平成後期の不倫ドラマのキーワードは「男性の軟弱化」と「近所のスーパーにも落ちているくらい身近な恋」だった
集英社オンライン / 2023年1月26日 12時1分
いつの時代も色恋沙汰は、多くの人の興味を引き付ける。平成ドラマでは不倫を筆頭とする非日常的な恋愛ものの放送が多かった。ドラマそのものの表現が自由だった平成ドラマを『ベスト・オブ・平成ドラマ!』の著者・小林久乃が“不倫”をテーマに振り返る。
悲恋物語を経て、ハッピーエンドが目立つ
平成後期の不倫ドラマを振り返る
拙著『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)では「ドラマ不倫今昔」という見出しで文章を綴った。思い返すと平成は、不倫ドラマが本当に多かった。浮気は悲恋というよりは、男の勲章だったイメージが強い。
そして元号は変わり、令和となった今、放送される不倫ドラマの数は格段に減った。平成前期においては、人間関係がドロドロとした作品が多く放送されていたけれど、いつの間にかそういった作品は存在が薄くなっている。何かと多方面から揶揄が飛んでくる時代なので、減少傾向にあるのだろう。
ただどんなにコンプラが成長しようと色恋沙汰によるすったもんだは、皆の大好物であることは間違いない。それがスキャンダル、創作に関わらず、倫理に違反することとは心の甘味。では最近の不倫ドラマの傾向はどのように変化しているのだろうか?
ヒロインは盾を持つように強くなり、
恋のイニシアチブを握った
私が平成後期から現在にかけて、不倫ドラマが変わったと思う節がいくつかある。まずは「ヒロインが強くなったこと」。1998年の『スウィート・シーズン』(TBS系列)あたりまでは、既婚男性を好きになる独身女性が、愛する彼になかなか会うことができず、ひっそりと泣いていた。
それが2010年放送の『セカンドバージン』(NHK総合)での、ヒロインの中村るい(鈴木京香)は簡単には泣かない。不慮の事件に巻き込まれて、愛する相手が亡くなっても「仕事をしよう!」と奮起していた。そう、女性が仕事を持つことに誇りと生きがいを持つようになったことが影響を及ぼしている。
令和に放送された『恋する母たち』(TBS系列・2020年)では、母たち全員が自立していた。特に林優子(吉田羊)は年下の部下と結ばれて、夫と離婚をしても生活に支障はなし……というところが格好良さに拍車をかけた。
『シジュウカラ』(テレビ東京系列・2022年)も、漫画家の才能を伸ばして、面倒な夫を捨てて自立していくヒロイン・綿貫忍(山口紗弥加)がいた。夫以外に好きになった相手は20才近く年下のアシスタント。少し前までは、女性が地位と名誉を持って仕事をして、年下の男性と恋に落ちると「いつか捨てられるよ」「すぐに若い女のほうがよくなっちゃうから」と噂されることが多かった。もうそんな噂もどこ吹く風の時代が来ている。恋愛を放棄するのは女性側だ。
禁断の恋の沼入りした男たちはいとも簡単に泣くように
ドラマを見ていて「うわ〜」とムズムズするようになったのが「不倫男性の軟弱化」が顕著に見られたことだった。女性側がめきめきと強くなったと思ったら、男性側はいつの間にか乙女ぶって、ずるさを見せつけるようになっているではないか。
『東京タラレバ娘』(日本テレビ系列・2017年)は不倫ドラマではないけれど、ヒロイン三人のうちの鳥居小雪(大島優子)が、既婚者、丸井良男(田中圭)と恋仲になってしまう。相手は妻が妊娠中という、もはやデフォルトになりつつある不倫設定だ。
丸井が妻の急変に駆けつける様子を見て、別れを決意する小雪。「(別れるなんて)いやだよ……」とすがる丸井。いい感じのクズっぷりを田中圭が好演していた。
『あなたのことはそれほど』(TBS系列・2017年)では、有島光軌(鈴木伸之)はまるで子どものいたずらのように浮気をして、妻も恋人も捨てられない。前出の『シジュウカラ』の夫もそうだった。綿貫忍よりもひと回り年上の、団塊世代ベビーは当たり前のように家事もしないし、妻は自分の家政婦状態。それが妻の自立と恋によって捨てられそうになると、未練タラタラで「別れたくない」と忍に懇願していた。かつては自分も浮気をしていたのに。
書いているだけで呆れてくるけれど、この夫のクズっぷりもドラマにハッピーエンドをもたらすようになった理由のひとつだと思う。昭和、平成前期の不倫ドラマは最終的に離婚だ、慰謝料だ、逃亡だと悲劇的な終焉がほとんどだったのだから。
平成から令和へ。
不倫はスーパーにも落ちているライトなお遊びに
不倫ドラマに革命をもたらした作品といえば、『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系列・2014年)だ。主演女優が上戸彩という時点で「清純イメージ刷新だろうか」と驚いたけれど、本編は斬新だった。
「不倫は近所のスーパーにも落ちているかもしれない」という幻想を見せてくれたのだ。
笹本紗和(上戸)はキャリアウーマンでもセレブ妻でもない、スーパーのパート店員。優しいけれど煮えきれない夫に不満を抱えながら、普通の生活をやり過ごす。そんな平凡な主婦だったのに、ある日落ちてしまった恋に生活もすべて捧げて、ついにはともに逃げようとする。
このくだりはかつての不倫ドラマを彷彿させるけれど、視聴者の心をブスブスと刺したのはヒロインがスーパーのパートタイマーだったという親近感であり、共感だった。このドラマの放送以降から私の周囲でも不倫をする人間が急増した。
最終的にドラマのようにドラマティック且つ、ハッピーエンドで終わるかといえば、彼女たちの様子を見ているとそうでもない。浮気が夫に見つかると事態修復には時間もかかっているし、そのまま離婚していく夫婦も何組も見送った。
ここはやはり、現実の不倫には踏み切らず、放送本数こそ少なくなっているけれど、ドラマを見て完結してみるのが得策ではなかろうか。
文/小林久乃
『ベスト・オブ・平成ドラマ!』
小林久乃
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/01/24015002746112/400/2636_001.jpg)
2022年12月16日
1650円
240ページ
978-4413232869
今、世代を超えた“平成レトロブーム”到来!純粋ラブストーリー、昼ドラ&昼メロ、ストーカー愛、月9作品…知れば笑いと涙が止まらない!平成ドラマをもっと楽しく観る方法、教えます!サブスクで観られる⁉今観るから新しくて面白い厳選作品リスト付き。
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