発達障害をもつ人が自立的に働くためのヒントは“「苦手」への対策を自分で考える”こと
集英社オンライン / 2023年1月28日 10時1分
「通常学級に通う公立小中学校児童生徒の8・8%に発達障害の可能性がある」という文科省の調査結果が報道され大きな反響があった。しかし発達障害で困っているのは大人も同じ。大人の発達障害者が抱える困りごとやその対処法について聞いた。
先日「通常学級に通う公立小中学校児童生徒の8・8%に発達障害の可能性がある」という文科省の調査結果が報道された。8.8%という数字に驚いた方も多いのではないだろうか。
発達障害で悩んでいるのは子どもだけではなく、大人の発達障害者も子どもと同様の割合で存在していると考えられる。大人の発達障害者は支援の必要性を第三者に指摘される機会が少なく、生きづらさを一人で抱え込む方が多いという。
そこで発達障害者がビジネススキルを学べる「キズキビジネスカレッジ」の林田絵美さんと長谷川倫子さんに、社会に出た発達障害者が抱える困りごとや、それに対する対処法について伺った。
工場勤務からスキルを活かせる会社へ転職、笑顔を取り戻した利用者
——発達障害の特性により苦しんでいた人が、自分の適性を知って能力を活かせるようになった事例はありますか?
長谷川 適職を見つけていきいきと働けるようになったといえば、Aさんという方の事例があります。
Aさんは対人コミュニケーションを苦手としていましたが、社会に出てからずっと、体育会系の社風で社員同士の会話も多い工場で働いていました。自分には合わない環境で無理をして働いていたため、Aさんがキズキビジネスカレッジに来たときは、人間不信のような状態に陥っていました。
さっそく面談を実施すると、コミュニケーションが多い環境よりも少ない環境が向いていること、興味があることを黙々と続けることが得意だと判明。そこでAさんには、プログラミングを学べる講座を受講していただきました。
最終的にはプログラミングスキルを活かせる企業に就職して、本来の明るさを取り戻したんですよ。当初の姿とは打って変わっていきいきとして、笑顔も見られるようになりました。
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サービス管理責任者 長谷川倫美さん。初回の面談や講座後など、利用者と会話する機会は多い
——Aさんに合う職場はすぐに見つかったのですか?
長谷川 実は最初に配属された業務は彼には合っていなかったのですが、企業に働きかけたところ、彼に合う業務の担当に変更してくれたのです。現在はデータベース管理ソフト「Access」のVBA(複雑な処理の自動化などを行うプログラム)を構築する部署で、さまざまな配慮を受けながら活躍しています。
林田 自分の適性がわからずに苦しんでいた方が、適職を見つけて活躍する姿を見ると、自分のことのように嬉しくなりますね。Aさんの他にも、米国大手企業のアナリストとして就職した方や、グローバル会計ファームの人事アシスタントになった方、米国のクラウドサービス企業で翻訳職に就いた方などもいますよ。
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キズキビジネスカレッジの就労支援実績。出典:キズキビジネスカレッジ公式サイト
専門スキルからビジネスシーン理解、睡眠まで。
発達障害の特性を考慮した講座がずらり
——キズキビジネスカレッジで身につくスキルを具体的に教えてください。
長谷川 現在、ビジネススキルを学べる講座と、身につけた知識やスキルを使いこなすための実践的なプロフェッショナルコースを開設しています。
林田 講座の内容は座学だけでなく、実践的なトレーニングも行います。例えばWebライティングの講座では、実際にWebサイトに掲載する文章を書く機会を設けています。
また先日は、動画編集コースの利用者に、採用広報用に撮影した動画を編集してもらいました。座学で知識をインプットするだけでなく、講座の中でアウトプットしながら学んだことを身につけてもらえるよう工夫しています。
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Webライティング講座の様子
——発達障害ならではの困りごとの対処法も学べますか?
長谷川 もちろん用意しています。また、体調不良や気分が乗らずに休むことが多い方には、在宅利用の提案を行い、eラーニングでの学びなどフォローできる体制を整え、目標とする就業時期に合わせて学んでいけるようサポートしていますよ。
林田 例えば「ビジネスシーン失敗回避術」は、状況に適したコミュニケーションの方法を学ぶことで、ビジネスシーンでの失敗を回避するための講座です。
発達障害者にはコミュニケーションが苦手な方も比較的多いですが、思ったことを言語化するのに時間がかかる人もいれば、相手への“伝わり方”を考えずに、思ったことをすぐに口にしてしまう方もいるなど、困りごとは多様です。そういった方々が、さまざまな事例から円滑なビジネスコミュニケーション術を学んでいます。
例えば「Web制作会社にホームページの制作を依頼中。最初は問題なく進んでいたが、あるとき担当者が変わってから業務が滞るようになった。どうすればよいか」というケースがあったら、まずは「円滑なコミュニケーションを取りにくい行動」について皆さんに発表してもらいます。
次に行動パターンを細かく分解して説明し、そのパターンを学んで適切な対応を知っていくことで、実際のビジネスシーンでも失敗を回避できるようになるのです。
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「ビジネスシーン失敗回避術」講座の資料(一部抜粋)
長谷川 企業の新卒研修などでは、こうした対応について「相手の目線になって考えましょう」などフワッとした指導が多いのですが、発達障害の方には伝わりにくいです。だから私たちは「相手はどう思うのか」「なぜそうしなければならないのか」という目的をお話ししながら、具体的なパターンをお伝えするようにしています。
——睡眠の講座もあるようですが、どのようなことが学べるのでしょうか。
林田 発達障害の方の多くは睡眠に問題を抱えている方が多いので、協力医療機関の睡眠の専門医に講座を提供してもらっています。実は日中の体調不良は、睡眠に起因していることが多いので、受講して初めて「日中に眠くなるのは睡眠をきちんととれていなかったからなんだ!」と気づく方も少なくありません。
発達障害・グレーゾーンで悩む人が、
業務や人間関係を円滑化する方法
——発達障害の特性によって業務を思うように遂行できない人が、会社で周囲に理解と合理的配慮を求めることは可能なのでしょうか?
林田 少なくとも障害者雇用の場合は、企業側の義務になっているので可能です。でも最初から「苦手なことがあるから配慮してよ」と、周囲に理解を求めることから始めると、周りからの協力が得にくいと思います。
大前提としては、自分の苦手なことを把握して、その対策を自分で見つけていく必要があると考えています。
もし電話対応が苦手なら、電話対応のどこが苦手なのかを自分で考えます。
そして「(過集中傾向のある人が)作業に集中している最中に突然電話が鳴り、いったん作業を中断して電話対応するのが苦手で、日中ずっとそわそわしてしまう。予定された電話や対人コミュニケーションなら問題ない」とわかったら、電話対応を伴う業務の代わりに、ある程度まとまった時間に一人で作業に集中できる業務を担当できないか相談するなど、合理的配慮を求めるとよいのではないでしょうか。
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取締役 林田絵美さん。自身も発達障害の当事者だ
——発達障害であることを同僚や上司に告げたほうがよいのでしょうか。
林田 発達障害について周囲に打ち明けるかどうかは、本人の考え方や周囲の状況によっても異なりますが「一人に言ったから、残りの全員に言わないといけない」とも限らないです。
「人事担当者だけに知らせておく」「人事担当者と直属の上司だけに知ってもらう」「信頼している同僚にも話す」など、さまざまなパターンが考えられますね。
長谷川 その方がその会社でどう働いていきたいかによっても、判断が変わってくると思います。体調を崩さず長く安定して働きたいなら、同僚にも伝えておいたほうが、体調不良時の休暇取得につついて相談しやすかったり、仕事を調整してもらうなどの配慮を受けやすくなったりします。
——発達障害をもつ方には、その人ならではの強みもあると思います。お二人は「強み」についてどのようにお考えですか。またその強みを、どのように活かしていけばよいでしょうか。
林田 私も発達障害の当事者なのですが、発達障害は「何かが極端であること」が多いです。例えば極端な白黒思考の傾向がある人は、「曖昧さを許容することが苦手」ともいえれば「常に物事をはっきりと考えることが得意」ともいえます。
つまりその「極端」な部分は、自分自身にとって「困難」になることもあれば「強み」になることもあるということです。
とはいえ、いきなり「強み」を見つけにいくのもなかなか難しいことかもしれません。まずは働き方・職種・企業文化など様々な切り口で、自分の特性との相性の良し悪しを分析してみることで、最終的に「強み」の活かし方を見つけられるのではないかと思います。
長谷川 発達障害の方の中には、秀でていることがあってもそれを活かせない環境にいるために、ネガティブな状態になってしまった方がいると感じます。合わない環境で、毎日のように「なんでそんなこともできないの!」と叱責されてばかりでは、萎縮して当然ですよね。
しかし強みを活かせる場所に巡り会えたら、大きく変化できると思います。まずは自分を客観視して、自分の強みを活かせる環境、企業を探求してみてはどうでしょうか。
取材・文/綾瀬ゆうこ
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