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ゼロコロナ施策への反発もかつての中国ならあり得なかった…映画から見えてくる中国の改革開放30年。『シャドウプレイ【完全版】』ついに日本公開

集英社オンライン / 2023年1月19日 10時1分

ゼロコロナ政策への反発から、共産党首脳部への抗議運動にさらされている中国の習近平政権。こうした全国規模による表だった運動は、過去の中国においては決して起り得なかった。批判を抑え込む従来型から、ある程度、自由なもの言いを認める路線へとシフトせざるを得なくなっている中国の政権運営を、映画から読み解いていく。

素朴で力強いイメージだった1980年代の中国映画

『紅いコーリャン』
Mary Evans/amanaimages

中国映画界に新しい潮流が見えはじめた1980年代以降。チェン・カイコー(陳凱歌)、チャン・イーモウ(張芸謀)、ティエン・チュアンチュアン(田壮壮)ら、中国映画第5世代と言われる作家たちの作品は、洗練という言葉とは真逆の、素朴で力強い原石の輝きこそがその魅力だったように思う。



チェン・カイコーの『黄色い大地』(1984)しかり、チャン・イーモウの『紅いコーリャン』(1987)しかり。だが、ティエン・チュアンチュアンの『青い凧』(1993)が中国国内で上映禁止措置を受け、監督が10年間の映画撮影禁止を命じられたことに象徴されるように、その内容が、文化大革命のような中国の黒歴史に対して、ちょっとでも批判的な眼差しを持つと容赦なく潰される時代だった。

一方、同じ時期の香港映画界は、それまでのクンフー映画やジャッキー・チェンのアクション・コメディなどのお決まりの路線に加えて、ジョン・ウー(呉宇森)の『男たちの挽歌』(1986)のような、国際的に通用する“香港ノワール”や、主演のアンソニー・ウォンの名を一躍知らしめた『八仙飯店之人肉饅頭』(1993)のように、内容の良し悪しは別として、圧倒的なパワーで世界中にファンを獲得していった。

その後、チェン・カイコーもチャン・イーモウもジョン・ウーも、みな海外での仕事やハリウッドスターを起用しての仕事を経験。国際的に通用する映画作りのノウハウを会得したのち、中国映画界へと戻っていく。

1997年の香港の中国への返還によって、一時は香港映画人の海外への流出が危惧されたものの、結果的には香港映画界と中国映画界の融和が促進される形に。中国映画界は香港映画が培ってきたノウハウや人材をも取り込んで新たな時代へと突入した。

改革開放路線の中での中国映画界の急成長

『さらば、わが愛/覇王別姫』
Everett Collection/アフロ

中国の改革開放政策は鄧小平の指導の下、文化大革命で疲弊した国内経済を立て直すために1980年代を通じて進められた。1989年の天安門事件で一時停滞を余儀なくされたものの、新たな党総書記に抜擢された江沢民の指導の下、「社会主義市場経済」導入という思い切った舵取りで経済発展に邁進。江沢民が国家主席に就任した1993年以降は、大国への道をひた走っていった。

アメリカから帰国したチェン・カイコーの『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993)がカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞を始めとする国際的成功を収めたのは、まさに中国の大国化への道のりと軌を一にしていた。文化大革命により多くのものを失う主人公を描いても、神経質になって国内上映禁止にしたりしなかったのは、国家としての余裕が中国に生まれていたからだろう。

そして、ジョン・ウー監督の『レッド・クリフ Part I/Part II』(2008/2009)が中国・アメリカ・香港・日本・韓国・台湾合作という枠組みで製作されて大ヒット。ハリウッド映画に一歩も引けを取らないVFX技術、そして大陸的なスケールの大きさを持つ中国映画が、ハリウッド映画に太刀打ちできる可能性が示された。

ジョン・ウー監督の続く『The Crossing ―ザ・クロッシング― Part I/Part II』(2014/2015)では、日中戦争後の内戦の劇化、中華民国政府が台湾へと撤退を余儀なくされる歴史を真正面から描いた。

敗れて台湾へと逃れていく者たちの視点で物語を描くことが許容された背景には、2010年代に入ってからの中国国内における蒋介石復権ムード、そして“ひとつの中国”を唯一の公式な立場として死守したい習近平政権(2013年より国家主席)の立場を支持する枠内での物語だったからに外ならない。

立ち位置さえ守っていれば何を描いてもOK?

製作から5年を経て、ようやく2021年に日本で劇場公開となったチェン・アル(程耳)監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』(2016)は、チャイニーズ・マフィアの興亡を描いたドラマ。『ゴッドファーザー』(1972)や『ワンス・アポン・ア・タイムン・アメリカ』(1984)の中国映画版といったおもむきの傑作だ。もちろん、中国社会の闇の歴史などは、かつての中国映画界ではとても描くことを許されなかったテーマだ。

2020年に公開されたティエン・チュアンチュアン製作、その弟子に当たる女性監督パイ・シュエ(白雪)による『The Crossing ~香港と大陸をまたぐ少女~』(2020)は、親友と一緒に日本へ旅行するためのお金を稼ごうと、危険なバイトに手を染めてしまう女子高生を描いた青春ドラマ。個人的にはその年の外国映画ベスト作品だった。

ポイントは、ヒロインの住んでいる場所が香港と接する大陸側の都市・深圳で、香港の高校に越境通学しているという設定。そして彼女が深みにはまっていくのが、新型iPhoneを香港から大陸へ密輸するバイトだったということ。

つまりこの作品は、青春ドラマであると同時に、大陸側と香港との経済格差や、中国側に否応なく取り込まれていくプロセスの最中にある、香港の闇のビジネスといった極めて今日的なテーマを扱っているのがミソだった。

発展していく社会があれば、当然その裏には個人的にリッチになりたい人々の欲望がある。そんな当たり前の現実を描く犯罪映画であっても、今の中国映画界では全然OKなのだ。唯一、“ひとつの中国”の原則さえきちんと踏まえていれば、だ。

台湾を物語の一部として描く=台湾は中国の一部であるという立場

『シャドウプレイ【完全版】』
©DREAM FACTORY, Travis Wei

さて、この10年ほど、これまで挙げたような作品に接するたびに「中国映画もここまで来たか!」と感じてきたのだが、1月20日公開の『シャドウプレイ【完全版】』(2018)を見て、またまたその想いを強くした。

監督したロウ・イエ(婁燁)は、中国映画界では第六世代に入るベテランで、本作が第10作目。中国初のインディーズ映画製作会社ドリーム・ファクトリーを設立した人物でもある。

これまでにも中国ではいまだタブー視される同性愛をテーマとした『スプリング・フィーバー』(2009)など、掟破りな作品を手掛けてきたが、天安門事件を扱った『天安門、恋人たち』(2006)がカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映された際には、中国当局から5年間の映画製作・上映禁止処分を受けている。文化大革命ならば許容されても、天安門事件はさすがにまだ早すぎたということだろうか。

『シャドウプレイ』は、広州の都市再開発でビジネス街の中に取り残された洗村という一角で、2010年に実際に起きた暴動がベースになっている。1980年代の改革開放、90年代の社会主義市場経済の導入、そして2000年に入って訪れたバブルによって、人々がリッチになる欲望に突き動かされるという、まさに今日的な主題の作品。

不動産王ジャン(秦昊/チン・ハオ)らが犯罪に手を染めていく様子、そして結果として起きた二つの殺人事件を解明しようとする若手刑事ヤン(井柏然/ジン・ボーラン)の捜査の成り行きを描いており、理屈抜きでおもしろい!

現代中国社会の負の側面を真正面から描く本作は、以前の中国では絶対に許可されなかったはずだ。ところが本作では、犯罪に手を染める不動産王ジャンが、初めて成功を掴んだ場所を台湾とし、台湾での経済的成功を中国大陸の発展の呼び水として描いている。

さらに、罠にはめられた刑事ヤンがほとぼりを覚ますべく潜伏し、ジャンの娘ヌオ(馬思純/マー・スーチュン)と接触を持つ場所が、香港となっている。このことで“ひとつの中国”の原則を支持する設定となっていることが重要だ。

中国国内で上映を許されている意味

もちろん、制度としての検閲は存在する。同時上映される本作のメイキング『夢の裏側』(2019)に描かれているように、中国国内での公開までにはロウ・イエ監督と当局(北京市新聞出版広電局映画部)との間で、撮影・ポストプロダクション終了後に1年7か月にも及ぶ攻防が繰り広げられている。

性描写・暴力描写に加えて思想にも及ぶのが中国の検閲の特徴だが、検閲を行なう現場担当官は、電影法に基づかない検閲意見を押し付けようとし、監督側はそれと戦うために映画製作以上の労力を費やさざるを得ない。

それでも、である。作品そのものが中国国内公開禁止とならなかった点が重要に思える。日本公開の129分版に対して、中国国内で公開されたバージョンは5分短くせざるを得なかったという(特に、民衆の暴動とそれに対する弾圧シーンは丸ごとカットすることを要求された)。

とはいえ、中国映画界でこういうテーマの作品が製作され得たということ、そして本作が最初に上映された台湾で、第55回台湾金馬奨監督賞ほか4部門を受賞、その勲章を引っ提げて中国国内でも上映されたという事実は、一昔前では考えられないことのように思えるのだ。

その当時の台湾では、大陸寄りの姿勢が明確だった馬英九総統からアメリカ寄りの蔡英文総統に代替わりしていた。ところが、自信満々に大国への道をひた走る中国に対して、蔡英文総統は2022年11月の統一地方選挙での敗北を受けて、党主席の座を辞任。中台関係が今後どのような方向へ向かうのかは予断を許さない。

だからこそ、映画というメディアの中ではひと足先に“ひとつの中国”が疑似的に達成されたかのように、その原則がことさらに強調されているのではないだろうか。

©DREAM FACTORY, Travis Wei

©DREAM FACTORY, Travis Wei

©DREAM FACTORY, Travis Wei

©DREAM FACTORY, Travis Wei

©DREAM FACTORY, Travis Wei

文/谷川建司

『シャドウプレイ【完全版】』(2018)風中有朵雨做的雲 上映時間:2時間9分/中国

2013年、広州の再開発地区で立ち退き賠償をめぐって住民の暴動が起こったその日、開発責任者のタン(チャン・ソンウェン)が屋上から転落死する。事故か他殺か、捜査に乗り出した若手刑事のヤン(ジン・ボーラン)は、捜査線上に浮かぶ不動産開発会社の社長ジャン(チン・ハオ)の過去をたどる。その過程で見えてきたのは、ジャンのビジネスパートナーだった台湾人アユン(ミシェル・チェン)の失踪事件。転落死と失踪、2つの事件を生んだ愛憎の根本は、ジャンと死亡したタン、タンの妻のリン(ソン・ジア)が出会った1989年、まさに天安門事件が起きた年だった……。

1 月 20 日(金)より新宿 K’s cinema、池袋シネマ・ロサ、UPLINK 吉祥寺ほか全国順次公開

配給:アップリンク
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/shadowplay/index.html
©DREAM FACTORY, Travis Wei

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