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“お墓事業”は異業種参入のビジネスチャンス? 宗教法人の経営破綻もあり得る時代において、選択肢は骨を残すか煙になるか!?

集英社オンライン / 2023年1月26日 14時1分

埋葬のトレンドは「樹木葬」と、多様性の時代に突入しているが、本当に墓石はいらないのか? 自分自身を見送るのにも不可欠な準備とは?

多死社会を前に人気の樹木葬はコスパ最強?

多死社会に向かっている都市部では、お墓の確保が大問題である。集団就職で都市部に移動した人が多い団塊の世代800万人が2040年代にかけて鬼籍に入り、田舎のお墓を他の近親者が継ぐのであれば、現在住む都市の近くでお墓を購入することになる。

ところが、首都圏はとっくに公営墓地の空きがない。民間の墓地は、抽選の上に永代供養料は200万円とも300万円以上ともいわれ、墓石の購入も必要なため経済的負担が重くのしかかる。そこでいま、注目されているのが一般的なお墓以外の形態だ。



『第13回お墓の消費者全国実態調査』(2022年/鎌倉新書)によると、購入したお墓の種類は「樹木葬」が41.5%で、3年連続のシェア1位。「一般墓石」が25.8%、「納骨堂」が23.4%と続く。平均購入価格は、「樹木葬」が69.6万円、「納骨堂」が79.4万円、「一般墓石」が158.7万円。ほかには海洋葬やデジタル葬もあり、お墓事情も多様化の時代に突入している。

日本葬送文化学会の会長・長江曜子さんは「樹木を墓石の代わりにして周りに埋葬する樹木葬が注目されはじめたのは12年ほど前で、兄弟で入る2人用、夫婦と未婚の子供が入る4人用が売れていますね。おひとり様用はまだ売れていません」と現状を教えてくれた。

各家庭の事情により一般墓石以外を選んでいる様子だが、この流れに警鐘を鳴らすのは、浄土宗の僧侶で京都・正覚寺住職でジャーナリストの鵜飼秀徳さんだ。

「樹木葬は野山に咲く木々といったイメージがよく、墓石もプレートだったりするのでコストもかからない。ところが、肝心の樹木は霊園の片隅にあることや、しだれ桜の下のドラム缶にお骨を入れた合葬の場合が多いんです。生前に現地を確認しなければ、ご自分がイメージするようには埋葬されません」

2000年から本格的に広まった墓じまい(墓石を撤去し、墓所を更地にして使用権を返却すること)にも疑問を呈す。

「自分は“墓がいらない”から撤去するというのは、自分勝手だと思います。子供が先に死ぬ場合も、孫が先に死ぬ場合もあります。その時、同じように言えるのでしょうか? 継承者がいるにも関わらず墓じまいするのも考えもので、いざその時に困るのは自分です。先祖がいるからこそ自分が存在するんです。お墓が必要になった時に入る場所がないという、想像力の欠如による墓じまいのトラブルは枚挙にいとまがありません」 (前出・鵜飼さん)

死ぬ前に人生で一番の見極め力を発揮せよ

お墓は「足りない」「墓じまい」など、これまでも問題に焦点があたっていたが、もっともセンセーショナルだったのは2022年10月下旬に北海道札幌市の納骨堂「御霊堂元町」の倒産だろう。こんな事態を予想して購入する人なんていないはずだ。

「お墓は破綻してはいけないビジネスにも関わらず、杜撰な経営だったのでしょう。納骨堂で利用期限が終われば合葬するタイプは、管理料を別途払わなくていいので購入しやすいのが利点です。

ただ、納骨堂は土地の権利ではなく、地上権を買うもの。経営が破綻したからと購入者の納骨堂の使用権は取り上げられませんが、別の会社が事業を継続するのか、税金が投入されて合葬されるのか。扱いが不透明です。

墓地の経営は公共団体・財団・宗教事業型がありますが、多死社会ではビジネスチャンスでもあります。困っているお寺に墓地経営をもちかける異業種からの参入、大手が下請けに丸投げするような目先の利益にとらわれた経営が増えることが懸念されます。“宗教法人は倒産しない”幻想を持ちがちですが、倒産は現実にありますから、契約内容をしっかり確認するという買う側の見定めが肝心です」(前出・長江さん)

さらに、長江さんは別の問題も提議する。

「65歳以上の3世代同居は10%以下です。伴侶のどちらかが亡くなった後は、ひとりで死ぬことになります。お墓があっても納骨する人がいないということになりますから、弁護士や司法書士などに死後事務委任の契約をしておくことです」

そんな死後にまつわる世界は、今後どうなっていくのだろうか?

「いずれ遺骨を全て燃やしきり、煙にするようになると思います。お墓を作りたくない、必要ないと思う人が出てきますから。核家族化がすすみ、今後は子供の有無にかかわらず、孤独死が大きな問題になります。近親者がいない場合は自治体葬になりますが、遺骨を誰がどう扱うかという話も煙になってしまえば解消します。

また、遠縁の方がいても、1回くらいしか会ったことがなければ遺骨の引取を拒みがちですし、親の遺骨であっても同じように考える人が一定数出るでしょうから、煙にすることを選ぶと思います。相互扶助の精神が失われた、個人主義で薄情な世の中になりつつありますね」(鵜飼さん)

なんとも切ない話だが、家族だけでなく、自分自身を見送るのにも相応な準備が必要な時代ということなのだろう。

取材・文・撮影/Naviee

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