思想家・東浩紀が重大提言「僕は福島第一原発観光地化計画を提案します」

週プレNEWS / 2012年9月4日 6時0分

「観光地化計画を世に問うた後に、今後の福島をどうすればいいか語り合う土壌が生まれればいい」と語る東浩紀氏

現代思想からオタクカルチャーまで縦横に語り、若者から絶大な支持を受けている思想家・東浩紀。先日も、自らが中心となって「新日本国憲法」を起草し、話題になったばかりだ。そんな“行動する思想家”が、またしても刺激的な計画を温めているという。週プレが、メディア一番乗りでインタビューを敢行した。

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■若者が「ヤバいよ!」と言ってくるくらいの刺激的な観光地に

―去る7月29日、現代美術グループ・Chim↑Pomとのトークイベントに招かれた東浩紀は、その席で「福島第一原発観光地化計画」を語った。読んで字のごとく、爆発事故を起こした福島第一原発=フクイチを観光地にしようという提案だ。今なお事態収拾のメドが立たず、日本の“はれもの”扱いされている土地をめぐって、なぜ思想家である東はそんなとんでもない計画をブチ上げたのか? 東が代表を務める出版社「株式会社ゲンロン」のオフィスで話を聞いた。

今、福島の問題について語るのは非常に困難です。僕みたいに東京に住んでいる人間が軽率なことを言おうものなら、“良識派”の人々から「被災者の心を傷つけるつもりか」と叩かれる。しかし、福島の人々の心を勝手に慮ることこそ、最悪ではないでしょうか。福島について口を閉ざすことは震災の記憶を風化させることにつながると思うし、現実にそうなりつつあります。

だから、僕は人々の関心をここにつなぎとめるために、「福島第一原発観光地化計画」を提案したい。なぜなら、観光地にするということは、その土地を記憶に留めるということですから。

今はまだ汚染がひどくてそれどころじゃないけど、20年後、30年後には、この土地をどうするかっていう議論が必ず出てくると思います。そのときのために、今からシミュレーションをしようという意味もあります。

―トークイベント以来、公でこの計画を話すのはこれが初めてだが、具体的な提案にすることを目指して、東はすでに何人かの協力者に声をかけているという。

たぶん、こういう計画を政府が進めたら、Jヴィレッジ(注1)あたりに震災記念公園を造って、はい、終わりという感じになっちゃうんでしょう。「過ちは繰り返しません」みたいな、誰が加害者なのか被害者なのかよくわかんない標語を掲げた記念館を置いて(苦笑)。

(注1)Jヴィレッジ:1997年にできたスポーツ施設。原発からは19㎞ほど離れていて、現在は原発作業員の前線基地となっている

でも、それはごまかしです。そんなつまんないところ誰も行きたがりませんよ。僕は、若者が「フクイチ、ヤバいよ!」くらいの勢いで来るような、刺激的な観光地にしてもいいと思う。忘れられるよりましですから。そのためにも、フクイチのような象徴的な場所を生かさないとダメ。場所自体の抱える傷の深さを未来の世代に体験してほしいんです。

というのも、僕は昨年4月20日に浪江小学校(注2)に行ってるんですね。当時、誰もいない教室にランドセルがいくつも放り出されていて、卒業式シーズンだったからなのか黒板には「6年生の先輩ありがとう」みたいな文字が残されていた。校内ではブザーがずうっと鳴り響き、置き去りにされた水槽の中でまだ生きた魚が泳いでいる。そんな異様な光景を目の当たりにして、鳥肌が立ちました。

(注2)浪江小学校:原発から5kmほどの場所にある。浪江町は、全域が避難区域に指定されている

僕はそうしたトラウマの残る土地をほかにもいくつか見たことがある。なかでも、アウシュビッツは強く印象に残っています。特に「第2収容所」のあったビルケナウという場所には、終戦直後の放火によって崩れ落ちた建物や、収容者を運んだ列車がそのまま放置されていて、すごく怖い(90年代当時)。まるで、死者の霊がすぐそばにいるような感じがするんです。

そういった生々しい土地の力を実際に体験すると、最初は軽薄な気持ちで来た観光客も「これは“ヤバイ”って喜んでいる場合じゃないな」と感じざるを得ないと思うんです。

だから、フクイチに関しても、あの付近の状態を可能な限り保存して、爆発の衝撃を追体験できるようにすればいいと思いますね。







■すでに僕らは、荒唐無稽な「SF的世界」に生きている

―今回の原発事故で放出された放射性物質・セシウム137は、30年後の「半減期」には放射線量が半分になるというものの、微量ながら数百年、数千年後も放射線を発するというものだ。こうした長期にわたる被害を受けたこの国を、東は「SF的世界」だという。

数百年、数千年後って、日本そのものがなくなっててもおかしくない未来。そのときにも放射能は残り続ける。すでに僕らは、そんな荒唐無稽なことを考えなきゃいけないような、SF的世界に生きているんです。この現実に立ち向かうためには、同じようにSF的想像力を駆使しなければならない。だから、この観光地化計画も、今までにない「荒唐無稽」なものにしないといけない。

例えば……、フクイチの近くからiPhoneをかざすと、AR(注3)で爆発の様子が再現されて、モクモクと煙が上がるとか。あるいは、体験施設の地面が揺れて、ガイガーカウンターの数値がぐんぐん上がっていくとか。さらに、東電の緊急対策本部を再現して、中に入ったら当時の首相がすっごい怒ってて「こりゃヤバい!」みたいな(笑)。そこでベントを開くか開かないか、というゲームがあってもいい。

(注3)AR:拡張現実(Augmented Reality)。iPhoneなどの画面に映した現実世界に、文字や映像情報などを重ねて表示させる技術

不謹慎ですか? でも、それが後世の記憶につながるならいいと思うんです。いい意味での“ヤバさ”のあるアトラクションを集めた、ある意味で「刺激的」な場所にしなければ、フクシマはすぐ風化してしまう。僕は、そうした“ヤバいものを見たい”という人々の軽薄な好奇心だって利用するべきだと思うんです。

今の世の中では、そうした軽薄な好奇心をあおる消費社会=悪と考えられています。どんどん電気を使ってきた消費社会を見直して、今すぐ原発を止めようという世論が強い。しかし、僕はそんな主張こそ荒唐無稽だと思います。すでにわれわれはとことんまで消費社会につかっているし、一度豊かな生活をしたら二度と後戻りできないのが人間。

だから、そういう消費社会を敵視せず、むしろその人間の欲望を逆手に取ることを考えるべきでしょう。そして、軽薄な好奇心によって集まった人々の間に、新しい「公共空間」を立ち上げる―。

つまり、被災地を観光地にして、そこをみんなで震災について考える場にする。それが、この計画の根本的な目的ですね。







■原発をなくせば済むという話ではない

―現在、「株式会社ゲンロン」では、東が編集長となって1年に1冊のペースで『思想地図β』というオピニオン誌を発行している。数千円もする大部(たいぶ)の本で、しかも中身はハードな評論が並んでいるにもかかわらず、若い読者を中心に異例の売り上げを記録。今回の「福島第一原発観光地化計画」も、来年発行される『思想地図β』第4号のメインテーマになる予定だ。

まずは、社会学者や政治家、福島の人々に参加していただき、研究会のようなものを立ち上げようと思っています。その結果報告として、『思想地図β』にいくつかのテキストを載せることになるでしょう。その一方で、僕はその観光地計画を手で触れるような形にした“ジオラマ”を作りたいとも思ってるんですよ。

アキバなんかに行くと、よくゲームと一緒にフィギュアのついたデカい箱の美少女ゲームなんかが売ってるんです。実はあれがやりたい(笑)。要するに、アキバ的なもので今回の計画をパッケージするということを。

アキバとフクシマ、無関係だと思われるかもしれませんが、そうではありません。戦後日本にとって、原子力はただのエネルギーではなく“憧れ”の対象だった。自然に対する科学力の勝利であり、輝かしい未来の象徴だった。だからこそ、人々は原子力から生まれた『鉄腕アトム』に夢中になったんです。そして、そんな科学やコンピューターが大好きなオタク少年がつくったのがアキバ文化。他方で、その科学信仰・文明信仰の帰結として起こったのが今回の原発事故。アキバとフクシマは、両方とも高度経済成長の落とし子なんです。

アトム、アキバ、フクシマは実は一直線でつながっているということです。だから、僕にとって今回の観光地化計画は、3・11以前と以後の日本の文化をつなぐプロジェクトでもあるんです。

―取材が始まったのは夜の10時過ぎ。このとき、すでに時計は午前0時近くを指していたが、東の口ぶりには熱がこもるばかりである。そして、批判は戦後の日本社会全体にまで及んだ。

津波っていうのは天災ですけれど、原発が事故を起こし、われわれがそれに対処できなかったというのは、戦後日本の文化がたどりついた“必然”。だから、ことは原子力をなくせば済む話ではないんです。なぜわれわれはこのような文化を持ち、過ちを犯したのかということをちゃんと認識し、記憶しなければならないんです。

しかし、日本で議論すると、どうしても“お金の話”が突出しちゃう。最終的にはみんな経済の復興のほうへ目が向いちゃうんですね。このままだと、第2次世界大戦後の失敗をまた繰り返すことになりますよ。

われわれはあのとき、文化的な清算を行なえなかった。戦争という悲劇をちゃんと受け止めて議論するべきだったのに、“一億総懺悔”ということで済ませて、高度経済成長に邁進してしまった。だから、われわれはいまだに自分たちが被害者か加害者かもよくわからないし、靖国問題も解決できていないんです。

今回の原発事故に関して、また同じ大失敗を繰り返すのか、それとも、起こったことをちゃんと引き受けて議論し、記憶できるのかということは、この国の未来を占う上で非常に重要な課題だと思います。







■今後の福島を語り合うための土壌をつくりたい

英語で「Fukushima」という単語をインターネット検索すると、セットで「放射能」に関する言葉が出てくるのを知っていますか? これを「風評被害」と切り捨てて、「福島は安全です。復興もしています」といっても、世界へ広がった「Fukushima」という語のイメージは変えられない。じゃあ、それを積極的に受け入れて、次代に過ちの記憶を残す方法は何かっていったら、ひとつには文化遺産にすることだと思います。

世界には、“負の世界遺産”と呼ばれる場所がある。実際に世界遺産に登録された物件のうち、“人類の起こした悲劇を伝える”という使命を背負ったもののことだ。具体的には、アウシュビッツや広島の原爆ドームが挙げられる。「フクイチも世界遺産にするべきか?」という問いに、東は、「個人的にはするべきだと思う」と答えた上で、こう語る。

僕は自分の考えを押しつける気はありません。最終的に、福島の県民が「もうなかったことにしたい」というのであれば、すべて更地にしてしまうのも仕方のないことだと思います。

ただ、大事なのはちゃんと議論をすること。そのためには観光地化のような挑発的な提案があってもいい。僕は、この観光地化計画を世に問うた後に、今後の福島をどうすればいいか語り合う土壌が生まれればいいなと思うんですよ。

僕らは、『思想地図β』の中で新しい憲法草案を作った(2012年7月発売の第3号に掲載)。その動機は、憲法学者や政治家ではなくても憲法について語り、提案することはできるということをみんなに知ってほしかったからなんですね。

―東らの作った「新日本国憲法ゲンロン草案」は、『朝まで生テレビ!』でもメインテーマとして取り上げられるなど、発表直後から大きな話題を呼んだ。

今までは、「憲法を変える」とか「国を変える」なんて言っても荒唐無稽な話だと思われていたのに、3・11以降、「この国は本気で変えないとヤバイんじゃないか」ってみんなが気づきはじめた。それは、震災を経て世の中が変わったということであり、唯一、希望を見いだせる部分ですよね。

正直、こうして週プレさんまで取材に来てくれるとは思ってなかったですよ(笑)。ようやく、広い世間に自分がリーチできるようになってきた気がします。

だから今後、僕は本来の意味での“リベラル(革新勢力)”として、どんどん提言していきますよ。

(取材・文/西中賢治 写真/井上太郎)

●東 浩紀(あずま・ひろき)



1971年生まれ、東京都出身。東京大学大学院修了。博士(学術)。フランスの現代思想家、ジャック・デリダの研究から美少女ゲームの分析まで、哲学とオタク文化を結びつけて論じる。代表作は『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』『動物化するポストモダン』『一般意志2.0』など。また、小説『クォンタム・ファミリーズ』で三島由紀夫賞を受賞。Twitter IDは@hazuma

■『思想地図β vol.3 日本2.0』



ゲンロン 3360円



東が編集長となって発行するオピニオン誌。7月に発売された最新号には、話題となった「新日本国憲法ゲンロン草案」のほかにも、「列島改造論2.0」「文学2.0」「国民クイズ2.0」など、さまざまな形で日本をアップデートするための論考が並ぶ。また、巻頭には東も出演する意味深なコスプレグラビアも。ゲンロンショップ【http://shop.genron.co.jp/】で購入可能



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