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【総理大臣会見】なぜNHKの記者ばかりが指名されるのか? 指名回数のデータ化で見えた「不公平」と「メディア間格差」

集英社オンライン / 2023年1月31日 13時1分

「なぜ、あの社ばかりがいつも指名されるのか?」フリーランス記者として自らも総理大臣会見に参加する犬飼淳氏が、直近2年間の菅総理・岸田総理の 全36回の会見の指名状況(回数、順序)をデータ検証。これにより記者クラブに存在する驚くべき「格差」が浮き彫りになった。

首相会見での“違和感”をデータで検証

政治家の記者会見としては、国内で最も大きな注目を集める総理大臣記者会見。ただでさえ参加できるメディアは限定されるため、ここで政府に批判的な論調のメディアも公平に指名されなければ、国民の知る権利の侵害に繋がってしまう。

しかし、約半年前(昨年8月)から同会見に継続的に参加する筆者は、現地で司会者が記者を指名する様子を目の当たりにする中で、明らかな偏りがあることを肌で感じてきた。



例えば、記者の挙手を見ることなく司会者が指名したり(=指名する社を事前に決めていたとしか考えられない)、幹事社による代表質問の後に行われる一般質疑において、明らかに特定の社が指名される頻度が多い、などだ。

ちなみに、内閣記者会のように質問を事前提出していない筆者でも指名されることは稀にあるが、岸田総理は原稿が無いと全く回答できないことも目の当たりにしてきた。

*筆者は昨年10月28日の会見で一度だけ指名を受け、インボイスの導入根拠を質問。岸田総理は正直に「手元に原稿が無いので承知してない」等の理由で一言も回答できなかった。その質疑は下記のYoutube動画で確認できる

*外部配信サイト等で動画を再生できない場合は筆者のYoutubeチャンネル「犬飼淳」 で視聴可能

本記事では、総理大臣会見の指名の偏りをめぐる違和感をデータで検証していく。具体的には、直近約2年間(菅総理就任以降の2020年9月16日~2022年10月28日の全36回)の会見の指名状況(回数、順序)を各社ごとに整理したうえで、指名の偏りをデータに基づいて指摘する。結論からいえば、その指名は「極めて恣意的に行われている」可能性が高いといえる。

*本検証は非常にボリュームが多く今回はサマリのみを抜粋するため、元データを含む全編(指名順序の法則性、外国プレス・フリーランスの格差の分析も含む)は筆者がtheletter「犬飼淳のニュースレター」で公開した「【独自】首相会見 指名回数と順序の検証から見えた官邸報道室のアメとムチ」 (2022年12月16日) 参照


まず、内閣記者会 常勤幹事社19社の会社別の指名回数(幹事社としての代表質問は除く)を集計したところ、大きな偏りが出た。

*コロナ禍が始まった2020年以降、記者席は29席に限定され、内閣記者会 常勤幹事社19社は各社1名ずつが毎回参加。残り10席は内閣記者会の常勤幹事社以外、外国プレス、フリーランス、ネットメディアで抽選に当たった記者が参加できる仕組み

一部の社(NHK21回、日経新聞19回、読売新聞、産経新聞17回)は多くの指名を受けている一方、東京新聞(4回)、北海道新聞(7回)などは極端に指名が少なく、二極化している。つまり、内閣記者会 常勤幹事社の中にも格差が存在するのだ。

会見の質問内容も併せて確認したところ、政権の意見を代弁するかのような質問が多い社は指名されやすい一方、政権にとって耳の痛い質問が目立つ社は、指名されにくい傾向が見てとれる。官邸報道室はこうした「アメとムチ」を見せつけることで、各社が厳しい質問をしにくい状況をつくり出しているのではないか。

意外にも「優遇」されていた毎日新聞

視点を変えて「指名順序」に着目して、一般質疑(冒頭の幹事社による代表質問が終わった後の質疑)で最初に指名された回数を集計したところ、別の偏りも見えてきた。

幹事社による代表質問の後に行われる一般質疑においてNHKは34回中9回、つまり約4回に1回は最初に指名されていた

なんと最初の指名は、わずか2社(NHK9回、毎日新聞6回)に集中。特にNHK(9回)は公共放送という重要性を考慮しても、他のテレビ局(テレビ朝日0回、テレビ東京1回)と比べて異常に優遇されている。司会の内閣広報官としては、幹事社による代表質問の後、真っ先にNHKを指名することがルーティーンになっているかのようだ。

一方で、比較的リベラルな毎日新聞(6回)がNHKに次いで多いのは意外な結果に思えた。この違和感について毎日新聞(自社に対する取材窓口の社長室 広報担当ユニット)に正式に質問したが、9日間も要した後に返ってきた回答文書には「指名の順番については弊社では分かりかねます」という一文のみであった。

出典:毎日新聞社 回答文書(2022年12月23日付)

確かに指名を決めているのは内閣広報官であるため毎日新聞の回答はもっともだが、いわゆるリベラルと見なされる他紙(朝日新聞1回、東京新聞0回)と比べても、毎日新聞(6回)への偏りは異常である。ここからは筆者の想像になるが、ひょっとしたら近年の総理番や官邸キャップらが官邸との関係強化に努めているのかもしれない。

「早く」「多く」指名され続けるNHK

次に、より定量的に指名順序の違和感を明らかにするため、指名順序の平均値を算出した。

幹事社としての指名(1〜2番目)は集計から除外しているため、3番目が最も早い指名となる

ここでも、やはり一部の社だけが早く指名されやすい傾向にあることが明確になった。特に早く指名されているのはNHK(4.52番目)と日本テレビ(4.85番目)の2社。NHKは指名回数でも21回でトップだったため、「早く」「多く」指名されていることが明白で常勤幹事社19社の中で特に優遇されていると言える。

他社の数値はおおむね6〜9番におさまっているが、地方メディアの指名は遅いという傾向も見えてくる(京都新聞10.2番目、西日本新聞9.66番目、北海道新聞9.14番目)。

このように、指名が極めて恣意的に行われていることは定量的に見ても明らかといえるのではないだろうか。最後にこの背景にある重要な事実(公然の秘密)を共有しておく。

内閣記者会常勤幹事社19社は、原則として質問を官邸報道室に事前提出している。元総理番記者にインタビューする機会に恵まれた筆者が詳細を確認したところ、内閣記者会は幹事社を中心に質問を取りまとめて事前提出するだけではなく、様々な根回し(似たような質問が出た場合は重複しないように事前調整する、質問内容について官邸からアドバイスを受けることがある、等)まで行っていることが明らかになった。

そうした根回しを経て、内閣広報官は各社の質問を事前に正確に把握しているのだから、より対応しやすい質問をする社を多く指名するのも当然である。

*質問事前提出の詳細は、元総理番記者本人に筆者がインタビューし、theletter「犬飼淳のニュースレター」で公開した「【独自】元 総理番が明かす、首相会見の質問事前提出「業務」のウラ側」 (2023年1月3日) 参照

このような悪習によって、内閣記者会は権力監視という本来の役割を放棄しており、官邸報道室は無難に会見を運営。両者だけはWin-Winの関係を築く一方で、国民の知る権利は侵害され続けているのである。

文/犬飼淳 写真/小川裕夫

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