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3作品連続100億円突破! 映画『すずめの戸締まり』にみる新海誠の現在地と、ポスト・ジブリたり得る可能性

集英社オンライン / 2023年1月27日 16時1分

『君の名は。』『天気の子』に続き、3作品連続で興行収入100億円を突破した映画『すずめの戸締まり』。ポスト・ジブリとも目される新海誠の想像力は、なぜこんなにも多くのひとを惹きつけるのか。その魅力について、映像研究者の二人が徹底的に語る。※本記事は新海誠作品のネタバレ要素を含んでいます。未視聴の方はお気をつけください。

新海誠は『すずめの戸締まり』で“大人”になった

土居 まずお互いの新海誠との出会いから話していきたいと思います。ぼくが新海誠をちゃんと知ったのは、2007年に渋谷のシネマライズで上映されていた『秒速5センチメートル』です。
北村さんはどういう風に?

北村 実は映画館じゃなくてレンタルなんですよ、最初に見たの。注目されてる作家だったし、パッケージがやっぱり美しいじゃないですか。それで借りてみたら、今まで見たことないようなアニメーションだったので、びっくりしました。



当時、ぼくが好んで見ていたアニメーションは宮崎駿とか押井守でした。あと今敏なんかも好きでしたけど、ちょっとちがう感覚の作家が現れたなと。

2010年代の作品は映画館で見ましたが、ぼくは『言の葉の庭』が一番好きです。人物造形がいちばんできてると思うんですよ。キャラクターがちゃんと歴史性を持って生きている感じがする。
映像表現もとても美しくて、公園の緑がかった輪郭とかもすごく新鮮でしたし、京都アニメーションの劇場アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形』など、後の作品にも影響を与えていると思います。

土居 ぼくは『言の葉の庭』は観ていると結構ムズムズしてしまうところがあって、映像はすごいけど、出てくる二人が生々しくて……足をめぐるやりとりに、わーっと匂い立つ感じがあって、ちょっとおののいてしまう。『君の名は。』以前の、えぐみが取り切れる前の新海誠の真骨頂というか。

逆に『君の名は。』以降の新海誠はどんどんえぐみが取れていって、今回の『すずめの戸締まり』なんてある意味で丸くなったというか、成熟したような感じ。

北村 新海誠が大人になった感じがしますね、ついに。

北村 『すずめの戸締まり』は、序盤でダイジンという猫が草太を椅子に変えてしまうじゃないですか。それで草太がダイジンを追いかけるシーンでめちゃくちゃアップテンポなジャズが流れますよね。あれを聴いて「新海誠はこれまでとちがうことやろうとしてるんだ」と思いました。

これまでの新海誠って、いわゆるMV的な演出というか、音に映像を心地よくハメていく快楽が物語を引っ張っていたと思うんですよね。

だけど、今回は序盤にあのジャズが入ったことで、それが崩されるんですよ。個人的には50年代の日活映画を見たときの感じを思い出して(笑)。とにかく今までとちがうことをやるんだっていうメッセージを受け取りました。

北村 最後に流れるRADWIMPSの曲とかも、どちらかというとBGM的な使われ方をしていて、後ろから包み込むような感じなんですよ。それは今までの新海作品にはなかった特徴ですよね。

土居 そうそう。しかも、音楽と描かれるシーンがバチッとハマってるってわけではないんですよね。ジャズが流れるシーンとかもちょっと違和感ありますし。いい意味で洗練されていない使い方というか。ユルさやユーモア感なども包括する感じ。

慣れ親しんだ音楽も今までとちがって聴こえてくるし、映像体験にある種の生々しさを与えていると思います。

新海誠はポスト・ジブリたり得るか?

土居 音楽でいえば『魔女の宅急便』で有名な『ルージュの伝言』なんかもそのまま出てきますし、明らかにスタジオジブリへの目配せが感じられますよね。

北村 新海誠作品を観ながらジブリをこんなに意識したのは初めてですね。『ほしのこえ』もジブリっぽいんですけど、今回のは質が全然違っていて、ゴダールが映画史を引用するみたいに、あえて日本のアニメーション史に目配せしながら引用してるようなところもある。

『魔女の宅急便』はもちろん、最初に観たときの衝撃と情報量の多さは『もののけ姫』に近いものを感じましたし、異世界との境界や扉というモチーフからは『千と千尋の神隠し』を思い出しました。過去と向き合って過去を思い出す、という結末も『千と千尋』に通ずるところがあるなと。

そういったジブリ的なものへの目配せも含め、今回の作品からは「国民的アニメ作家」という責任を引き受け、日本を代表して撮ろうという気概を感じました。

なにより東日本大震災に直球で向かっていくというスタンスはすごいなと。
2016年の『君の名は。』は大震災の5年後で、まだ触れるには早いという判断だったと思うんですが、今回賛否両論あるとはいえ、直接的に震災を扱ったその意気込みはすごいな、もしかしたら新海誠にしかできないかもな、と思います。

土居 震災の取り上げ方についても、新海誠自身が「エンターテイメントとしてやる、ということに意味がある」という話をしています。

『天気の子』って『君の名は。』のヒットで得た「自分の作品でこんなにいろんな人が反応するんだ」っていう実感を前提に、賛否両論が起こるような結末を描いてやろうという風につくられた作品なんです。

「こういう作品どうですか? どう思いますか?」ってお客さんが何を読み込むかを期待して作品を出していて、その方法論が突き詰められた上で、今回、様々な入り組んだ構造を意識的に作ったんじゃないかと思います。

北村 そんな感じはありますよね、あからさまですもんね。まさにその通り議論させられてるなって(笑)。

震災をエンタメというジャンルで描くことの意味

土居 象徴的なシーンがやっぱり福島のシーンですよね。震災の当事者であるすずめとそうではない芹澤っていう2人がいて、同じ福島の双葉町の景色を見ている。同じ景色を見ていても、見てるものがちがうんですよね。見てるレイヤーがちがう。

北村 その双葉町の芹澤とのシーンが一番といっていいぐらい心に刺さりました。ぼくは2011年にちょうどアメリカに留学していて。家族は東京にいたんです。だから、もちろん震災の影響は受けてたんですけど、肌感覚としては全然わからなくて。

そういう意味でぼくは震災の当事者じゃないんですよ。当事者ではないんだけど、そのシーンで泣いてしまうんです。じゃあ、この涙っていったい何を意味してるんだろうって。

土居 今回の作品はまさに、「同じ作品を見てるけどそれぞれの人が見てるレイヤーがちがう」という構造をかなり意識的にやっている。

そういったレイヤーなんてまったく気にしないファミリー向けのムービーでもあるし、震災の表象でもあるし。海外から見たら日本的なものを入れたファンタジーでもある。相当クレバーに作り込まれている。

そういった戦略を取れる人はいま本当に新海誠しかいないので、その辺りがすごいなって思います。

北村 個人作家でありながら巨大な資本を得ていろいろ戦略を練られる、独特な立ち位置かもしれないですね。

新海誠 国民的アニメ作家の誕生

土居 伸彰

2022年10月17日発売

990円(税込)

新書判/240ページ

ISBN:

978-4-08-721237-2

【「個人作家」としての新海誠の特異性が明らかに】
『君の名は。』と『天気の子』が大ヒットを記録し、日本を代表するクリエイターになった新海誠。
2022年11月11日には最新作『すずめの戸締まり』が公開予定であり、大きなヒットが期待されている。
しかし新海は宮崎駿や庵野秀明とは異なり、大きなスタジオに所属したことがない異端児であった。
その彼がなぜ、「国民的作家」になり得たのか。
評論家であり海外アニメーション作品の紹介者として活躍する著者が、新海誠作品の魅力を世界のアニメーションの歴史や潮流と照らし合わせながら分析。
新海作品のみならず、あらゆるアニメーションの見方が変わる1冊。

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