「グ・リ・コ」
「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト」
「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル」
子どものころ、誰しもやったでやろう、じゃんけんを使ったレースゲーム。大人世代にとっては、もはやノスタルジー以外の何物でもないが、先日、記者が近所の公園の長階段を上っていると、母娘がこの遊びに興じており、令和の子どもたちの間でも“昔遊びのDNA”は脈々と受け継がれているのを微笑ましくも目撃した。
「グリコ」あるいは「じゃんけんグリコ」、その他、地域ごとなどで無数に呼称のあるこの“遊び”。
じゃんけん「パー」はパイナツプル、「チョキ」はチヨコレイト、「グー」で勝ったらなぜグリコ? ルーツを江崎グリコに聞いてみた! 戦争中は「軍艦」「ハワイ」「沈没」だったことも…
集英社オンライン / 2023年1月22日 10時1分
「グー」で勝ったら3歩、「チョキ」「パー」なら6歩(地域差あり)進み、階段のてっぺんや決められたゴール地点を目指す、じゃんけんから派生した遊び「じゃんけんグリコ」。そのルーツや変遷に迫る。
令和の子どもにも親しまれる遊び「グリコ」
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「チョコレート」と「パイナップル」はまだわかるが、「グリコ」のみが企業名(江崎グリコ)というのはどうも少し浮いている。もしかしたら当時のグリコの戦略か⁉ それとも自然発生なのか。疑問だったので、そのルーツについて、江崎グリコに直接、問い合わせてみた。
「グリコ」は会社名ではなく…
――「じゃんけんグリコ」の発祥時期や発案者を把握している?
「明確な時期は弊社でも把握していません。ただ過去の文献を探りますと、1933年2月16日発行の大阪朝日新聞に弊社が豆文広告(イラストと小文のみのミニ広告。子どもがこれを楽しみに新聞を読むこともあったという)を出しており、そこで「東京で流行るじゃんけんの呼び方 グリコ チヨコレイト パイナツプル」と掲載されています」(江崎グリコグループ広報部・石河壮太朗さん、以下同)
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1933年2月16日発行の大阪朝日新聞に掲載された江崎グリコの豆文広告
――1933年の時点で、すでに東京でその呼び方が存在していたと。
「はい。そしてこの広告を載せたことで、全国的にも広まったのではないかなと我々は考えています」
――当時のグリコ社員が宣伝のために流行らせた可能性は……?
「一番最初に『グー』を『グリコ』としたのは誰かといったところまではわかりません。ただ、自然発生的に子どもたちがそう呼んで遊んでいたものを、遅れて弊社が把握し、それを広告として掲載し、世の中に広まったというのがひとつの見解ですね」
――なぜ子どもたちの間で「グー」から「グリコ」がチョイスされたと思いますか?
「こちらも明確な根拠はありませんが、当時からグリコのキャラメルが販売されて子どもたちから親しまれていたので、呼びやすく想像しやすく、かつグーに当てはまるものとして選ばれたのではないでしょうか。子どもたちは、おそらく企業名というよりはキャラメルの商品名だった『グリコ』を挙げていただいたんだと思います」
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当時のグリコのキャラメル
「じゃんけんグリコ」発祥当時をリアルタイムで経験している世代はなかなか見つからないとは思うが、なるべく当時に近い声を拾うため、“おばあちゃんの銀座”こと東京の巣鴨で、ご年配の方々に「グリコ」の思い出話を聞いてみた。
「軍艦」「ハワイ」「沈没」…時代によっては物騒な呼び方も
「小さいころによく遊びましたよ。遊び方はたしか近所のコに教わった気がします。昔は階段も今ほどないから普通に地面で遊んでました。男のコはヤンチャで、同じ一歩が大きいものだから、よくもめてましたね。それで地面に線を引いてマスを作って階段がわりにしてました」(東京都・81歳女性)
「懐かしいですね。私の家は川が近かったから土手の階段や、神社の階段なんかを使って遊んでました。昔はグリコキャラメルがひとつ10円くらい。頻繁には買えないけど、たまに食べるとすごくおいしかった記憶があります」(神奈川・72歳女性)
「同級生と帰り道によく遊んでました。私が子供のころにちょうどグリコの値段が上がって、たぶん20円になったと思います。私のところではパーは『パイン』でした。そのころはあまり意識していませんでしたが、たぶん『パインアメ』からきていたのでは」(千葉県・62歳女性)
そう、「じゃけんグリコ」における“パイナップル”は実は果物のことではないとの説がある。
1969年12月発行の『技術と経済』(科学技術と経済の会)の中で、児童文化研究家のかこさとし氏の発言によると、当時統治下だった台湾に本社を置く製菓会社、新高製菓(森永製菓、明治製菓、江崎グリコとともに四代菓子メーカーと呼ばれたが1971年廃業)の「新高ドロップ」で一番人気だったパイナップル味のことを指していたと説明している。
街頭アンケートで挙がった「パインアメ」とはまた種類が違うが、いずれにしても、本来は果物そのものを指していなかった可能性が高そうだ。
チョコレートについても、かこ氏によると「1年に2~3回食べられるかどうかの貴重品」だったそうで、「グリコ」「チョコレート」「パイナップル」は子どもにとって“お菓子の三種の神器”だったとしている。
ちなみに、この三種の神器が「黒兵衛」「ベティ」「ちょび助」となった時期があったそうだ(黒兵衛は『凸凹黒兵衛』という作品に登場する黒ウサギ、ベティはアメリカアニメ映画に登場する女性キャラ『ベティ・ブープ』、ちょび助は『チョビ助漫遊記』という作品のキャラクター)。
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ベティ・ブープ(『日本製ベティ・ブープ図鑑 1930‐1960―安野隆コレクション』より)
お菓子の三種の神器のように、子どもから圧倒的支持を得ることでノミネートされるのかといえばそうでもなく、太平洋戦争の戦況が激しくなると「軍艦」「ハワイ」「沈没」に、戦後は「ハロー」「ジープ」「グッドバイ」へと変化したことがあったそうだ。時代を映す鏡のような役割もあったのかもしれない。
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大槻ケンヂによる『グミ・チョコレート・パイン』という小説も
と、じゃんけん関連でいろいろ調べると、もうひとつ疑問が浮かんできた。じゃんけん前に腕をクロスさせて指を組み、顔の前に持ってきて手の中を覗くあれ。どうやら「じゃんけん覗き」と呼ぶ地域もあるらしいが、こちらもルーツなど確かなことは不明。
じゃんけんは誰でもできる単純な遊びだが、その裏には様々な謎が隠されていた。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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