電力改革の第一歩? 「発送電分離導入」のあきれた裏事情

週プレNEWS / 2012年8月1日 10時0分

 電力市場の活性化に期待がかかる「発送電分離」。福島第一原発の事故が起きるまでは、電力政策を議論する場でその言葉は禁句だったが、東京電力が発言力を失ったことで状況が一変。政府として「発送電分離」を進めることとなった。では、その「発送電分離」とは何か。業界紙記者が解説する。

「やり方は分離の度合いが高い順に3形態ある。電力会社の送配電部門を資本関係のない別会社へ移す『所有分離』、送配電部門の運用を外部の独立した中立機関に委託する『機能分離』、送配電部門を子会社化する『法的分離』。今回、基本方針の中では機能分離と法的分離の2案が提示されました。最終決定は年末に先送りされましたが、いずれにしても、電力会社から送配電部門が切り離されることになります」

しかし、実際は東京電力など既存の電力会社にとって、都合のいい改革になる可能性があるという。経済ジャーナリストの町田徹氏は、こう訴える。

「結局、機能分離も法的分離も、送電線の所有は電力会社のままだから状況は何も変わらない。例えば、東京都在住のBさんが東電以外の新規A社から電気を買うことになったとします。A社がBさん宅に電気を送るには、使用料を払い、東電所有の電線を使わせてもらわなければなりません。これがバカ高いとBさんのA社からの購入は絵に描いたモチになってしまいます」

つまり、機能分離や法的分離では不十分。発送電分離は、電力会社から送電網の“所有権”を切り離し、複数の会社に分割して対等な競争をさせないと意味がないというのだ。それなら所有分離を行なえばいいように思えるが、憲法で財産権が認められているため現実的には不可能なのだという。

慶應義塾大学大学院特別招聘教授の矢島正之氏は、この改革案に懐疑的な姿勢を示す。

「そもそも、発送電分離が本当に正しい道なのかを慎重に考えなければなりません。発電と送電をバラバラの会社が運営するとブラックアウトも起こり得ます」

実際、1990年代に複数の州で発送電分離が続々と導入された米国では、約10年前にカリフォルニア州で大停電が発生。発電と送電の情報連携がうまくいかなかったことが原因と言われている。さらに、発送電分離の弊害はほかにもあるという。

「発送電分離をすれば、効率的な市場ができて電力料金が下がるとの主張もあるが、米国の電気料金の平均値は、分離を見送った州のほうが安いのが現実。分離以降、電気料金が7割も上昇した州もある。また、カリフォルニア州では発電したすべての電気を電力取引所に集めて売買させる方策を採り、市場原理導入に突っ走ったが、ある新規参入事業者による価格操作が問題になりました。発電した電力を市場に出さず意図的に電力不足の状況を作り出し、価格を高止まりさせたのです。結果として一般庶民は高くてもその価格で買わざるを得ませんでした。今やアメリカで電力の自由化を訴える人は誰もいません」(矢島氏)

実は、この改革案自体が、憎き電力会社(東電)の“解体ショー”を見せることで国民の反感をそらそうという政治的意図が裏で働いているのではないかという見方もある。

「議事録には海外の先行事例を検証した形跡がほとんど見られません。原発事故以降、『電力会社同士の競争がない』『顧客に選択の自由がない』など現行の電力制度への批判がマスコミや世論から噴出しましたが、今回の議論はそれらすべての批判に応えようと“発送電分離ありき”で、情緒的に進められた可能性が高い」(矢島氏)

果たして、日本の道筋は本当にこれでいいのか。国民ひとりひとりが、もう一度よく考えてみる必要があるだろう。

(取材・文/興山英雄)



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