【漫画あり】全身根性焼き、舌も自分で噛み切った兄のために弟は…。『「子供を殺してください」という親たち』が伝える、切り捨てられる者を生む日本の矛盾
集英社オンライン / 2023年3月3日 18時0分
〈【漫画あり】なぜ37歳の才女は汚物まみれのゴミ山で暮らすようになったのか。「合法的に人を殺せる商売が医者だから、ハイスペックな資格を取れ」歪んだ価値観で育てられた子供たち〉から続く
日本で初めて説得による精神障害者の移送サービスを行う「トキワ精神保健事務所」を始めた押川剛氏。その押川氏が原作を手がけ、社会の闇をリアルに描いた漫画『「子供を殺してください」という親たち』(新潮社)が問題作となっている。衝撃のノンフィクションコミックに込められた思いとは…。
#1 【漫画あり】毎日全裸でバットを振り、飼い猫まで殺した男と向き合う
#2 【漫画あり】なぜ37歳の才女は汚物のゴミ山で暮らすようになったのか
#4 【漫画あり】飲み会に誘ってセックスを動画撮影も…プアな大学生たちの貧しい現状
#5 【漫画あり】浴室で日本刀を振るひきこもり少年の末路は…
#6 【漫画あり】美人キャバ嬢はなぜドラッグに手を出したのか…
男性より女性の方が「事実」に向き合う
――漫画には、実吉あかねという押川さんの相棒が登場します。彼女もモデルが実在するんですか。
はい。ちょうどこれから実吉の過去のエピソードが描かれるので楽しみにしていてください。
――現在、トキワ精神保健事務所は、何人で活動されているのでしょうか。
常駐が3人で、必要なときに動ける人間がプラスで2人。移送に関しては民間救急の協力業者がいます。
――少数精鋭ですね。
悲しいかな、男性は辞めていくんですよ。K-1に出場する一歩手前の従業員とかもいましたが、ホンモノには敵わない。死ぬ気でいる人には、腕っ節もなにも関係ないですからね。
あとはやはり、女性の方が事実にしっかりと向き合います。患者さんの事実、家族の事実、自分の過去も含めてさらけ出したときに、すべてを受け入れるのは女性。男はそれがなかなかできないんだと思います。そういう意味でも、女性の方がリアリティを持って生きていると思いますね。
――当事者家族も同様ですか。
父親がめちゃくちゃ動きのいいところというのはなかなかないですね。お金に関することなら父親は動きますが、やはり子供のために圧倒的に動けるのは母親です。
ただ、それが親子ではなく、きょうだいの場合は逆で、男兄弟が動きます。姉や妹は消極的で、女性で動ける方は、みなさん家庭をもたない独身の方です。
――漫画でも奇行を続ける兄・誠一(仮名)の存在を思い詰めている、松元雄二郎(仮名)のエピソードが描かれていました。
あそこもすごかったですよ。誠一は根性焼きをたくさんしているんですが、家の中で肉の焼ける臭いがするんですよ(笑)。舌も自分で噛み切っているから、うまくしゃべれなくてね。
――それだけ対応困難な患者さんたちと向き合うのは、精神的にも相当強くないとできないと思います。その根底はどこにあるのでしょうか。
私自身が、枠にはまらない生き方をすることですね。もちろんルールは守りますが、どこかの組織にいてはできません。ひとりの人間としてここまでやれるんだ、というチャレンジ精神といいますか。
――簡単におっしゃいますが、誰にでもできることではないと思います。
だから、「押川はおかしい」と誹謗中傷を受けていますよ。最近は漫画のおかげで「ヤクザだと思ってたけど、ちゃんとした人なんですね」と言われるようになりましたけれど。
対応困難な患者さんが切り捨てられる社会
――これまでもメディアの取材やドキュメンタリー番組、著書などで精神疾患の方を取り巻く問題について積極的に伝えられてきたと思います。現代の精神科医療の問題点はどこにあると考えますか。
結局、扱いやすい人たちだけを扱うようになってしまったんですよね。今やこの国では、易しい問題に特化して取り組む人たちを「専門家」と呼び、メディアもその「専門家」を重宝します。対応困難な患者さんを受け入れて治療しようという先生は圧倒的に少なくなり、それと同時にメディアも事件化するまでは一切触れません。
専門家と呼ばれる人たちは、このような人たちが手錠をかけられて初めて言及します。つまり、精神科医療の領域ではなく、司法の領域になってからです。
私は司法機関に呼ばれて意見交換をすることがあるのですが、裁判官の方は実態を教えてくれますよ。被告人が心神喪失の状態にある場合は、公判手続きを停止して、公判に立てるようになるまで治療をします、と。その治療まで司法機関の役割にさせられているので、いま厚労省と法務省はガチガチの喧嘩になっています。
このことも、これから漫画にして伝えていかなければいけないと思っています。
――漫画を読んでいると、押川さんがかけがえのない存在であると感じてしまいます。後進の育成や業界の今後についての考えを聞かせていただけますか。
確かに、私はこの仕事ができるだけの特殊な経験や能力があったかもしれませんが、やはり無理が生じて心臓を壊してしまったんですね。いまはこうやってお話ができていますが、2年前に心筋梗塞を起こして、ICUで生死の境をさまよいました。
無理がきかない体になった今は、やはりチームでできる環境、それも自治体など行政と協働できる体制を作ることが大事だと考えるようになりました。後進の育成問題にも関わってきますが、実はいま北九州に拠点を置いて、「北九州モデル」を確立するために動いているところです。
制度や法律などのルールは国が作りますが、対応方針などは自治体が決めます。例えば、先ほど(#2インタビュー)も言ったように、埼玉と神奈川は精神病質の方を受け入れないと自治体が手放しました。
ですが、北九州は私が拠点を置いて活動していることもあって、その方たちを受け入れられる環境が作れると考えています。私はこれまで非常に難しいことに特化してやってきたので、そのノウハウをすべて提供して人材を育てていくチャレンジをしています。民間では、どうしても依頼者からお金をもらわなければ続けていけませんが、私はこれを自治体や行政の責任でやっていけるようにしたいんです。
東京・世田谷ではできないことが福岡・北九州ではできる
――北九州という場所を選んだのは、地元だからですか。
それが大きいですね。私がこの仕事をやってこれたのは、北九州で生まれ育ったことが影響しています。言葉を選ばずに言うと、半島や被差別部落の人たちの問題や、そこから出てくるヤクザが周りにたくさんいる環境に生まれ育ち、上京してからは新宿の歌舞伎町で揉まれました。そうやって、押川はできあがったと思っています。
例えば、東京の成城で「この問題を地域で解決しましょう!」と言ったところで、住民から「出て行け」と大反対されるでしょう。でも、北九州はもともとそういうカルチャーを持った地域なので、違和感なく普通に受け入れてくれます。その風土がとても大事なんです。
人間の負を受け入れることに関しては、北九州が歴史上もっとも得意としていることなんだと思いますよ(笑)。
――北九州モデルをベンチマークに、制度や仕組みから変えていこうということですね。
そうですね。基本的な部分はもうでき上がっていて、児童養護施設とセットにしてスタートするつもりです。児童養護施設に預けられる子供の親御さんには、精神疾患の方が少なくない数いますし、また、預けられた子供が精神疾患を発症してしまう確率が高いこともこれまでの取材でわかってきました。
子供の問題であれば、行政も介入せざるをえませんし、親子を丸ごと見守れる環境づくりや、早期に対応していく方法を築いていこうと努力しています。
まずはこの「北九州モデル」を実現して、いろいろな自治体へと広げていきたいですね。
5巻【すべて弟にのしかかる】松元誠一のケース
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#1 【漫画あり】毎日全裸でバットを振り、飼い猫まで殺した男と向き合う
#2 【漫画あり】なぜ37歳の才女は汚物のゴミ山で暮らすようになったのか
取材・文/森野広明
「子供を殺してください」という親たち - 原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ / #59:【ケース20】「いい子」の仮面の犯罪者②| くらげバンチ (kuragebunch.com)
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