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サザンの曲で言えば『ミス・ブランニュー・デイ』。サイクルの早い文化であり消費される音楽…だからこそ、R-指定が考える「日本語ラップ」の蓄積とこれから

集英社オンライン / 2023年2月4日 16時1分

熱烈なヒップホップフリーク、日本語ラップフリークとしても知られるR-指定(Creepy Nuts/梅田サイファー)。レジェンドアーティストを我流で読み解く単行本も上梓している彼が、先人たちへの愛情と、彼自身の作品に与えた影響を語る。

レジェンドたちへの「異常な愛情」

2022年12月に、二冊目の単行本となる『2022年日本語ラップの旅 -Rの異常な愛情 vol.2』を上梓したR-指定が、この本の中で真っ先に語るアーティストがZeebra。日本のヒップホップシーンの牽引役であり、『フリースタイルダンジョン』のオーガナイザーとしてR-指定を番組に迎えた、R-指定の人生に大きな影響を与えた存在について、彼はこう話す。



「Zeebraさんについては、いろんな人が語りに語ってるし、その凄さは既にいろんな角度から分析されてると思うんですね。更に、そのスキル理論や方法論についても、『ジブラの日本語ラップメソッド』という単行本で、ご自身でも形にされてるんです。

だからZeebraさんに関しては、完全にファンやヘッズとしての目線で、俺はZeebraさんのラップをこういう風に聴いて、こう解釈してるという、かなり妄想の部分を話してます。技術論についても、こういうイノベーションをZeebraさんが起こしたからこそ、それがその後のラップにこういう影響を与えたかもしれないという、自分のヒストリーも踏まえた形になっていると思いますね」

2022年放送の『キングオブコント2022』のオープニング曲を手掛け、新曲『KING』もリリースしたばかりの梅田サイファーについても、一章を割いて語られている。

「俺の所属する梅田サイファーについては、分析というよりも、梅田サイファーの成り立ちや、俺自身が参加するまでの経緯、参加する中でどういう影響を受けたのかみたいな、 『梅田サイファー自体』を話しています。この回は大阪で収録し、梅田サイファーの仲間も多数駆けつけてくれたんで、雰囲気としてもリラックスした内容になってるんじゃないかなと。

そして、この日に来てくれた梅田サイファーのメンバーにも、それぞれのメンバーが楽曲をレコメンドするという『異常な愛情』方式でトークもしてもらってます。メンバーが多い分、みんな趣味嗜好も違うし、誰がどのアーティストを紹介して、どんな部分に感銘を受けてるか、みたいな個々の部分にも注目してもらえれば嬉しいですね」

『夏の思い出』や『トモダチ』など、数多くのヒット曲を通して、ラップの存在をポップフィールドに知らしめたケツメイシに関しては、ずっと分析するテーマとして取り上げたかった存在だと話す。

「ケツメイシは、早くからメジャーフィールドで活躍した“ポップスター”である分、なかなかヒップホップやラップというカテゴリーや文脈では語られにくかったアーティストやと思うんですね。だからメンバーそれぞれのラップの特性や、ユニットとしての構成力のような、『ケツメイシのラップ』を考察するようなテキストは、ほとんど読んだことがないし、メンバー自身もなかなかそういう部分に言及されなかったんですよね。

ただ、メジャーフィールドで注目される、多くのリスナーを掴むには、ただ単にポップなら、耳馴染みがいいからではダメやと思うんです。特にラップに関しては。ケツメイシもタイトな韻の構成やったり、それぞれのテクニックや個性、グループとしてのサブジェクトの面白さという“背骨の強さ”があって、その強度が多くのファンを獲得したと思うんですね。それを改めて分析してみようと」

語ることで気づく新たなラップの魅力

00年代に大阪のヒップホップシーンを大いに盛り上げ、現在も大阪シーンを牽引するクルー、韻踏合組合の作品を改めて読み直すことで得た、新たな発見も多かったようだ。

「自分で言うのも変ですけど、自分の(韻踏合組合に対する)解説を読めば読むほど、梅田サイファーと通じる部分や影響を感じましたね。大人数のグループやからこそ、その中に趣味嗜好や思想、バックボーン、ヒップホップやラップへの意識の違いに幅があって、それが集まったときに生まれる化学反応の面白さというのは、自分もユニットの中で感じてる刺激と、かなり近いんやろうな、と。

もっとリスナー的な目線で言えば、自分が衝撃を受けた韻踏合組合の『韻』や『ライミング』の凄さを伝えたかった。こんな韻の踏み方があるんや、こんな組み立て方が思いつくのかみたいな、韻の面白さを俺に叩き込んでくれたのが韻踏やったし、なぜ韻踏が、日本語ラップにおける韻の概念を一段階上に引き上げることが出来たのかを、自分なりに解説しています」

最終章ではNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのメンバーとして、そしてソロとして、「東京のヒップホップ」「渋谷のヒップホップ」をシーンに知らしめたDABOが取り上げられる。

「ヒップホップヘッズなら、DABOさんの『ラップの巧さ』に誰しもが衝撃をうけてると思うんですよね。そのDABOさんのラップについて、どんな要素がそんなにラップを格好良く、巧く聴かせる秘訣になっているのか、そしてDABOさんならではの“粋”な語り口について、俺なりに読解してます。

ホンマにDABOさんのラップはしがんでもしがんでも、いくらでも味が出てくる。梅田サイファーの仲間とDABOさんの凄さを夜中の0時に話し出して、気がついたら次の日の昼過ぎになってたときがありますからね(笑)。だから今回の単行本の中でも、DABOさんの1stアルバム『Platinum Tongue』すら全曲解説できなかったほど、一曲一曲の解説に時間をかけてるんですけど、その熱量も感じ取って貰えればと思いますね」

巻末には単行本の特別企画として、ラッパーのCHICO CARLITOとR-指定による対談を収録。そこではラッパー同士ならでは、そして同世代ならではのサブジェクトが話し合われているが、大阪出身のR-指定と、沖縄出身のCHICO CARLITOの考える方言論や、それがラップに及ぼす影響への分析も非常に興味深い。

R-指定&CHICO CARLITO

「俺も自分の曲の中で関西弁を使うし、インタビューでも無理に標準語を喋ったりはしないんですよ。テキストで直されることはありますけど、まあそれは、しゃーないかなと(笑)。

でも『アンサンブルプレイ』に収録した『フロント9番』のような内容は、関西弁じゃないとニュアンスが伝わらないと思うんですよね。そういった方言が生み出すニュアンスや、言葉自体のグルーヴについても、沖縄出身のCHICO CARLITOと話すことができたのは楽しかったですね」

サイクルの速さが進化を促すラップカルチャー

「俺はめちゃくちゃロジカルに曲を作るタイプではないんですよ。Creepy Nutsの作品でも、DJ松永から指摘されて『あ、そうやったんや』と気づくことも多いし、自分のラップやリリックが全部、自分の中で整理されてるわけではない」


そう話すR-指定。幾重にも織り込まれた意味合いや、多層的なライミングなど、彼の作品は非常に構築的な部分を感じさせ、それがポピュラリティを得る一因にもなっている。それと同時に、同業者やヘビーリスナーまで唸らせる理由にもなっているが、それは先人たちの積み重ねの上にもあると話す。

「ZeebraさんやMummy-Dさんの作品を分析すると、改めてロジカルにご自身のラップや作品を考えながら作られてたんやなと思わされることが多々あるんですよね。

それは、日本でラップが確立する以前から、日本語でラップをすることにチャレンジしてきた人たちやからこそ、英語のラップを分析して、分解して、それをどうやって日本や日本語に取り入れるかという模索を通して、様々なロジックを生み出し、いまの日本語ラップを作ったと思う。

俺はそういう悪戦苦闘の上で成り立ったものを吸収して、日本語でラップを始めた世代やからこそ、そういう先人たちから受けた恩恵を、作品も含めて様々な形で、ちゃんと形にしたいなと思うんですよね」

同時に『サイクルの速い文化』『消費される音楽』だからこそ、言葉として残したいという意思もあると話す。

「やっぱりヒップホップはユースカルチャーの部分が強いし、トレンドや消費サイクルの超早い文化なんですよね。それなのに言葉数や情報量が多い、制作には鬼のように手間がかかるという、矛盾だらけの音楽でもある。
こんなにも時間をかけたり、新しいトレンドを必死で取り込んでも、リリースの半月後には、もう次の周回が始まってる。そのサイクルの速さと労力の合わなさには、そりゃ悲観するときもありますよ(笑)」

ただ、そのサイクルの速さこそが、進化にもつながっているという。

「ヒップホップはサザンオールスターズの曲で言えば『ミス・ブランニュー・デイ』なんですよね。俺もCreepy Nutsの曲『阿婆擦れ』でその部分を歌ってますけど、とにかく流行の最先端をみんな求めて愛でるし、その時代を代表するアーティストもすぐに変わっていく。そのトレンドの移ろいのスピードの速さを、昔は悲観的に捉えてた部分があるんです。

だけどそれを“シーン全体”という大きな目で見ると、流行が変わることによってスキルに変化が生まれて、シーンに新しいヒーローやヒロインが生まれることで、ラップの水準が更新されていく。その繰り返しでラップは進化していくんですよね。そして、その進化や変化の根本には、それまでにラッパーやシーンが生み出してきた「スキル」が蓄積されている。

だからヒップホップというシーンは、アーティスト同士は当然ライバルでもあるんだけど、同時に“チーム”やと思うし、ラップのスキルはチームプレーなんですよね。自分もそのチームのメンバーであり、自分の作品も後世に残っていけたら、自分のスキルも誰かに引き継いでいって貰えればと思いますね」

その蓄積やチームプレイの魅力を、改めて言葉にし、書籍化したR-指定。

「いろいろ難しく話したり、意義を語ったりもしてますけど、根本的には『この曲ヤバない!?あいつのスゴさ忘れんなよ!キャッキャ』みたいな本なので、軽い気持ちで読んで欲しいですね(笑)。これからも日本語ラップ紹介は続けていくし、単純にそれが自分の趣味というか、楽しみでもあるので、今後も楽しみにして頂けると幸いです」

取材・文/高木“JET”晋一郎 撮影/田中健児、河西遼(R-指定&CHICO CARLITO)

『2022年日本語ラップの旅 -Rの異常な愛情 vol.2-』

R-指定

2022/12/7

1,650円

256ページ

ISBN:

978-4864944021

R-指定が日本語ラップの魅力を語り尽くす──。
大人気トークイベント『Rの異常な愛情』待望の書籍化第二弾!

最強のバトルMC、そして大人気ヒップホップユニット・Creepy NutsのR-指定。
2018年12月に始まり、現在も行われているイベント『Rの異常な愛情──或る男の日本語ラップについての妄想──』の書籍化第二弾。
彼が偏愛してやまない日本語ラップのレジェンドアーティストの名盤・リリック・スキルを、聞き手を務めるライター・高木"JET"晋一郎とともに分析&妄想して徹底解説!
雑誌『BUBKA』連載時より加筆&脚注追加が行われ大幅にボリュームアップ!
日本語ラップ通からヒップホップ初心者まで、ぜひとも読んでいただきたい一冊に仕上がりました。

【本書で主に取り扱っているアーティスト】
Zeebra
梅田サイファー
ケツメイシ
韻踏合組合
DABO
(掲載順)

and more……単行本スペシャル対談掲載

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