「美由紀と出会って本当の愛を知った」獄中死した上田美由紀死刑囚はなぜ地元新聞記者を虜にできたのか。スナックで2~3度ついたら男女の関係を許す驚きの寝技。“毒婦”木嶋佳苗との不思議な共通点と類似点
集英社オンライン / 2023年1月18日 11時1分
刑の執行を待つ身だった上田美由紀死刑囚が1月14日、獄中で食べ物を喉につまらせ息を引き取った。2件の強盗殺人に関与したとされているが、彼女の身の回りではその他4件の不審死が……。本稿では一連の不審死の“最初の被害者”とされる新聞記者と、上田死刑囚の関係を振り返る。
事件を担当した記者が当時を振り返る
上田美由紀死刑囚が死んだ。2009年に発覚した鳥取県の連続不審死事件の犯人として死刑が確定し、執行を待つ広島拘置所で食事を喉に詰まらせ、窒息死した。
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獄中死した上田美由紀死刑囚
14年近くも囚われ、49歳になっていた彼女に訪れた突然の最期の姿というのが、頭の中で像を結ばない。そして、自らの欲望を満たすために、ブルドーザーのように地面ごと獲物をこそげ取っていくようなえげつない手法に戦慄した感覚が、当時の取材メモを読み返すうちに蘇ってきた。
“毒婦”木嶋佳苗との不思議な共通点と類似点
2009年11月2日、鳥取県警が上田美由紀を当時、同居していた男とともに詐欺容疑で逮捕、背後で関係者が何人も不審死していた事実がわかると「またか」という衝撃が全国に走った。ちょうどその1か月ほど前に首都圏連続不審死事件と関係があるとみられる木嶋佳苗死刑囚(48)を埼玉県警が詐欺容疑で逮捕し、殺人容疑での立件に注目が集まっていたからだ。
両事件とも、明らかになった不審死の被害者は6人ずつで、ともに確定死刑囚となった女性2人には、「巨躯」で同年代という共通点はある。
しかし、婚活サイトを物色して目立たない獲物から金を騙し取っては煉炭自殺に見せかけて葬り、次の獲物に乗り換えていったセレブ気取りの「佳苗」に対し、「美由紀」は水商売の現場で社会の荒波に揉まれた妻子持ちの男を骨抜きにし、家庭もろとも破壊したうえに絶命に至らしめた。そのやり口は狡猾で獰猛な恐竜を彷彿とさせる。
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事件前に2度の結婚と離婚を経験している
結果的に「美由紀」は2009年4月と10月に起きた2件の強盗殺人の罪に問われ、最高裁まで争った末に2017年8月に死刑が確定した。しかし、それ以前に籠絡した新聞記者と刑事をともに凄絶死させながらも、それらが「自殺」扱いとなった成功体験が、彼女のモンスターぶりに拍車をかけたのではなかろうか。
「自殺」扱いとなった記者と刑事、強盗殺人で立件された2人、そして「事故死」と「病死」で処理された合計6人の男性が、金銭トラブルの末に非業の死を遂げていたのだ。
この頃すでに事件記者としてベテランの領域に差し掛かっていた筆者にとっても、この事件は滑り出しから異様だった。当時、旧知の地元記者に電話してみると、驚くような答えが返ってきた。
スナック取材で見えてきた上田美由紀という女
「不審死を遂げているのは一人や二人ではない。その中には大手新聞社の記者もいて、その女に入れ込んでからというもの、方々から金を借りまくるようになって、他社の記者だけじゃなく副知事とか県の幹部にまで頭を下げるようなありさまだった」
妻子もあったという記者がそこまで入れ込むからには、よほど美貌の女性なのか。その問いに返ってきたのは。
「いやあ。少なくとも俺には全く理解できんな。とにかく女が働いていたスナックに行った方がいいよ。結構なことがわかるみたいで、めちゃくちゃ盛り上がってるらしい」
はたして空路で急行した鳥取市の鳥取駅近くの繁華街にあるスナック「J」(仮名)を訪れると、衝撃は想像のはるか上だった。齢70を優に超えたママに、還暦オーバーのチーママをはじめ、ふくよかで貫禄のあるレディーたちが語る「美由紀」と取り巻きの男たちが織り成す物語を聞いていると、地獄と天国の境目のない魔窟に閉じ込められたような感覚にとらわれた。
「美由紀」は身長約150センチで体重70キロ超、写真のような容姿である。
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この女性が次々と男を落としていく…
少なくとも「最初」の被害者とみられているのは、2004年5月13日夜、鳥取市内を走る特急「スーパーはくと」に轢かれて即死した大手新聞社鳥取支局員のAさん(当時40代)だ。
Aさんは長崎県出身で、高卒後に速記記者として採用されたが、関西地方や中国地方の支局などで記者として経験を積んだ。1999年に赴任した鳥取支局では大黒柱の県政を任され、後輩の指導にも熱心だったという。当時の同僚は、こう証言した。
愛人の「自殺」で上田死刑囚のとった不思議な行動
「毎日夜遅くまで支局で仕事をしていました。奥さんも美人で、『明日は子供の運動会なんや』と嬉しそうにしている姿など、子煩悩で真面目な印象しかなかった。ところが美由紀と付き合うようになってからは、突然支局からいなくなったり、明らかに仕事に身が入らなくなっていました」
当時、「美由紀」は「H」(仮称)という別のスナックに勤めており、Aさんはそこに通い詰めていたらしい。すでに「美由紀」には3人の子供がおり、Aさんは「金のかかる子持ち女につかまった」と周囲にこぼしていた。
死ぬ直前には「美由紀」と同棲するようになり、金策も露骨を極めた。支局内では支局長、デスクに次ぐ三席というポストにあり、年収も軽く一千万円を超えていたとみられるが「理由は聞かず、とにかくカネを貸してくれ」と同僚や他社の記者、県議や県庁職員にまで片っ端から借りまくる姿が目撃されていた。
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上田死刑囚は最終的には5人の子宝に恵まれた
その末のAさんの「自殺」には不可解な点がいくつもあった。特急に轢かれる際に頭から被っていた段ボールに遺書めいた走り書きがあったのだ。
<美由紀に出会えてよかった。美由紀と出会って本当の愛を知った>
一方、「美由紀」は偽装工作めいた不自然な行動をしていた。県警に捜索願いを出したその足で、鳥取支局を訪れてこんなことを言っていたのだ。
「お父ちゃん(Aさん)がいなくなった。私と喧嘩して飛び出していった」
Aさんが列車に轢かれたのは、ちょうどその時間帯だった。喧嘩した相手のことをのろけるような遺書を残して自殺するのも、いなくなった当日に捜索願いを出すのも妙に芝居がかっている。
鳥取市内で行われた通夜と葬儀でも、「美由紀」はAさんの本妻を差し置いて、喪主を務めている。前出のスナック「J」のママが言う。
「Aさんが亡くなったとき、美由紀はお腹が大きくて『一番好きな人が自殺した。喪主は本妻には渡さなかった』と言っていた。そのときの子がAさんの子だという確証はないけどね」
嘘に嘘を重ねてカネを貢がせ続け…
Aさんの後も、男出入りが絶えなかった。
「美由紀はお客さんの隣に2〜3回付いただけですぐ男女の関係になって、カネを引っ張る寝技がうまいのよ。Aさんからは2000万円ぐらい貢がせたって話よ」(「J」のホステス)
カネを引っ張る名目は、母親が入院したとか本人も病院通いで大金がかかるというでまかせだったが、Aさんは「美由紀と一緒になりたい。女房と別れるにはどうしたらいいだろう」と周囲に相談するなど信じ込んでいたようだ。
しかし、本当に可哀想なのは3人の子供を抱えて一文無しで放り出されたAさんの妻だ。亡くなった当時は離婚も成立しておらず、子供を連れて母子生活支援センターに入らざるを得なかった。そのセンターは小学校区が「美由紀」の居住地と一緒で、子供同士が同じ小学校に通うことになってしまったという。
後に奥さんは郷里に戻ったというが、このエピソードを教えてくれた当時の同僚は、思い出したのか目を赤く腫らしていた。
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上田死刑囚の自宅(当時)
Aさんの「自殺」から約1か月後、「美由紀」はAさんの遺骨を手に鳥取市内の寺を訪れた。住職はその様子を鮮明に覚えていた。
「Aさんの両親と弟さんが書いたという、遺品に関する処分の委任状のようなものを持って『永代供養してほしい』とやってきた。戒名もついているし、ウソとは思わなかったので、受け入れました。
しかし、本人の生前の在り方が感じられないおかしな戒名でした。特に『幻』はこの世にほとんど痕跡を残さず亡くなった幼児につけるもので、何十年も生きて来られた方につけるものではありません」
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当初は月命日にお参りに来ていたというモンスターは、いつしか姿を見せなくなった。そして、次なる獲物に食いついたのだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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