやって来たのは1年前だったものですから。1年もあるのにその場で無理です、って言うのはどうなんだろう、という思いが頭の隅をかすめて。

「どーしても金と銀にしたいと! 金と銀しかないっちゃ! それを着て成人式に出るのがオレらの夢なんです!!」

そう語る2人の熱意に打たれたのもあったのかもしれないですね。
ついつい、「わかった。とりあえず取引先に聞いてみるね」って言っちゃったんですよ。

――すぐに見つかったんですか?

見つからなかったんです。10社あった取引先からすべてから、「無理ですね」「ウチにはないです」と言われてしまって。それはそうですよね、金と銀の羽織袴なんて見たことも聞いたこともないんですから(笑)。
これは困ったぞどうしよう?やっぱり断るしかなのかなと思っていたそのときに、またその2人がお店にやって来て……。

――がっかりしたでしょうね。

いやそれがですね。私が言い出すより先に、2人から「お金は親に払ってもらうんじゃなくて、自分たちで払いたいけん、毎月分割でお店に持ってきてもいいですか?」って言われちゃって。金さんは建築関係の仕事、銀さんは酒屋さんでアルバイトをしていたんですけど、5千円札、1万円札を手に握りしめながら、「これ、今月分ですっ!」と、毎月目を輝かせながら来るようになって。

――もうなんとかするしかないぞと!?

2人の目を見たら、やるしかないですよね(笑)。

まずは生地を織るところから。採算は度外視!?

――金銀の羽織は見つかったんですか?

見つかったというか、この人ならなんとかしてくれるかもしれないと思う人に連絡をして。まず生地を織るところから始めて。見本として20パターンくらい作ってもらったのかな。 この感じでもうちょっと綺麗に見えるようにできないかなとか、もうちょい輝きがほしいよねとか、あれこれ言い合いながら試して。

――ついに完成した?

まだです。これだねというのが出来てから次は試作品を織ってもらって。見本は10cmくらいのものなので、それじゃわからないところもありますからね。納得できる生地が出来上がってから縫製をして、ようやく完成です。

――2人は喜んだでしょうね?

2人は中学の同級生で、他に仲間が6人いて、その子たちは既成の色違いに身を包んで、金さんと銀さんをセンターに8人揃って成人式に出席したんですが、そりゃもうすごかったみたいですよ。
衣装を返却しに来た時にはずっと喋っていましたから。どれだけオレたちが目立っていたかとか、オレたちがヒーローだったとか(笑)。

――尋ねにくい質問ですが、ビジネスとしては成立したんですか?

とんでもない、赤字ですよ。

この業界では通常在りモノをそのままレンタルした場合で2万円とか3万円とか、モノによっても違いますが、まぁそれくらいですね。で、フルオーダーの場合は製作費の半分をレンタル料としていただいて、1回目は赤字、2回目でトントン。3回レンタルしてもらって始めて利益が出るんですけど……。

2人には運よく在りモノが見つかったら、これくらいかなという金額しか伝えていなかったので、正直大赤字ですよ(苦笑)。

――正規の金額は請求できなかった?

できないですよ、2人の頑張りを間近で見ていたら。でもそれでいいやと思えたんです。今回だけだと思っていたし、大変だったけどすごく楽しかったし。スタッフとも「あぁ、終わったね」と話をして、次の年からはまたいつもの仕事に戻るはずだったんですけどね……。

――評判になってしまった?

金さん銀さんの成人式が終わってすぐに、「後輩なんですけど」とか「◯◯さんから紹介されて」とか「式を見て」とか、男の子たちが次から次へとお店にやって来るようになって。最終的にはその翌年には200人を超えてしまって(笑)。

――しかも、リクエストは年々エスカレートしていくわけですよね?

そうなんですよ。2年目は「金さん、銀さんより目立つものを!」になるし、3年目は「さらにその上を」という注文が付く。苦労して苦労して、もうこれ以上のものは無理!って毎年思うんですけど、新成人にとってはその“これ以上は無理”というのがベースなので、「もっと派手に、もっとすごいものを」と言って来る。

2017年の大作「鳳凰シリーズ」。社内でプロジェクトチームが立ち上げ、制作に丸一年間費やした。年に1〜2本、物凄いオーダーに応える形で超大作を仕上げるという

やれることは全部やってあげたい

――そうやって、ファーが付いたり、レインボーカラーが出現したり、名前の入ったオリジナルの幟(のぼり)や扇子は当たり前。最近では、スパンコールやスワロフスキー付きの羽織袴まで登場しています。

信じてもらえないかもしれませんが(笑)、私自身は派手なものよりシンプルで品よく、すっとしたものが好みで。女の子が花魁の格好をしたいと言い出した時も、「ちょっと待って。よく考えてから決めようね」と一度は止めるんですけど、最後は本人の気持ちですから。

一生に一度の晴れ舞台で、着たいものを着て本人が喜んでくれるのが何よりも一番大事なことなので、私たちはそのお手伝いができるだけでいいと。

――とはいえ、中にはさすがにそれは…というリクエストもありますよね?

ありますね(苦笑)。

ド派手な幟。生地もかなりいい物を使っている。

――例えばどんなものでしょう?

「肩を尖らせたいんやけど」とか、「ここに薔薇の刺繍が入ったらかっこいいよね」とか、「羽根を背負いたいんやけど」とかですね。でもうちのスタッフは本当に優秀なので、技術的には可能ですし、できる限り叶えてきました。
他なら間違いなく断るはずなんですけど…。それに、新成人たちは最初から「できますか?」じゃなく、「できるよね?」という感じでやって来るので。

――出来ないとは言えない?

言えないです。というか言いたくないんです。私の性格もあるし彼らと話をしていると、一生に一度の成人式にかける思いというのが、もうビシバシ伝わって来るので出来ないとは言えないんです。それなのに全員が全員、「安くしてね」って言ってきますしね(苦笑)。

――失礼ですが、それでお店は大丈夫なんですか?

フルオーダーや、大掛かりにカスタマイズするものに関しては、その年だけでみると赤字です。でも一年のトータルや3〜5年先までのトータルで考えると、黒字です。もっとも作業時間やその大変さは抜きにしてですが(笑)。

――そこまでしてやる原動力はどこから来ているんでしょう?

ウチに来る子たちは、成人前から働いている子が多いんですよ。成人式を目標に生きているって言ったら、そんな大袈裟な……と思う人がいるかもしれませんが、彼らは10代の後半くらいから、本気で成人式に出ることを目標に頑張っているんです。

その子たちの思いを全部受け止めて、できることは叶えてあげたい――。
大変ですよ。中には振り回す子もいますから。でもそれでも、私たちが頑張ってできることならしてあげたい。夢を叶えてあげたい。その思いだけですね。

令和5年度の超大作 スパンコールは全て手作業。

取材・文/工藤晋

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