政治が脱原発のためにすべきこと 岸 博幸「『2030年に原発ゼロ』と、政府はまず言わないといけない」

週プレNEWS / 2012年7月4日 6時0分

「原発ゼロと宣言して初めて、代替となるべき再生可能エネルギーに集中的に資金が投入される」と語る岸博幸氏

迷走する民主党政権の原発政策。昨年5月の菅前首相の浜岡原発全停止要請から約1年かけて、政府は日本中の原発の稼働を、超法規的措置という“荒業”ですべて止めた。そして今度は、すでに再稼働をなし崩し的に決定した大飯(おおい)原発に続いて、ほかの原発をも再稼働させようと躍起になっている。

しかし、「即時撤廃!」から「できればないほうがいい」まで熱量の差こそあれ、脱原発というゴールを望む国民は圧倒的に多い。いったい政府はどんな未来図を描いているのか。そこに国民の声が反映される余地はあるのか。経済産業省OBで、エネルギー問題に詳しい岸博幸氏に話を聞いた。

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■人が死ぬような節電は絶対にさせてはいけない

―大飯原発再稼働をめぐる一連の騒動をどう見ていますか?

 「安全基準は暫定、でも再稼働は恒久的」という政府の決定は支離滅裂です。あれだけの事故が起きたのだから、今回の再稼働に納得できないという声が多いのも当然。ただ、そのなかで繰り広げられた議論が非常に不毛なものだったのも事実です。結局、ずっと「電気は足りる」「足りない」「即時撤廃」「元どおり稼働」という争いがあっただけ。

一部の過激な反原発派が大声を上げ、経済界はみんな再稼働だと主張する。両極端な意見の間に挟まれた普通の国民は、どこか傍観者のように引いてしまっている。この議論は1年間まったく進んでいないどころか、かえって後退している気さえします。

―そんな現状の打開策はないのでしょうか。

 今の議論は、短期的な話と中長期的な話がごちゃ混ぜになってしまっている。これを分けて考えることから始める必要があります。そもそも、エネルギー政策の目的とは何か? それは、電力を含めたエネルギーの安定供給。「安定的に適正な価格でエネルギーを国民に提供する」ことです。

そう考えれば、今後のエネルギー政策が進むべき道はおのずと見えてくる。僕の考えは「短期的には一部の原発の再稼働が必要だが、中長期には脱原発を目指そう」というものです。

―短期的には、やはり再稼働は必要だと。

 別の手段で電力を安定的に供給できるなら、すぐに原発は止めるべきでしょうが、現状でそれができるかというと非常に難しい。短期的に見た場合、代替エネルギーとして火力発電をフル稼働させるのにも、経済的リスクなど無視できない弊害があります。

将来的には原発の代わりとなるべき再生可能エネルギーだって、今の実力は十分ではない。一部には、ビジネスのために「再生可能エネルギーで電力問題はすぐにクリアできる」なんていいかげんなことを言う人間もいますが、僕はそんな人たちは無責任だと思うし、許せません。

―短期的に見た場合、原発ゼロならエネルギー需給はどの程度大変になりますか?

 地域によって事情は違いますが、例えば関西電力。大飯原発を再稼働しなかった場合、他地域からの融通分を含めても15%の節電が必要だと発表されましたよね。この数字はかなり保守的――つまり、それなりに余裕をもって算出されたものだと思いますが、一方で「足りる」という人の論拠も極めていいかげん。実態はその間のどこかでしょう。

ちなみに、15%の節電という数字は昨夏の東京電力管内と同じです。大停電は起きませんでしたが、企業も住民も実際にはかなり無理をしていました。例えば、製造業は工場の操業を休日に振り替えたり……。

―あの節電で、東電管内の企業が損失を被ったことは間違いありません。

 そして、それ以上に大事な問題は住民の命まで脅かされること。日本人はものすごく真面目で、節電にも協力的です。昨年の東電管内では、真夏にエアコンをつけず、熱中症で病院に搬送された高齢者の方が多くいた。なかにはそれが原因で亡くなった方もいた。

エネルギー政策の内容によって人が亡くなるのは最悪だと僕は思っています。言い方を変えれば、死人が出るような節電なんて絶対にさせてはいけない。そう考えると、やはり「即時撤廃」には無理があるんです。

―時間をかけて減らしていくしかない、と。

 ところが、政府は“中長期プラン”についても、いまだに原発依存率0%から25%の間で迷っている。そんなものは、もっと最初の段階で「○○年までに原発をゼロにする」と宣言しておくべきことなのに、です。中長期のエネルギー政策は8月にようやく決まるようですが、そこで政府は絶対に「2030年に原発をゼロにする」とはっきり言わなければいけない。ゼロじゃないと意味がないんです。

―意味がない、とは?

 資源エネルギー庁の昨年度のエネルギー予算のうち半分近くが原子力関連に投入されています。福島原発事故前の日本の原発依存率は約30%ですが、「これを15%に」というような“依存減”レベルの目標では予算配分は大きく変わらないし、結局は原発を続けようという話になる。ゼロと宣言して初めて、代替となるべき再生可能エネルギーに集中的に資金が投入されますから。

1970年当時、日本の総発電量のうち原発が占める割合はわずか2%程度でした。それが90年になると20%台に上がった。政府が予算を大量につぎ込んだ結果です。研究開発にある程度の資金を投入すれば、技術はどこかで不連続的に激変する。インターネットの世界もそうでした。

再生可能エネルギーがどこまで技術的に進歩するか、今の段階では誰にもわかりません。大事なことは、それでも政府が予算面で全力でバックアップすることなんです。そのために、「2030年に原発ゼロ」と、はっきり宣言しなければいけない。

―しかし、現状の政府のアナウンスを聞く限りでは、「ゼロ案」には消極的に見えます。

 誤解を恐れずに言うと、絶対に達成しなければいけない……とがんじがらめになる必要はないんです。政府も経産省も、達成する自信がないから「ゼロ」と言い切れないのでしょうが、それでは何も変わらない。

狙いは国として進むべき道を決め、政府の予算配分を変え、研究開発が進むための下地を作ることです。エネルギー構成を変えるのは数十年という時間を要するような大事業。掲げた目標に対し、いかにブリッジしていくかが重要なんです。

―しかし、そんな議論はまったく聞こえてこない。むしろ、なし崩し的に、一部の人々の意のままに事態が動き始めています。

 不幸な話です。「可能なら原発なんてないほうがいい」というのが、おそらく国民の最大公約数の意見でしょう。本来なら政府の役目とは、その思いを結実させようと努力することのはずなんですが……。

この現状を変えるには、極端な反対派と推進派ばかりでなく、普通の国民がもっと考えて意見を表明しなければ。特に、この国をこれから背負って立つ若い人たちは議論を深めるべきでしょう。個人的にはこの問題を選挙の争点のひとつにして、多くの国民の意思が反映されるような機会を作るべきだと思っています。

(取材・文/コバタカヒト 撮影/高橋定敬)

■岸 博幸(きし・ひろゆき)



1962年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)に入省。朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)への出向などを経て、小泉内閣下では経済財政政策担当大臣補佐官、金融担当大臣補佐官、郵政民営化担当大臣と総務大臣の政務秘書官を歴任。2006年、経産省退職。現在は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授



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