プロらしくない顔の香川真司には、まだかなり成長の余地がある

週プレNEWS / 2012年10月2日 6時0分

「香川のように感情が正直に顔に出る人間には伸びしろがある」(イラストも小田嶋隆氏)

果たしてプレミアリーグで高い期待に応えることができるのか注目の香川真司。サッカーファンで知られる人気コラムニストの小田嶋隆氏は、香川の表情から今後の活躍を予想する。

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知り合いの野球ファンにM田という男がいるのだが、彼に言わせると、野球選手の将来は、八割方、入団時の顔で予測できるのだそうだ。顔の造作ではない。顔つき、すなわち表情を通して、だ。

スラッガーは、とにかく正直でないといけないらしい。

「松井秀喜の入団会見の時の顔を覚えてるか?」

「いや」

「ずっと口開けてたぞ。それもナガシマさんがしゃべってる時に」

この時に彼は、松井秀喜の将来を確信したのだという。これだけ真正直に退屈を表現できる選手には、伸びしろがあるはずだ、と。

その点でいくと、香川真司には、まだかなり成長の余地がある。つい先日のW杯予選イラク戦でも、腰痛のためにベンチから外れて観客席からゲームを眺める香川は、ヘラヘラした表情を浮かべていた。

私は、統計学の授業を受ける大学1年生みたいな顔で試合を観戦する香川を確認して、ちょっと安心した。大丈夫だ。この選手は参っていない。そう思った。

とはいえ、本当のことを言うと、これまで私が、香川の顔が一向にプロらしくならないことに、不満を抱いていたこともまた事実だ。

一流の選手は一流の顔を持っている。例えば、中田英寿は代表デビューの時点で、すでにプロの表情(具体的に言えば「鉄壁の無表情」)を浮かべていた。

「で?」

と、予想外の逆ツッコミを浴びたアナウンサーが絶句するほど、ヒデの目付きは鋭かった。

「あんたはバカか?」

と、その眼球は問いかけていた。

彼はイタリアに渡った21歳の時点で、すでに完成品だった。ということはつまり、後の時点から振り返って、もはや伸びしろがなかったということでもあるのだが、とにかく、その時点で中田英寿は伸びしろなんか必要がないほど、見事なスキルとメンタリティを備えている選手だったのである。

スキルについて言うなら、香川も遜色のないレベルにある。あるいは現時点で、ヒデの全盛期をしのいでいるかもしれない。

でも、フィジカルとメンタルは追いついていない。表情を見ればわかる。香川の顔には、あらゆる感情がプリズムみたいに表出する。動揺、焦り、喜び、不安、興奮、それらが画面を通じて真正直に、モロに伝わってくる。

プロとしては弱点だ。何より敵に読まれる。だから、味方にも信用されない。誰がこんなガキにパスを出すというのだ?

しかしながら、最初に言ったように、感情が正直に顔に出る人間には伸びしろがある。というのも、感情は戦士にとってはマイナスでも、人間の成長には不可欠な、ほとんど唯一の燃料であるからだ。

ケガや言葉の不自由や異文化のストレスの中で、香川があのビビッドな表情を持ちこたえていたことは、賞賛に値することだ。なぜなら、孤立環境にある者の無表情は、成熟の証であるよりは、単に拒絶の表現である場合が多く、孤立環境にある人間の感情の豊かさは、その人間の強さだからだ。

イングランドでは、ぜひヘラヘラした顔でゴールを決めてほしい。大丈夫。東洋人のヘラヘラ笑いは、強力な武器になる。

●小田嶋 隆(おだじま・たかし)



1956年生まれ。近著に『小田嶋隆のコラム道』(ミシマ社)。浦和レッズファンとしても知られる



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