加藤嘉一「風穴をあけるように例外をひとつひとつ積み重ねていけば、原則は進化していくんです」

週プレNEWS / 2012年7月2日 15時0分

“例外なき原則”は存在しない。原理主義という思考停止に陥るな!

先日、帰国したときのこと。ぼくにとっては理解しがたい事象にぶち当たりました。髪の毛を切るために美容室を予約しようとしたら、界隈の店すべてから「その日は休み」と告げられたんです。理由は、火曜日だから……。ぼくは頭を抱えてしまいました。

聞けば、休日は美容組合の規定で地方によって火曜だったり月曜だったりと決まっているとのこと。いずれにしても同一業種が同じ日に一斉に休むというのは、ぼくに言わせればまったく合理的ではありません。ごく一部には休日をずらしたり、年中無休で営業している店舗もあるそうですが、あの週の火曜日に髪を切りたいぼくが見つけられなかったのですから、数としては少なすぎるでしょう。

少し話は飛びますが、いま中国では、自国の代表チームがふがいないことの反動もあってか、サッカーの「EURO 2012」が大人気です。ぼくの知り合いが経営する会社は、社長が大の欧州サッカー好きで、EUROを見たいがために出社時刻を午後2時にずらしたそうです。

時差の関係で、試合終了は中国時間の早朝。朝9時に出社するのはつらいし、出社したところで効率的に仕事ができるわけもない。だったら午後からゆっくり出社して、夜の9、10時まで働いて、また夜中はサッカーを見ればいい。とても合理的だと思いませんか? 知り合いのある社長はフランスの大ファンで、優勝したら従業員全員にボーナスを出すと言っていました。

この夏にはロンドン五輪も控えています。この手の“お祭り”を心待ちにしている人は、日本にも多いでしょう。それをしっかり楽しませてガス抜きをするのも大切なことで、ただガマンさせるよりよほど生産的であると思いませんか? 何もすべての会社の始業時間を午後にしろとは言いませんが、「みんなそうだから」という“空気”に惑わされず、社員にやる気を出させるための決断というのも立派なリーダーシップだと思います。

資本主義が高度に発展した姿が社会主義であると言ったマルクスのように、日本が社会主義を目指すなら、そんなことは考える必要もないかもしれません。でも、今の日本では各々がマーケットベースで考える自由を保持しているにもかかわらず、国民が思考停止に陥って明文化されていない慣習や、合理的ではないルールに縛られてしまっている。この“先例主義”が人々のモチベーションを下げ、ビジネスチャンスを失わせ、選択肢を狭めている。

美容室でいえば、火曜日に髪の毛を切りたい人だっている。特定の時間や曜日のみを休みにすることで動かないマネーだってある。ほかにも、例えば開業医は木曜定休が多いと聞きます。もちろん、以前はそうでもしなければ労働者の休暇を確保できなかったという事情も理解していますが、それを承知の上で「例外を作る」ことの重要性を主張したいのです。

原則は大事です。しかし、人間がつくっているこの社会に“例外なき原則”は存在しません。風穴をあけるように例外をひとつひとつ積み重ねていけば、原則は進化していくんです。原理主義に陥ってはいけない。それはビジネスだけでなく、永田町や霞が関もしかりです。

日頃から省庁の方とも付き合いがありますが、彼らは先例のない提案に積極的に向き合おうとしない傾向にあるようです。それでどうして世の中の変化に国民生活が適応できるというのか、合理的な理由があるなら逆に教えて!!

今週のひと言



“例外なき原則”は存在しない。原理主義という思考停止に陥るな!

■加藤嘉一(かとう・よしかず)



1984年4月28日生まれ。高校卒業後、単身で北京大学へ留学。年間300回の取材、200本のコラム執筆、100回の講義をこなし、国境を越えて多くの著書を持つ国際コラムニスト。待望の最新刊『脱・中国論 日本人が中国とうまく付き合うための56のテーゼ』(日経BP社)がついに発売!



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