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団塊の世代800万人の死が目前に。火葬代費用は税金で補填されている現在、火葬後の残骨灰から金歯や貴金属を“採掘”されるのは避けられない?

集英社オンライン / 2023年1月26日 14時1分

残骨灰の所有権は自治体だが、抽出した有価金属は遺族のもの? 公共福祉である火葬場がフル稼働するだろう2040年代に向けて、すべきこととはなんなのか。

800万人が亡くなっていく“超超”高齢化社会の日本

火葬や埋葬は『墓地、埋葬等に関する法律』で細かく決まっているため、火葬場以外の施設で火葬することは禁止されている。そして火葬場の運営には都道府県知事の許可が必要で、公共施設の扱いだ。なので、残骨灰の所有権は自治体となる。

このことから、残骨灰から有価金属を抽出・精錬して売却することは法律的には問題ないとされるが、死後の自分が鉱山のように扱われることを不快に思う人もいるだろう。

そうはいっても、感情面だけで語っていられないのが、高齢化社会となっている日本の現状だ。約800万人いる団塊の世代が後期高齢者となる2025年にかけて、日本は多死社会に入る。



年間死亡者数はピーク時には168万人と推測され、2021年の143万9809人より約25万人増。火葬場がフル稼働するのは想像に難くない。残骨灰が課題になる背景には、この火葬場の事情がおおいに関係しているようだ。

火葬料は地域により金額がまちまちで、公営の火葬場であれば無料や数千円程度の自治体もある。浄土宗の僧侶で京都・正覚寺住職でジャーナリストの鵜飼秀徳さんいわく、京都の火葬料の相場は1万5000円程度だそう。その理由を日本葬送文化学会の会長・長江曜子さんに教えてもらった。

「火葬は公共福祉ですから費用は税金から補填されています。その地域で市民として納税や義務を果たしていた方というのを根拠として、原価から減額されているんですね。ただ、人を瞬時に骨にするには、莫大なお金がかかります。ひとりあたり約10万円程度ですが、燃料費の高騰で今はもう少し高くなっているのではないでしょうか」

京都を例にすれば、ひとりにつき単純計算で8万5000円が補助されている計算だ。多死社会のピークに向けて、燃料だけでなく老朽化した施設修繕も含め、火葬まわりの支出が膨れ上がるのは確実だろう。

死は個人の問題ではなく公共性という事実

「村八分」とは、村の掟や習慣を破った者に対して課される制裁で、ほかの住民が結束して、その家と絶交することだ。但し、火事と葬式については例外であった。埋葬まで行わなければ衛生上の問題が起きるためで、古来より死は公共性を伴っているのだ。

「そもそも、死を見送るのは自分ひとりではできないので、弔うには相互扶助の精神がないといけません。火葬から埋葬まで、近親者が残っていない人でも公務員や誰かが立ち会い、お見送りされます。ところが、死の話題はタブーとされ、議論することではないとされていることから、実情を知る機会が少なく、また公共教育がありません。かつては公共教育がなくても地域で行われる法事で自然と学んでいましたが、それも現在は失われています。

どう死んでいくのかを学ばずして、どう正しく生きるのかはわかりません。社会の中で、死がどのように機能しているのか。故人の尊厳を守りながら、知る必要がある時代にきていると思います」(前出・鵜飼さん)

公共性に重きをおけば、自治体が有価金属を売却して火葬場の施設運営費に充てることは次世代につながる人生最後のご奉公と思えるかもしれない。逆に、個人に重きをおけば何ひとつ他者には渡したくないと思うのも一理ある。

共同体の一員として、死をどう振る舞うのか。それを考えるための知識も情報も経験値も、すべて足りないのが現在の日本なのだ。

「なぜ残骨灰の売却を決めたのか。自治体は丁寧に説明し、火葬には費用がかかることの情報も開示する必要があります。国民的感情に配慮しなければ、理解は得られません」(前出・長江さん)

「売却益は公明正大な使われ方をしなければいけません。民間の入札により不透明な部分があるために生じていただろう疑問の解消も必要でしょう」(前出・鵜飼さん)

残骨灰から抽出される有価金属が自治体に渡るのが許せないのであれば、時計や指輪など貴金属を棺に入れない。金歯も子孫が相続する権利があると思えば、その口から歯をペンチで引き抜けばいいのだ。
見送る人間の我欲を優先するのか、故人を思い出の品とともに見送るのか。火葬場は自身の人間性と向き合う場ともいえる。

残骨灰はどこへ行く?

有価金属を選り分けられた残骨灰は、どうなるのか? 公共福祉である、火葬に税金が補助されていると頭では理解しても、“行方の説明”がなければ、死後の自分が物のように扱われる不安がつきまとう。

「自治体により方法は異なるとはいえ、供養をしています。また、自然サイクル保全事業共同組合が、『全国火葬場残骨灰共同供養会』を行っていますね。以前、大阪の方から合同供養に出席し、息子さんを見送ったことで気持ちが晴れたと聞いたことがありますから、火葬場に聞くなどして参加されるといいかもしれません。

骨は物ではないので敬意をもって取り扱わなければいけませんから、このようなことも含めて情報を表に出すことで、得られる安息もあると思います」(前出・長江さん)

ダイオキシンほか有害物質が付着している場合もある残骨灰。有価金属を抽出するだけでなく、有害物質の除去も行われた上で各自治体は供養をして最終埋葬地に納骨している。誰にでも平等に訪れる死に対して、基本的には故人の尊厳を最大限に守っているのだ。

そして、各自治体も残骨灰の取り扱いについて市民に問いかけはじめている。
例えば、大分市は2022年9月に有識者を集めて残骨灰処理のあり方について検討会を開き、市民アンケートを行ったことが、小さい扱いながらニュースになった。

『令和4年度さいたま市インターネット市民調査』にも、設問があった。結果は、「残骨灰が残ることを知らない」が43.7%、「残骨灰に有価物が含まれていることを知らない」が54.6%、「火葬残灰の有価物を火葬場運営に役立てている市町村があることを知らない」が85.4%で、認知度は低い。それでも、設問されることで、知られていない事実を知ることが重要だ。
※さいたま市は有害物質を除去、供養して埋蔵

残骨灰にまつわる情報が徐々に広まっている傾向にあるが、「2025年問題」を控えて議論がより活性化することが望まれるのが、日本の現在地といえる。

取材・文・撮影/Naviee

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