元外務省・佐藤 優×国際ジャーナリスト・河合洋一郎が解読! 「緊迫するシリア情勢の裏側」

週プレNEWS / 2012年9月27日 6時0分

作家・佐藤優氏(左)と国際ジャーナリスト・河合洋一郎氏が中東情勢を解読するスーパーインテリジェンス対談

日本人ジャーナリストの死で、にわかに注目されたシリア情勢だが、その背後にはイランを中心とする中東諸国、そしてアメリカの対立構図がある。混迷を極める中東情勢はどうなっていくのか? 大統領選挙間近のオバマ米大統領に秘策はあるのか? 佐藤優と河合洋一郎が裏の裏を読み解く。

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■シリア内戦が民主化につながる可能性はゼロ

―8月20日には日本人ジャーナリストが銃撃戦に巻き込まれてしまう事件が起きましたが、それ以後もシリアの混乱がなかなか収まりません。これからシリアはどうなるんでしょうか?

河合 今、あそこで起きていることをシリア国内だけの問題と考えてしまうと完全に本質を見誤ります。あの内戦にはイラン情勢が密接に結びついている。

佐藤 ええ。そもそも1979年のイランのイスラム革命には、古代の12イマーム派(イスラム教シーア派の一派)の教義を現代用に組み立て直した上で、ペルシャ帝国主義が加味されている。現在のシリア情勢にイランがここまで関係してくるのも、ペルシャ帝国の版図の中にシリアがあったということが根底にある。

河合 それに関連した話なんだけど、シリア情勢の背後には、あの地域のシーア派対スンニ派の陣取り合戦がある。それが混迷を極めているんです。

―陣取り合戦?

河合 以前からイランには、西は地中海から東はペルシャ湾までの間に“シーア派ベルト”を構築するという戦略があった。具体的にはレバノン、シリア、イラク、イランの4ヵ国。横並びの反米・反イスラエルのシーア派連合です。

2003年にアメリカが仕掛けたイラク戦争も、イラクのサダム・フセイン政権を倒して親米民主主義政権を樹立し、ベルトに楔(くさび)を打ち込むことが本当の目的だった。大量破壊兵器なんて口実にすぎなかったわけです。

佐藤 でも、イラク戦争は大失敗だったよね。

河合 ええ。結局、今のマリキ政権はイランの支配下に入ってしまい、念願のシーア派ベルトがほぼ完成した。そんなときに起きたのが今回のシリア騒乱です。反体制派を支援しているのはトルコ、カタール、サウジアラビア。なぜ彼らがそうするかというと、シーア派ベルトは中東地域のスンニ派諸国を分断してしまうからです。







―なるほど、支援しているのはいずれもスンニ派政権!

河合 その背後には当然アメリカがいます。シリアにスンニ派政権を樹立できれば、シーア派ベルトを断ち切れるわけですからね。つまり大きな視点で見ると、シリアで今起きていることは、イランを中心としたシーア派勢力とスンニ派周辺諸国の、生き残りをかけた陣取り合戦なんです。

―これまでに「アラブの春」で起きた騒乱とは、規模も性質も全然違うんですねえ。

河合 そう。気になるのは、昨年末頃からシリア内乱が“イスラム聖戦化”してきているんです。

佐藤 自爆テロが大流行している。

河合 昨年12月に自爆テロが初めて発生して、その翌月に突然、アル・ヌスラ・フロントというアルカイダ系の組織が登場した。それからこれまでに自爆テロが25回くらい起きている。面白いのは、昨年末にシリアの刑務所からアブ・ムサブ・アル・スーリという男が釈放されているんですよ。

―何者ですか、それは?

河合 アルカイダの有名なイデオローグ(理論的指導者)。イランとの関係も深く、その筋の人間たちの間では超有名人です。

―なんでまた、その男を……。混乱を助長させるためですか?

河合 一番シンプルに考えれば、そういうことだね。シリアのバシャール・アル・アサド大統領は騒乱が発生した当初から「外国人テロリストが事態を悪化させている」と言い続けてきたから。

佐藤 それを“現実化”したという解釈ですね。

河合 さらに興味深いのは、イランは都市部ではバシャール政権を支援しているんだけど、地方の砂漠地帯では反体制過激派を支援しているという情報があるんです。そうしておけば、どちらに転んでも影響力を残せるし、シリアの混乱が続くほうが今のイランにとっては都合がいい。欧米諸国との交渉カードに使えるからね。

佐藤 要するに、シリア内戦が民主化につながる可能性はゼロ。たとえアサド大統領が殺されても、です。このままいけばアフガニスタン化する可能性が高いですね。

河合 バシャールは、首都ダマスカスの丘の上にある官邸に立てこもっているでしょう。

佐藤 あの下には、北朝鮮に掘ってもらった東京スカイツリーくらい深い地下施設があるらしい。一番下は地下都市のようになっていて、2、3年ならば快適に過ごせる物資があるそうですよ。

―逆スカイツリー! それじゃ内戦は当分続きますね。一方、イスラエルはシリア内戦をどう見ているんですか? バシャールはいなくなったほうがいい?

佐藤 いや、逆ですよ。イスラエルからすれば、どんな形でもいいからシリアに安定してほしい。それが彼らの本音です。それには現政権維持が一番いい。

河合 ええ、そう思います。イスラエルはシリアのバース党政権と戦争もしたし、いろいろあったけれど、付き合いは長い。現政権なら反応が予測可能なわけです。







■聖地・コムの核施設にミサイルを撃ったら?

―そこでいよいよ問題の本丸に入りますが、イランの核開発問題はどんな状況ですか?

河合 最近、イスラエルのネタニヤフ首相あたりはかなり強硬なことを言い始めている。イランの核保有が目前に迫っているからオレたちは叩く、とか。

佐藤 ネタニヤフは本気みたいだけど、イスラエルのインテリジェンス・コミュニティ全体が攻撃に反対しています。ただし、イランはいま20%までのウラン濃縮をやっていますが、それ以上は“レッドカード”だと認識している。そこを踏み越えたらイスラエルがどうするかわからない。

―核兵器開発に成功したら、イランは本当にイスラエルに核攻撃を加えるんでしょうか。

佐藤 アフマディネジャド大統領は本気でそう思っている。彼は12イマーム派の「この世の終末に、お隠れになった救世主(イマーム)が再臨する」という教義を信じています。でも、現実的には最高指導者のハメネイ師がやらせないでしょうね。彼は、そんなことをすればイランという国が消滅してしまうとわかっている。

―ということは、イランによる先制攻撃はない、と。

佐藤 でも、問題はそれだけじゃないんです。イランが核保有国になれば、周辺のアラブ諸国も対抗して核保有に踏み切る。そうなるとドミノ式に世界中でいろんな国家が核を持とうとするでしょう。現在のNPT(核拡散防止条約)体制が崩壊してしまう。

河合 実際、サウジアラビアはその方向で動き始めています。中国から新しい弾道ミサイルを買って、それに載せる核弾頭はパキスタンから調達しようとしている。それに関連して面白い話があるんです。7月の終わりに首都リヤドのサウジ情報機関本部で爆発があったんですが、それ以後、情報部長官のバンダル王子が姿を消してしまった。生きているのか死んでいるのかさえもわからない。

―バンダルといったら、駐米サウジ大使を長年務めていた大物ですよね。暗殺ですか?

河合 現時点ではまったくわかりません。その1週間ほど前にダマスカスでシリア政権中枢を狙った自爆テロがあったんですが、それがサウジの犯行だったために復讐されたという説もある。一方で、バンダルは核獲得の極秘交渉を行なっているという説もある。

―やっぱり中東は奥が深い……。ところで、「イランの核施設をイスラエルが叩いたら、イランはホルムズ海峡を封鎖して日本に石油が入ってこなくなっちゃう」という話をよく聞くんですが。

佐藤 そのシナリオは心配しなくていいと思います。イランがホルムズ海峡を封鎖しても、厳密にいえば国際航路帯にはなんの影響もないんです。タンカーの国際航路はオマーンの領海を通っているので、イランがオマーン側に機雷を仕掛けるとか、オマーンに対して宣戦布告しない限り、タンカーは問題なく通航できますから。

―よかったあ~。

佐藤 ただ、ちょっと気になるのは、イランは核施設をコム周辺に移していますよね。これがややこしい。

河合 コムといえば、シーア派の聖地中の聖地ですからね。

佐藤 ええ。そこにイスラエルがミサイルを撃ち込んだらどうなりますか? イランは本気で怒りますよ。アフマディネジャドと違ってハルマゲドンを信じていない指導者たちも、コムを叩かれたら全面戦争に踏み切る可能性が高い。そうなったら、世界最終戦争に限りなく近づきますよ。

河合 湾岸諸国も巻き込まれる可能性が高いな……。

―やっぱり、石油もまずいですね……。





■野田政権がいきなりイランを締め上げた?

佐藤 こういう状況を考えると、そのうちアメリカは「イランと国交回復したほうがいい」と思い始めるんじゃないかな。アフマディネジャドのような過激思想を持つ人々が次の選挙で“排除”され、より現実的なハメネイ師の下で核不拡散の担保が取れるなら、もうイランと国交正常化してもいいんじゃないか、と。

河合 ええ。実はね、そういう話がすでに囁(ささや)かれているんですよ。今年はなんの年?

―あ! 11月6日にアメリカ大統領選挙があります。

河合 大統領選の投票日の前に、現職の大統領が支持率を上げようと、よく外交的にデカいことをやろうとします。“オクトーバー・サプライズ”というヤツです。軍事行動が多いんだけど、今年に限っては、オバマは逆オクトーバー・サプライズをやるんじゃないかと。

佐藤 イランとの和平だね。

河合 そう。でも、人気取りのためにそんなことをやろうとしたら、イランに足元を見られていいようにやられちゃうだろうけど。

―そんななか、わが日本の民主党政権はどんな立ち位置にいるんですか?

佐藤 それが案外うまくやっている。イランからの原油輸入量を相当減らしたんです。外務省や経済産業省は減らしたくなかったけれど、完全に官邸主導でやった。

―お得意の政治主導ですか!

佐藤 昨年末にアメリカで可決された対イラン制裁関連法案の影響で、このままイランの石油を買っていると、日本のある大銀行がアメリカの金融機関と取引できなくなることがわかったんです。こりゃまずい、と野田政権は、いきなりすごい勢いでイランを締めた。もう欧米やイスラエルと同じスタンスですよ。どこまでイラン核問題というものを理解してやっているのかはわかりませんが、自民党時代のフニャフニャした中東政策とは大違い。

―結果的にはすごい勢いでイランを懲らしめている(笑)。

佐藤 ただ、やっぱり困った人もなかにはいらっしゃいましてね。「日本ならイランとアメリカの間を仲介して問題を解決できる」と、大いなる勘違いをしてテヘランに行っちゃった人がいる。

―今年4月にイランを“電撃訪問”して、アフマディネジャド大統領と会談しちゃった鳩山由紀夫センセイですね(笑)。

河合 あれ、何か裏の理由があったんですか?

佐藤 ない。まったくの飛び込み。

河合 アメリカからメッセージを託されていたとか、何もないの?

佐藤 友愛の精神で行けばなんとかなる、と(苦笑)。結局、ただでさえ複雑な状況をさらに複雑にして帰ってきて、国際社会から大ヒンシュクを買った。

―「IAEA(国際原子力機関)はダブルスタンダードだ」と言ったとか言わないとか、あの騒動ですね(笑)。

佐藤 それでも懲りずに、今度はパレスチナに行きたい、なんておっしゃっていたようです。今は民主党最高顧問職から外れたので、その可能性はなくなりましたが。

河合 困った人ですね。もうちょっと勉強してもらわないと……。

(協力/小峯隆生 撮影/高橋定敬)

●佐藤 優(さとう・まさる)



1960年生まれ。作家、元外務省主任分析官。外務省時代は対ロシア外交を中心に、インテリジェンスの最前線で活躍した。最新刊「人間の叡智」(文春新書)など著書多数

●河合洋一郎(かわい・よういちろう)



1960年生まれ。アメリカや中東をはじめ、世界各国の諜報機関に独自のネットワークを持つ国際ジャーナリスト。その情報収集力、分析力には定評がある

『シークレット・ウォーズイランVSモサド・CIAの30年戦争』



佐藤 優/監訳 河合洋一郎/訳 ロネン・バーグマン/著



並木書房(価格未定)



イラン革命以後、アメリカ・イスラエルとイランはなぜここまで対立を続けているのか? 反体制派の暗殺、テロ、諜報戦、核開発など30年にわたる“秘密戦争”の裏側が明かされた超大作。10月上旬発売予定、四六判520ページ





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