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「家族だから遠慮は無用は間違い」「あなたの流儀はあなたの家で」…“ダメな嫁”を嘆く姑を出久根達郎、高峰秀子、大森一樹が叱責

集英社オンライン / 2023年1月26日 10時1分

おそらく太古の昔から続いている「嫁姑」の対立。そこには、人間関係の難しさが凝縮されている。「息子の嫁」を嘆き、非難する母たちは、いずれも自分に「正義」があると信じて疑っていない。そんな相談者を出久根達郎、高峰秀子、大森一樹が厳しく叱責する。「嫌いな相手」や「憎い相手」がいるすべての人は、我が身に置き換えつつ耳を傾けてみよう。

「自分は被害者」と思ったときは、自分に都合良く考えていないか

1993年に『佃島ふたり書房』で直木賞を受賞した出久根達郎さん。当時は古書店の店主でもありました。以後、多くの小説やエッセイを発表しつつ、人生相談の回答者としても活躍しています。
相談者は50代の女性。長男夫婦と孫が、車で約20分のところに住んでいます。平均して週2回ほど訪ねていたところ、長男の妻に「来るときは、せめて前日に連絡してほしい。それに、週に二度も三度も来るのはつらい」と言われてしまいました。



ショックを受けて友人に話したところ「自分の娘の姑があなたみたいだったら、離婚させるわ」と言われたとか。家族だからアポなしで行くのは当然だと憤る相談者に対して、出久根さんは「私もお嫁さんやご友人と同じ意見です」と前置きしつつ、こう諭します。

〈お嫁さんの立場になって考えてみて下さい。何の予告もなしに訪ねられたら、弱ってしまいます。家族だから遠慮は無用、という考え方がおかしいので、どんな親しい仲にも、礼儀と遠慮がなくてはいけないと思います。(中略)何も来るな、と拒んでいるわけではない。あらかじめ連絡を下さい、というのですから、その通りになさったらよいでしょう。よくできたお嫁さんだと思います。こんなことで嫌ってはいけません〉
※初出:読売新聞の連載「人生案内」(2003年1月~2014年12月)。引用:出久根達郎著『人生案内‐出久根達郎が答える366の悩み』(白水社、2015年刊)

相談者の主張やお嫁さんへの憤りは、極めて自分勝手で理不尽なものにしか見えません。しかし、相談者は「実の娘のように思っていただけにショックでした」「ご近所の方は、毎日のように嫁いだ娘さん宅を訪れ、うらやましいです」などと、自分は被害者だと懸命に訴えます。
人はいかに自分に都合よく物事を解釈してしまうか、いかに他人の気持ちや迷惑を想像することが苦手か、まざまざと思い知らせてくれる事例だと言えるでしょう。

続いては「週に一度しか洗濯しない嫁が腹立たしくて病気になりそう」という61歳の主婦からの相談です。答えるのは、昭和を代表する大女優のひとりでありエッセイストとしても活躍した高峰秀子さん。2010年に86歳で世を去りました。

相談者は「スープの冷めない」距離に、長男夫婦と小学高学年の孫二人が住んでいます。「私ども夫婦とは、仲良く暮らしております」と言いつつ、洗濯の回数の少なさを厳しく非難せずにいられません。注意をしてもあらためようとしないと嘆く相談者に、高峰さんは穏やかな口調を保ちつつ、暗に「大きなお世話だ」と伝えます。

〈「ないものねだり」という人間のわがままは、どんなとき発生するのか? それは、あまりに平和で幸せな生活になれすぎた場合に起きるのだと、私は思っています。あなたの悩みとやらもいささかそれに近いにおいがするのですが……。ご長男の家と「仲良く暮らしております」という口の下からお嫁さんへの不満が頭をもたげてくるのが、その証拠ですね。(中略)つまりあなたにはカンケイないのですから、そんなことで悩んで病気になってはつまらないではありませんか。あなたの流儀はあなたの家でのみ通用させることですね〉
※初出:青木雨彦・高峰秀子著『雨彦・秀子のさわやか人生案内――悩むだけでは生きられない』(三笠書房、1987年刊)。引用:高峰秀子著『高峰秀子の人生相談』(河出書房新社、2015年刊)

「洗濯をしようとしまいと家庭が円満ならばけっこうなこと」とも。
相談者の夫は「あちらの家庭のことはほっておけ」と言っているそうで、相談者ひとりが息子一家の洗濯のことばかり考えて嫁への不満をふくらませています。
高峰さんのおっしゃりたいことを勝手にひと言にまとめると、「よっぽどヒマなんですね」というところでしょうか。
人は、気に入らない相手の「批判できそうなポイント」を見つけると、そこをあの手この手でクローズアップして、「嫌い」という感情を増幅したがる習性を持っているようです。

3つ目は24歳の息子を持つ母親からの相談。
「結婚した直後から、金銭面は嫁がすべて握って」いて「車の修理や帰省まで、親がお金を出す始末」だと憤っています。最近は息子が「脱力感で働く意欲を失い、早く離婚したいと思っている」ものの、「嫁にその話を持ち出すと、会社に押しかけるとか上司に告げるとか言われ、息子は脅されています」とのこと。

こんな調子で息子の悲惨な境遇を切々と訴える母親の相談に答えるのは、『ヒポクラテスたち』など数多くの名作を残して2022年11月に亡くなった映画監督の大森一樹さん。息子の妻が諸悪の根源のように言っているけど、本当にそうなのかと疑問を示します。

〈妻に給料からすべてお金を差し押さえられても手も足も出ず、(中略)帰宅が遅くなるとどやされるので家庭裁判所に行く時間も作れない、あげくに、図書館に逃げ込むしかない息子さんから、物事に対処する能力、生きていくための知恵といったものをまったく感じられないのは私だけではないと思います。どうして二十四歳になるまで、それらを育てたり、学んだりする機会がなかったのでしょうか。車の修理代、帰省の費用がないからといってお金を出してあげるようなあなたの姿勢が、その機会を奪ってきたのかもしれません。だとすれば、妻との関係を解消しても、息子さんの人生の解決にはならないでしょう〉
※初出:読売新聞の連載「人生案内」(1997年~2000年)。引用:大森一樹著『あなたの人生案内』(平凡社、2001年刊)

最後は「息子さんの健康面を心配される前に、親である自分との関係を見直されることの方が大切だと思います」と、相談者をビシッと叱責しています。
親の過剰な心配は、とくに結婚した子どもに対する念入りな心配は、ほぼ例外なく子どもの足を引っ張るだけ。とはいえ、「息子のため」だと迷惑な自分を正当化している相談者が、そうすんなり考えや行動をあらためるとは思えません。
息子にとっては、しっかりものの妻とちゃんと向き合って家庭を築いていくことが、母親から逃れて大人になる「最後のチャンス」に見えるんですけど……。

いずれの相談も、回答者は「それはお嫁さんが悪い」とは言っていません。悩みや怒りの原因は、自分の側にあると説いています。

嫁姑に限らず、仕事の人間関係にせよ、夫婦間や友達との関係にせよ、悩みや怒りの原因は「じつは自分にある」というケースは少なくないでしょう。もちろん相手に原因があるケースも多々ありますけど、人間関係の悩みに直面したときは、胸に手を当てて自分に原因がないかを考えてみたいところ。解決の糸口が見つかったり気持ちが楽になったりなど、事態が好転するきっかけをつかめるかもしれません。

文/石原壮一郎 イラスト・マンガ/ザビエル山田

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