〈安倍元首相銃撃事件で山上容疑者が起訴〉伯父が今だから語れる“あの日”の出来事。「徹也の兄はろくに治療も受けられなかった」「家をでた母は妹にゴメンとつぶやいて…」統一教会のせいで家族はバラバラに…
集英社オンライン / 2023年1月13日 14時11分
2022年7月8日、午前11時半頃、奈良県で参院選応援演説中の安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから、約半年―。殺人容疑で逮捕された山上徹也容疑者(42)が1月13日、殺人罪で起訴された。元総理大臣殺害という戦後、類を見ないこの大事件を、伯父の証言をもとに振り返った集英社オンラインの記事を再公開する。(初出:2022年12月27日)
あのとき離婚していれば・・・・・・母親を追い詰めた夫の自死
母を奪われ、家庭を崩壊させた山上徹也容疑者(42)の“本来の敵”であった旧統一教会は、国会で大きな問題として取り上げられ、被害者救済法案も可決。教団への風当たりはかつてないほど強いものとなっている。
銃を使用し、一人の尊い命を奪った山上容疑者が犯した行為はどのような事情があろうと、到底許されることではないが、世論が、山上容疑者の生育歴に大きな同情を馳せたのも事実である。
改めて、山上容疑者とはいったいどういった人物だったのか、山上容疑者を幼少の頃からサポートし、拘置所にいる今も、懸命に支援し続けている父方の伯父(78)に話を聞いた。
「徹也はせいせいしていると思いますよ。今まで、統一教会憎しと思って、生きてきたわけやから。今は、彼にとってこれまで手にいれたことがない、平和な時間が流れていると思います。ただ、これからどうしていくのか……」(伯父)
甥の“これから“を考える伯父に、山上容疑者の幼少の頃の話を聞きたい旨を伝えると、最初はためらいながらも、たばこをくゆらせ、時折、部屋の右上を見ながら、甥との思い出を語りはじめてくれた。
「私のお袋が生きているときは、よく徹也含めてきょうだい3人と駅で待ち合わせて、ご飯を食べて、様子を聞いては、小遣いを渡してたんですよ。当時、私は仕事していて、会えないから、お袋が私の家内に言うわけですよ。『(徹也たちが)困窮してるから、いくらほしい』って……。それを言われるがまま、私がお金を渡していたんです。弟が亡くなった翌年の1985年から、A子(徹也の母)が統一教会にはしった事実を知った1994年まで、ずっと支援していました。しかし、1998年にA子の父親が亡くなり、支援を再開し、2017まで支援を続けました」
山上容疑者の父親は1984年に自ら、命を絶っている。その3年前に、A子は実母を亡くし、精神的支柱を失くしたと伯父は推測する。夫を亡くす以前から、A子は既に精神的に不安定になっていたという。山上容疑者の父親は、京都大学工学部を卒業し、大手ゼネコンに勤めたのち、母親の父が経営する建設会社に入社した。
「弟(山上容疑者の父)はA子の父親と性格が合わなかった。それに、弟は苦労していてね、大学院を出て、研究がしたかった。でも、儲け優先の現場には、肌が合わなかったんです。儲け優先の父親の元で働くのは限界だったんですよ。その無理がたたってね。
自殺する1年前に、ここに徹也の一つ上の兄を連れて帰ってきて、私とお袋の前で『離婚したい』って、言いよったんよ。でも私も、弟も、自分たちの母親が離婚して苦労してきたのを知ってたから、『子どもを犠牲にしたらあかん』と言うてね。後から、A子に聞いたら、弟は『俺には帰るとこがない』と言ってたらしいですわ。あのとき、引き取ってやれば、こんなことにならんかったんかなって思うけれど、それも天命やんね」
小児癌の兄は10歳で片目を失った
話を聞いた際、時折伯父が発する言葉「天命」。それは山上家の家訓だという。
「A子にとって、自身の母親(徹也の祖母)が支柱だった。母親が亡くなって防波堤が崩れたことによって、親父さん(徹也の祖父)との関係もおかしくなり、弟(徹也の父)も死んでしまい、統一教会にはしったんです」
愛する母親、そして、夫を亡くし、5歳、4歳、そして、まだお腹の中にいる子ども、3人を支えて行くにはあまりにも過酷だったという。
それは山上容疑者のツイッターにも記されている。
〈オレは作り物だった。父に愛されるため、母に愛されるため、祖父に愛されるため。病院のベッドでオレに助けを求める父を母の期待に応えて拒んだのはオレが4歳の時だったか。それから間もなく父は病院の屋上から飛び降りた。オレは父を殺したのだ〉
そして、A子をさらなる窮地に追い込んだのが、長男の病であった。山上容疑者の一つ上の兄が、小児癌を患ったのだ。幼子3人の育児に加え、そこに追い打ちをかけるように、長男のケアが必要となった。
山上容疑者の母への枯渇した愛情がツイッターにも鮮烈に記載されている。
〈三人きょうだいの内、兄は生後間もなく頭を開く手術を受けた。10歳ごろには手術で片目を失明した。障がい者かと言えば違うが、常に母の心は兄にあった。妹は父親を知らない。オレは努力した。母の為に〉
母の死、夫の自死、幼子3人の育児に、子どもの病、一人の女性が背負うにはあまりにも残酷な人生だった。
徹也を追い込んだ兄の自死
「A子 統一教会へはしる」
1994年8月、伯父の妻が残したメモには、こう記載されていた。伯父は自身が支援していた生活費が統一教会に流れている事実を知り、資金援助を一時打ち切ったのだ。その後、伯父はA子が、夫の生命保険金の6千万円を統一教会に献金していたことを知る。
「98年には、A子の父親が亡くなり、相続した土地や家を売り払って、さらに約4千万円を献金した。合計約1億円を、統一教会につぎ込んだんや」
伯父が、旧統一教会とA子の印象深かった過去をこう吐露する。
「2004年のときやったかな、家に食べ物がないって言うて、徹也から電話かかってきたんですよ。急いで、にぎり寿司と未払いの電気代等の10万円もって、家内とかけつけましたよ。家内が、冷蔵庫あけたら何もはいってない。A子が韓国行って帰ってこなかったんですわ。それから、仕送りと一緒に缶詰送るようにしたんです」
家庭が崩れていく中で、山上容疑者はそれに抗うように必死に生きようとした。県内有数の進学校に通っていたが、経済的困窮に陥り大学を断念。専門学校に進学した後、2002年海上自衛隊に入隊。しかし、2005年、ここで、自殺未遂を起こす。その理由は「兄と妹に保険金を渡したかったから」。保険金の受取人を母から兄に変更し、懸命に家族を支えようとしていた山上容疑者の姿があった。
「子どもが自殺未遂を起こしているのに、A子は韓国に行って帰ってこなかった。
当時、徹也だけは、私の母と一緒に住んでいたのですが、2005年の正月に兄と妹の困窮ぶりを知って、その後、配属先の広島の呉で、自殺未遂を起こしたのです。
徹也は、『統一教会は俺の人生を壊した』。『妹も兄も生活できない状況や』と。『自分の生命保険でお金を払ってやりたい』と言うてました。自殺未遂後、徹也をうちで引き取ろうかと思ってたんですが、ちょうど家内が体調を崩して難しかったんです」
懸命に生きようと、家族を再構築しようとしていた山上容疑者は、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得するが、さらなる不幸が襲う。2015年、兄が自殺したのだ。
「ちょうど自分も癌の手術で寝込んでいて。徹也の兄から病院入るし、ついてきてほしいと連絡あったけど、動かれへんかった。病院についてきてほしいというのは、治療代を払ってほしいってことやったんです。結局、ろくに治療も受けられへんかった。その後、自殺してもたんです。
どっかの記事で、徹也の兄が、精神喪失して私に包丁を向けたとかありましたけど、それは大きな間違いです。徹也の兄は私にそんなことしてません」
皮肉なことに、幼少期の兄の卒業文集には将来の夢に、“大統領”と記載されていた。
「直接、そういったことは聞いてませんが、徹也もそうですけど、徹也の兄も本当に頭が良かった。東大を目指してましたから。部屋には、哲学の本や、東大入試の参考書もありました。徹也の兄は、病気のために外にでることもなかなかできませんでしたから、勉強しかなかったんですよ」
しかし、病は兄の身体を徐々に蝕み、生きる渇望を喪失させていった。
唯一の理解者であった兄を亡くした山上容疑者は、狂気へと突き進んでいく――。
母と妹の何気ない日常が
「私はA子を責めていません。すべて統一教会の責任と思っています。A子と話していても、話がかみ合わないんですもん。ちゃんと治療を受けるべきやと、ずっと言うてきました。みんな鬼母みたいなこと書いてるけど、あれは病気なだけなんです。
支柱であった(A子の)母が亡くなり、弟(徹也の父)の自殺に子どもの病気。A子自身も死んでもおかしくない状況やった。統一教会にすがるような思いでいったわけですよ。脱会させるために何をやっても無理やった」
山上容疑者のツイッターにも、家族の辛苦がこう綴られている。
〈オレが14歳の時、家族は破綻を迎えた。統一教会の本分は、家族に家族から窃盗・横領・特殊詐欺で巻き上げさせたアガリを全て上納させることだ。70を超えてバブル崩壊に苦しむ祖父は母に怒り狂った、いや絶望したと言う方が正しい。包丁を持ちだしたその時だ〉
「脅すだけでは無理なんですよ。治療を受けさせなあかん。でも、治療にまで本人を持っていくのがどれだけ大変か。みなさんマインドコントロールって言うてますが、そんな優しいもんやない。脳が壊れてしまっとるんです」
なぜ、山上容疑者含む3人のきょうだいは、統一教会にはしる母と決別の選択をしなかったのだろうか。
「3人は母親のことは絶対悪く言いませんでした。自分の母親ですやん。徹也の妹もA子が統一教会に没頭する中でも、『お母さん、お母さん』言うてね。何度裏切られても、A子は、3人にとって母親なんですよ」
2022年7月8日、事件当日、伯父は、すぐにA子と徹也の妹を保護するために、自分の家に呼び、約一ヶ月にわたって母と妹と生活を共にした。
「来たときはほんと、顔つきが違うっていうか、もう信仰やってるっていう感じで。汚れた服着てね。20日間ぐらいおったんかなぁ。アマゾンで野菜とか、色々取り寄せてね、ここで料理を作り始めてくれたんですよ。
私はなるべく、会わないように、極力避けてました。親子2人で楽しそうにやってましたよ。その姿を見ていたら、統一教会さえなければ、こういった生活を歩んでいたんだろうなって思いますよ」
親子2人水入らずの生活――。そこに山上容疑者、そして、兄がいれば、と思える、山上容疑者が喉から手をが出るほど欲していた、ありふれた普通の親子の生活が、目の前にあった――。
「お兄さん、ありがとう」
伯父が家の庭の雑草を山上容疑者の妹と抜いていると、突如、リビングからA子がそうつぶやいたのだ。
「徹也のこと、徹也の妹のこと、ありがとうって。初めて聞きましたよ」
「記者会見を開きたい」と言い、翌日出て行った母…
何気ない日常が溢れていた生活――。それを壊したのは、旧統一教会だった。
伯父の家の2階で生活をしていた2人だったが、伯父の知らぬ間に、旧統一教会から連絡が入ったのだ。その瞬間、A子の顔つきが変わったと伯父は証言する。
「目つきが変わったような。じっと何かを考えてる、見つめてるっていうか。A子が出て行く1日前に、私の部屋をノックして、『お兄さん、話があります』ってい言うて、世間に対して、『安倍さんに対して申し訳ない』という話を記者会見したいと。それで私が、『もうそれなら外でやってくれ』って言ったら、翌日に連れてきた猫と一緒に出て行ってしまった。そこからはもうどこへ行ったかわからない」
既に仕事のために、一足早く伯父の家を出て、一人暮らしをしていた山上容疑者の妹は、叔父が「A子が出て行った」と連絡するとすぐに、叔父の家にやってきたという。
「その日、妹が、A子に、一日中、電話やメールをしていたけれど全然、連絡がつかない。私は深夜の2、3時に寝てしまったんだけれど、妹は、夜通し連絡していたみたいです。次の日、妹が泣きはらした顔をしてたんで、どうしたんやって聞いたら、『安倍さんに謝る言うて。今まで、私にも徹也にも謝ったことがないのに!』って。この時初めて母親であるA子を責めたみたいです」
山上容疑者の妹の話によると、A子は、か細い声で、娘に「ごめん」とだけ、電話越しにつぶやいたという。
「徹也と妹にとっては、A子はどこまでも母親なんですよ。それは、もう人間やからな。それが天命ですわ」
そう話す、叔父の姿は、「血は水よりも濃い」と、山上容疑者をはじめとした3人の子どもに、我が子同然に懸命に寄り添うものだった--。
取材・文/松庭直 集英社オンライン編集部ニュース班
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