急増する「職場の人間関係改善」ビジネス書を読み解く[後編]

週プレNEWS / 2012年5月23日 9時59分

※本の「内容」部分(***~***)は、原文の引用でなく引用者が内容をまとめたものです。

 次は、トレンド(!?)の「部下育成」本です。たくさんあるけど面白かったのは2冊。1冊目は『「ゆとり世代」を即戦力にする5つの極意』(伊庭正康/マガジンハウス)。著者は昨年まで20年間リクルートに勤めてた人で、部下世代から見たらイラッとする書名ですが(笑)、「ゆとり世代」の傾向分析は的確じゃないかと。

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「ゆとり世代」は仕事への覚悟が足りないと言われるが、実は、彼らの成長欲は極めて高い。ただ、その欲は「会社内での出世」ではなく「どこでも通用する人材になりたい」、つまり「会社」のホープでなく「社会」のホープになりたいというもの。だから今の会社も人生の一プロセスであり“予選”という感覚が強く、なかなか本気を出してくれない。

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 納得(笑)。

 だから、社員の動機づけも終身雇用を前提とした「結果報酬=いつかは出世」はもう通用しないので、仕事の「プロセス」ごとに褒めていけと。ところで、こういうビジネス本の著者ってリクルート出身者が異常に多いんですが、誰のプロフィールを見ても「社内で営業成績1位を何度も獲得」って書いてある。いったい1位が何人いるんだよって思ってたら、本書によるとリクルートは入社数年でも多くの社員が営業1位で表彰される仕組みがあり、それで20代のうちに自信を得られて、その後伸びていくと。「私も1位になったけど、1位になったことのない人はほとんどいないでしょう」と正直に書いた人は、多くのリクルート出身者の中でもこの人だけで、そういう意味でも本書は信頼できます(笑)。

 この本は、人事研修の最新理論をすごく上手に網羅してる。「新型うつ」の解説も簡潔で的確。

 その、今日本中の職場で問題となっている「新型うつ」についてちょっと説明してください。

 典型例が、高学歴の学生が自信満々で入社したらいきなり上司に鼻っぱし折られて、「職場全員が自分の悪口を言ってる」と思い込むようになり、仕事中に呼吸困難を引き起こした。それで僕が診断書を出して休職を認めたら、直後にツイッターで「診断書げっとなう」と(笑)。で、大学の同級生と「休職ゲットパーティ」の打ち合わせして……。つまり、社内だと「メンタル不調」なんだけど、会社を一歩出ると元気なわけ。

 同情されづらいですねえ。

 でも、だからって軽く考えると衝動で自殺してしまうケースもあるわけです。だから医学的にも「病気」なのは間違いない。これは今、若い社員のいるいろんな職場で起きている問題です。あと、本書も言うように、「自分のやってる仕事にどんな社会的意義があるのか」疑問に思ってしまう部下世代は本当に増えてるんだけど、それをちゃんと説明できる上司はまだとても少ないんですよね。

 「部下育成」本の2冊目は、それとは真逆の立場の『昭和脳上司がゆとり世代部下を働かせる方法77』(大堀ユリエ/光文社)。著者はなんとガールズ居酒屋を経営する24歳の女性!

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最初がカンジン! 上から目線でガンガン注意して、舐められないようにしよう! 上から目線という流行語は若者の対等願望の表れ。無視すべし。

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 これは原文どおりなんだけど、すごいなあ(笑)。高学歴の新入社員にやったら一発アウトです。でも、ヤンキー気質の女のコにだったら今も有効なんだろうねえ。

 ギャルって、理解者ぶってすり寄ってくるオヤジのことは逆にバカにしがちだし。

 でも、スタッフが失敗したときは怒ったり指示したりするのではなく、失敗の理由を質問して自分で考えさせるとか、その際、YES/NOで答えられる質問はしないとか、「コーチング理論」といわれる有名な「部下に気づきを与える技法」をさりげなく実践してるんだよね。

 「ビジネス人間関係本」の著者はエリート系が多いなか、こういう“現場系”経営者の本は珍しい。あ、バイトといえば、『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』(福島文二郎/中経出版)って大ベストセラーがあるね。3・11の夜、TDLのバイトスタッフが自主判断でお客さんにショップの毛布やフードを配ったりしたのは伝説になってます。でも、あれはバイト求人も異常な倍率の、すごく特殊な組織だからなあ。

 いや、ディズニー本より、こっちのほうがずっと役立つよ。

 なんだかんだいってヤンキー文化は日本の普遍だし(笑)。思うにビジネス書も、自分と近い職場環境でキャリアを重ねている著者の本を読んだほうが効果はありますね。では、「部下育成本」の逆の立場である、部下が読むべき「部下力」本に進みます。最新刊もたくさんあったけど、一番面白かったのは7年前の『部下力 上司を動かす技術』(吉田典生/祥伝社)でした。さっき「コーチング理論」の話が出ましたが、著者はコーチングの専門家。ダメ上司は意見したって動かないから、質問によって上司の視点を増やし、気づきを与え、誘導していこう。上司こそ会社における最大のてこ(レバレッジ)なのだから、上司を上手に使わなきゃ損だよって本です。

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上司を選ぶことはできないが、上司との付き合い方は自分で選ぶことができる。

「打たれない出る杭」になるために、上司の考えや気持ちを引き出す質問力を磨く。

部下力は社長になっても使える。例えば、球界に三木谷社長が入れてホリエモンが入れなかったのは、部下力の違い。そして部下力があればよい上司にもなれる。

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 「相手は変えられないけど自分は変えられる」というのはカウンセリングの基本だし、何より「部下力」ってコンセプトがすごくいい。「部下という役割」を自覚して、自分を相対化してみるってことは精神衛生上とてもよいです。メンタル不調って、どうしてもひとつの考え方にがんじがらめになってしまうことで悪化することが多いので。それに、職場のうつの理由も、昔は仕事量が多すぎる、つまり頑張りすぎが一番の原因だったんだけど、今はさっき言ったような、上司との人間関係が一番の原因ですから。

 「自分を相対化してみる」という点でいうと、上司世代のために書かれた「部下育成本」を部下世代が読んでみる価値はすごくあります。今、上司世代が何をリアルに悩んでいるか知っておけば、同僚より一歩リードできる。

 風俗嬢が店を選ぶとき、求人誌見るより男性誌に載ってる店の広告見たほうがその店のリアルな実態がわかるのと一緒(笑)。マジメな話をすると、今は「同じ職場からふたりメンタル不調の部下が出たら、その上司が左遷」というケースが広まりつつあるのね。だから上司だって大変だ、ということは部下世代にも知ってほしい。

 最後は「感情コントロール」本に触れましょう。2年前に出版されて60万部を超える大ベストセラーとなった『怒らない技術』(嶋津良智/フォレスト出版)の第2弾が出たばかりです。

 「アンガーコントロール」といわれるジャンルです。カウンセリングの世界では、「彼が自分をイライラさせるのではなく、彼の行動に対して私がイライラしようと決めたから私はイライラしているのだ」と考えるんですよ。

 ややこしいですね。

 でもこれは根拠のない話じゃない。有名な実験があって、怒る演技をしたときと本気で怒ったときで、コルチゾール(ホルモンの一種)の増加や血圧上昇といった身体的な反応は同じで、さらに大脳辺縁系(脳の感情に関する部位)まで同じ反応をする。つまり脳って案外バカで、体に従って反応するわけ。だから行動を変えれば感情や考え方は変えられる。ただ、「考え方のクセ」を変えるのって、右利きの人が左手でご飯食べられるようになるようなものだから、本一冊で自分を変えられるかは、正直、疑問かなあ。

 一方で「もっと自分を認めて、ラクに生きていいんだよ」って本もすごくたくさん出てますが。

 だから、自分に適した「感情コントロール本」に出会えるかがとても重要で、例えば「上司が悪い、周囲が悪い」という思いにとらわれた人が「そんな自分を認めなさい」って本を読んじゃったら症状がますます悪化して、結果的に本人が損するわけ。ホント、これだけ「人間関係本」があると「自分に最適な人間関係本に出会える本」というのが欲しい(笑)。

(取材・文/片岡 裕)



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