投石によって無残に破壊された警察車両、投げつけられた卵やペンキで汚された看板……そして、ジュラルミンの盾を構えた完全装備の機動隊員の姿が事態の深刻さを物語っていた――。
「沖縄署襲撃事件」から1年。暴動に関与した人物と先導した組員の逮捕。暴行で少年失明…不祥事から威信回復のために沖縄県警は躍起? 思わぬ展開を見せた騒動の余波とは?
集英社オンライン / 2023年1月26日 16時1分
世間を騒がせた沖縄署襲撃事件から1年。ことの発端となった少年への暴行事件を起こした警察官への処分、暴動に関与した人物の逮捕、そして、それにかこつけた地元暴力団への締め付け強化。事件は思わぬ展開を迎えている。
「第2のコザ騒動」から1年…その余波で地元組員が逮捕
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暴動時は機動隊も出動した
2022年1月28日未明、沖縄市山里の沖縄署に数百人の若者が集まり、庁舎を襲撃した。
発端は、当時17歳だった男子高校生が沖縄市宮里をバイクで走行中、制止を求めた男性警察官が持っていた警棒に接触し、男子高校生は、右目眼球が破裂する大けがを負った事件だ。かつて「コザ」と呼ばれた地域では、沖縄の日本復帰前の1970年12月、米軍に怒りをぶつける民衆蜂起「コザ騒動」が発生した。半世紀あまりを経て再び起きた大衆による国家権力への反抗は、「第2のコザ騒動」とも呼ばれ、世間に衝撃を与えた。
あれからまもなく1年。“事件”はその後、どのような経過を辿ったのか。混乱に包まれた現場の「いま」をリポートする。
逮捕された組員が若者を先導して襲撃を助長
今年1月17日、沖縄の地元メディアがあるニュースを取り上げた。
沖縄県警がこの日、暴力行為法違反(集団的器物損壊)の疑いで、指定暴力団旭琉会系の22歳の組員を逮捕したことを一斉に報じたのだ。この若い組員の逮捕の一報が注目を浴びた背景には、約1年前の沖縄署襲撃事件があった。
「昨年1月27日深夜から翌28日未明にかけて、沖縄市にある沖縄警察署前に若者らが詰め掛け、一部が暴徒化。卵や石を投げつけるなどして、庁舎を破壊したのです。現場には最大約400人が詰め掛け、機動隊が駆けつけて警備にあたるなど大きな騒ぎになりました。
県警は、昨年末、特に悪質な破壊行為をした若者ら7人を、組員の逮捕容疑と同じ『暴力行為法違反』の容疑で書類送検しており、県警は、組員がその7人の犯行を主導したとみて調べる方針です」(地元メディア関係者)
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暴動によって割られた沖縄警察署玄関のガラス
地元紙「沖縄タイムス」などによると、逮捕された組員は当時、SNSのライブ配信で「沖縄署で卵戦争」などと投稿し、不特定多数の若者らを現場に“誘導”し、襲撃騒動を助長させたという。
また、この組員は、一連の騒動の発端となったとされる県警の男性巡査とバイクに乗った高校生との接触事案で、現場に駆けつけ、警官ともみ合いのトラブルになっていたといい、県警の対応への不満から騒動の先導役になった可能性があるという。
この組員とはいったい、どんな男なのか。県警の関係者がその素顔をこう明かす。
反社会的勢力の関与で盛り上がる“ネット右翼”
「本島南部の南城市の出身で、これまでに恐喝未遂などでの逮捕歴があるようです。地元組織の組員ということで大々的に報じられていますが、昨年の騒動があった時にはまだ組には入っていなかった。いわゆる『やなわらばー(沖縄方言で悪ガキ)』。大型や中型の改造バイクに乗った連中の後ろを原付で走る『ちびカメ』として、暴走行為に参加することもあったようです」
現場となった沖縄署は、「ライカム」の俗称で知られる交差点のすぐ近くに立地する。
ライカム(=RyCom)は米軍統治時代に琉球米軍司令部(Ryukyu Command headquarters)があったことから、その頭文字を取って名付けられた。
男が住む南城市から本島東海岸を南北に貫く国道を北上し1時間ほどバイクを走らせれば、現場となった「ライカム」そばの沖縄署にたどり着くことができる。
「男にとって沖縄市の現場周辺は日頃の暴走行為でなじみのある場所だったのでしょう。何度も警察の厄介になっているうちに、彼らへの敵がい心を強くしていったとみられます。そんな中であの少年の事案が起きた。騒動にまぎれて日頃の鬱憤を晴らそうという気持ちもあったのではないでしょうか」(先の県警関係者)
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沖縄県警察本部
県警は男の逮捕を受け、北中城村の旭琉会本部と男が所属する那覇市の組事務所にも家宅捜索に入っている。襲撃騒動をめぐっては、発端となった警官と少年との接触トラブルで、警官が警棒を持ち出したことによって少年が失明する事態に陥ったこともあり、県警の対応には批判的な声も上がっていた。
その一方で、騒動にかこつけてリベラルな主張をする人を敵視し、排外主義的な言説を繰り返す「ネット右翼」の巣窟と化している大手ポータルサイトのコメント欄には、失明した少年への中傷に留まらず、沖縄の若者を揶揄したり、沖縄への偏見に満ちたコメントがあふれる事態にもなっていた。
新たに反社会的勢力の関与が明らかになったことで、早速コメント欄には、《沖縄県は法治国家を構成する一地方自治体の体をなしていない》といった地域差別的なコメントや《誰か指示を出した黒幕がいるのでは》と陰謀論めいた主張が書き込まれ、再炎上の気配が漂っている。
身内の不祥事から威信回復のために
沖縄県警が組への締め付け強化に動く
一連の騒動が起きてから水面下では何が起きていたのか。
「今回の騒動の発端となった少年の負傷事案で県警が頭を痛めていたのは、当事者の警官が当初の段階で上司への報告をきちんと行っていなかったことです。この対応の不備を指摘されるのは県警としては痛い。そこで、まずは警官の処分を最優先とし、昨年11月に特別公務員暴行陵虐致傷の容疑で書類送検するに至った。
とはいえ、警察署が襲撃されるというのは警備上の大失態で、こちらも放置するわけにはいかない。当初から悪質な襲撃者をリストアップした上で摘発する方針を固めており、その流れに沿って男の逮捕に踏み切ったということです」(前出の県警関係者)
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襲撃により破壊された沖縄署
一方、騒動から1年を迎えるのを前に地元組織の組員が逮捕されたことで、別方面にも火種が飛ぶ事態にもなっている。事情を知る地元メディア関係者が、声を潜めて明かした。
「今回逮捕された男は、先輩格の別の組員を慕って組織の盃を受けたそうです。男が組織に入ったのは、襲撃騒動の後だったので、組側の騒動への関与はありません。それでも、逮捕された男が現役組員である限りは、暴対法や暴排条例を盾にして県警が組側への捜査に着手できる。今回、男が所属する組織のみならず、上部団体への強制捜査に踏み切ったのもそうした背景がある。
沖縄は、これまで比較的暴力団への締め付けが緩やかだったものの、ここ数年は全国的な『暴排』の流れを受けて徐々に風当たりが厳しくなってきている。旭琉会は2019年に先代の会長が亡くなっていますが、現在も正式な跡目を据えていません。使用者責任が厳しく問われるようになったことを警戒しての対応で、今はなるべく県警とは敵対したくないというのが本音でしょう。
そんな中で持ち上がってきたのが、今回の一件です。県警としては身内の不祥事があった中で威信回復のためのチャンス。組織側からしたら、とんだとばっちりといったところでしょう」
世間を大いに騒がせた「令和の暴動」の余波はまだまだ続きそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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