「俺の分析は、あくまでも想像や妄想です」。R-指定(Creepy Nuts)が「日本語ラップ」を読み解き始めた本当の理由
集英社オンライン / 2023年2月4日 16時1分
日本のヒップホップカルチャーや日本語ラップについて、ラジオやトークイベントなどを通して、積極的に解説を行っているR-指定(Creepy Nuts/梅田サイファー)。現役の、そしてトップ・アーティストである彼が、ラップを「解読」する理由とは。
原点は梅田駅でのサイファー
ヒップホップをアートフォームの中心に据え活動する、ラッパーのR-指定とDJのDJ松永で構成される1MC1DJスタイルのユニット、Creepy Nuts。
アルバム「アンサンブル・プレイ」(2022年)をはじめとするコンスタントな作品リリースはもちろん、2022年12月8日にはさいたまスーパーアリーナでのワンマン公演も成功させ、名実ともに日本の音楽シーンのトップランナーとなった二人。またバラエティ番組への出演や俳優業など、その姿をメディアで見ない日はないほどだ。
彼らの人気を飛躍させたきっかけのひとつに、ニッポン放送「オールナイトニッポン」でのパーソナリティが挙げられるだろう。二人の軽妙なトークと掛け合いは、CreepyNutsに興味を持っていた音楽リスナーだけではなく、初めて彼らに触れるラジオリスナーからも強い支持を集め、惜しまれつつも今年3月で終了してしまうが、現在は月曜一部という「オールナイトニッポンの顔役」として活躍している。
その番組において、第一回からレギュラーコーナーとして毎週放送されている「日本語ラップ紹介コーナー」は、R-指定が影響を受けたアーティストや、目下注目している楽曲を紹介する、番組には欠かせないプログラムだ。
それとは別に、R-指定が日本語ラップ作品やアーティストを深掘りし、解説する不定期開催のトークイベント「Rの異常な愛情」も2018年から行われ、その模様は2019年に「Rの異常な愛情 或る男の日本語ラップについての妄想」、2022年に「2022年日本語ラップの旅 -Rの異常な愛情 vol.2」として単行本化された(ともに白夜書房刊)。
「俺は中1ぐらいからヒップホップを聴き始めて、中3で自分でもラップするようになったんですが、『地元の友だち以外ともラップしてみたい』『自分のラップがどれだけ通用するのか知りたい』と思って、梅田駅の歩道橋で行われてた「梅田サイファー」(注1)に飛び込んだんですね。それが高校生のとき。
そこで本格的にラップをするようになったんですが、そこに集まった連中と『この曲はこういうことを言ってるんちゃうかな』『このアーティストの韻はこういう部分がすごくて』みたいに、ヒップホップの話をしてたんですよ」
(注1:サイファー=路上で輪になって、主にフリースタイルでラップをする集団のこと)
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「ラップの話」がずっとしたかった
様々な表現に対して「考察」することに興味があったというR-指定。
「もともと好きだった映画やドラマを読み解くのと同じように、ラップについても考察してたんですけど、そのことを一緒に話せる仲間がおったことで、ラップに対する理解度や解像度も更に上がって、よりラップにのめり込んでいったんですよね」
そしてMCバトルの全国大会である「ULTIMATE MC BATTLE」にて3連覇を果たし、並行してCreepy Nutsを結成。テレビ朝日『フリースタイルダンジョン』には放送開始から、チャレンジャーの前に立ちはだかるモンスター(後期はラスボス)として登場するなど、活躍の場を広げていく。
「Creepy Nutsとして活動を始めてからも、梅田(サイファー)でやってたみたいに、ラップの話ができる場がずっと欲しいと思ってたんですよ。それにヒップホップというと、流行やファッション性、ゴシップの方がよく取り上げられがちなことも、自分にはもどかしかったし、もっと根本的な面白さを話したいという気持ちもあって。
それで始まったのがオールナイトニッポンの「日本語ラップ紹介コーナー」。開始当初は、まだヒップホップが今ほど広まってなかったから、おこがましいようですけど、コーナーを通してリスナーやスタッフにヒップホップの理解度を高めて欲しいなと。そしてより深く、じっくり時間をかけて話せる場として『Rの異常な愛情』を始めたんですよね」
『Rの異常な愛情』は2022年11月までに12回の開催を重ね、チケットは即ソールドアウトする人気イベントとなっている。
「こういうイベントが成立してること自体が嬉しいですね。最初は『誰が聞きたいねん、俺の話。しかもラップだけで』と思ってましたし(笑)。単純にラップの話をするのが好きやし、それをみんなが聞いてくれて、こんなに回数を重ねることができたのは、ありがたいことで」
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これまでにRHYMESTERやZeebra、スチャダラパー、般若といった日本語ラップを代表するアーティストについて、独自の視点から紐解いてきたR-指定。
「まず言っておきたいのは、いろんな楽曲やアーティストに対する俺の解説は、(事実ベース以外は)『こうなんです』『こう聴くべき』みたいな、“正解”を出してるわけではないんですね。あくまでも『俺はこう思うんです』『もしかしたらこうやったんやないかな?』みたいな、俺なりの解釈とか、俺がどういう風に聴いた、感じたか、なんです。だから基本的には俺の想像とか、妄想の話だと思ってください(笑)」
自分が話しているのは「正解」ではない
彼の言語化能力やトークの面白さも当然ながら、ラッパーとして活躍する側ならではの、批評家ではなく“プレイヤー側”だからこそ感じ取ることができる、作品やアーティストに対するオリジナルな「分析」に、多くのリスナーが興味を持っている。
「イベントで感想や分析、自分のリスナーとしてのヒストリーを語るだけじゃなくて、なにを聴いてどんな部分に影響を受けたのか、そこで自分のラップやCreepy Nutsとしての活動にどう刺激を与えているのかも、ちゃんと形にしたいんですよね。『R-指定はこの人のこういう部分が好きやから、こんなラップをするんや』みたいなことがわかるような内容は意識してます」
そして、そういった「思考」は、現在進行系で自身の作品制作にも繋がっているという。
「自分自身でも、トークイベントの前にテーマとなるアーティストの作品を聴き直して、『やっぱすごいわ』と再認識することも多いし、昔は気づかなかった要素がわかるようになっていたり。そういった分析も含めて、このイベントを通して、理解はもちろん、更に自分のラップのスキルも伸ばすことが出来たと思いますね」
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またネットやSNSの発達に沿って、様々な「読解」が目に留まるようになった現状も、ラジオやイベントで「分析」を話しやすくなった一因だという。
「アニメやドラマ、映画みたいな、エンターテインメントや創作物に対して、考察を発信したり、分析を楽しみにする人が増えたと思うし、それがラップにも広がってきていると思いますね。だから、ラップやライミングを考察したり、背景を分析するリスナーが増えたことが、俺の話を聞いてくれるキッカケにもなってるのかなって。
同時に、もしかしたら自分の解説やイベントを通して、分析的にラップに向き合ったり、いろんな解釈をする人が増えたとしたら、それはすごく嬉しいことです。音楽だからフィーリングで、“音”として聴く面白さに加えて、『それがなんで楽しいか』を考えたり、話し合うのも、また楽しいと思うんですよね」
取材・文/高木“JET”晋一郎 撮影/田中健児
『2022年日本語ラップの旅 -Rの異常な愛情 vol.2-』
R-指定
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2022/12/7
1,650円
256ページ
978-4864944021
R-指定が日本語ラップの魅力を語り尽くす──。
大人気トークイベント『Rの異常な愛情』待望の書籍化第二弾!
最強のバトルMC、そして大人気ヒップホップユニット・Creepy NutsのR-指定。
2018年12月に始まり、現在も行われているイベント『Rの異常な愛情──或る男の日本語ラップについての妄想──』の書籍化第二弾。
彼が偏愛してやまない日本語ラップのレジェンドアーティストの名盤・リリック・スキルを、聞き手を務めるライター・高木"JET"晋一郎とともに分析&妄想して徹底解説!
雑誌『BUBKA』連載時より加筆&脚注追加が行われ大幅にボリュームアップ!
日本語ラップ通からヒップホップ初心者まで、ぜひとも読んでいただきたい一冊に仕上がりました。
【本書で主に取り扱っているアーティスト】
Zeebra
梅田サイファー
ケツメイシ
韻踏合組合
DABO
(掲載順)
and more……単行本スペシャル対談掲載
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