“原発”をテーマに映画監督・園子温と小説家・樋口毅宏が吼える!「今の日本は『希望の国』ではなく『子供の国』だ」

週プレNEWS / 2012年10月26日 20時0分

映画界の異端児と小説界の俊才。ふたりの“最危険人物”が「必然」の邂逅を果たす!

暴力や性といったタブーに真っ向から挑み続けてきた映画監督・園子温と、斬新な感覚と作風が文学界に波紋を起こしている小説家・樋口毅宏。どこか同じにおいを持つふたりが、3.11以降、そしてこれからの日本について語り合った。

***

■エンタメにするには原発はタブーすぎる

樋口 園監督の最新作である『希望の国』、素晴らしかったです。もちろん、今までの映画も監督の中に「やらなければならない」という必然があって撮られてきたのでしょうけど、今回の作品ほど監督が誠実に、自己と社会と向き合った作品はないと思います。

 何よりも最優先に撮らなければならない映画でした。最初は現地に入ったらいろいろ取材するつもりだったんだけど、進めていくうちに、出会った肉声や下部構造だけで十分で、むしろ脱原発のメッセージはいらないという確信に変わったんです。

樋口 僕は3・11以降、『二十五の瞳』という小説を書いたんです。僕も園監督も、それまでエクストリームの表現が多かったのに、3.11以後を反映させた世界を描いたら、実はいい人だとバレてしまった(笑)。

小説では序章と終章に僕と妻が出てきて、原発が爆発して、東京にも放射能が飛んできたことを書いたんですけど、「なぜそんなことを書くんだ? 福島出身でもないのに」って散々言われて。そういうことを言ってくる人、いませんか?

 いますね。こんな小さな島国で、県境の話をしてもしょうがないのに。そういうことに固執するから、反省も分析もないまま同じことを繰り返してしまう。もしまた次に4度目の被曝をしたら、日本人は世界の笑い者だよ。

樋口 被曝国なのに、原発が54基もあるわけで。この数って、異常ですよね。それももちろんアメリカの指図があったわけですが。

 本当にこの国はおかしいよ。もはや日本人全員が“福島県民”なのに、核の問題について深く考えてみることすらしない。まずは、その事実を認識したほうがいい。

樋口 今回の映画で象徴的だったものに「杭(くい)」があります。

 映画の中で庭が避難地域とそうじゃない地域に分断された家を描きましたが、実際に福島に行ったとき、そういうふうにテープを張られて分断されている家があったんです。解除後も区域内だった庭には花が咲いていなかったので、なぜかと聞いてみたら、「花を咲かせたら、境界がわからなくなる。この事実を子供たちに伝えていくために、ここに杭を打とうと思うんです」って。みんな“しるし”を残そうとし始めている。







樋口
 日本に住んでいる人の心の中にも杭が打たれてしまいましたよね。それなのに、日本のメジャーな監督で真っ向から福島を撮ろうとしているのが園子温ひとりという。

 以前、「映画を撮ってる」と言うと、父親に「そんな芸能の世界にいきやがって」と言われて。違う、芸術だって思っていたんだけど、やっぱりしょせん芸能だなと最近思っているんです。エンタメの世界だなって。原発のテーマは、アートの世界だってみんなやってるのに……。ハリウッドはホットな時事問題を扱うし、それでアカデミー賞を獲ってカネも稼ぐじゃない。そういうたくましさがどうして日本のプロデューサーにはないのかなあ。

樋口 今回、「スポンサーが集まりにくくて苦労した」って、監督も『希望の国』の原作本に書いていらっしゃいましたね。

 原発を日本でエンタメにするにはタブーすぎるんですよ。結局、今回の映画に出資してくれたのもイギリスと台湾。合作映画になっちゃったっていうね。

樋口 その上、あーだこーだ言われて。

 NHKの人が言ってたけど、津波の映像を流して「忘れたいのに」ってクレームをつけてくる人は、絶対に被災者じゃないんだって。そりゃそうだよ、津波で家を流された人がその事実を忘れられるわけがない。逆に「覚えとけよ」って言うよ。だから、被災地に一度も行ったことないくせに家でぬくぬくテレビを見て「かわいそう~」とか言ってるヤツが、「園子温が震災の映画を撮った? いただけないヤローだ」って言ってきても、気にもならないよ。

樋口 僕も行ったことないけど(笑)。

■優れた作品は極めて予言的だ

樋口 今回の映画は震災の映画であり、恋愛映画でもありました。3組の夫婦や恋人たちの愛もそうですし、園監督とご両親の関係が見えるような血縁の愛もあった。

 自分が理想とする家族をつくり上げて、原発で一家離散したらどうなるかを描いてみたかった。うちのおふくろも認知症だしね。

樋口 (主人公の妻役の)大谷直子さんの「うちに帰ろう」という印象的なセリフも、お母さまが実際におっしゃっていたんですよね。

 そうそう。一度どこに帰るのかと付き合ってみたんです。最初の実家があった場所などあらゆる所へ行ったんだけど、どこも「違う違う、うちに帰ろう」って。それで「あ、過去のことだ」ってわかって、車じゃ行けない場所だったのか、それならオレを誘うなよって(笑)。それが元ネタです。







樋口
 本作も奥さまの神楽坂恵さんが出演されていますが、監督が神楽坂さんのことを好きなのがよくわかった。「監督」と妻である「女優」の関係性がにじみ出ている映画って多いですよね。

 オレはそういうの、恥ずかしげもなく出しちゃう(笑)。高校生くらいのときは「OH! YOKO」と歌うジョン・レノンが恥ずかしくてしょうがなかったんだけど、年を重ねた今は、“表現はあからさまでないとイカン!”と。だから、現場でも恥ずかしがらずにいきたいなと思っています(笑)。

樋口 ジョン・カサヴェテスとジーナ・ローランズの『こわれゆく女』みたいな作品を期待します!

 歌といえば、今、忌野清志郎のザ・タイマーズを聴いています。早いな~と思って。オレ、当時は自分もロッカーだったから、「ロッカーは社会派だよな」くらいにしか思っていなくて。原発にそんなに興味もなかったし……。清志郎って今のオレに何か言ってくるような冷めた視線を持っていて。もし生きていたら、どう思ってるんだろうってよく考えます。

樋口 優れた作品って、極めて予言的なんですよね。しかも清志郎は、反核・反原発のメッセージソングを含むアルバム『COVERS』を東芝EMI(当時)から出そうとしていましたから。出すわけないじゃん、あれだけ原発に関与している会社が。どれだけ孤独な闘いだったんだろう。今は、監督が孤独な闘いを強いられているわけですけど。

 清志郎ほどじゃないけど、でもまあ、ある意味、皮肉だよね。

■これからも福島の映画を撮り続ける

 今の日本は、羊小屋で火の手が上がってるのに、じりじり後ずさりしている感じ。オレは「羊たちの沈黙」って呼んでるんだけど(笑)。

樋口 うまいなー(笑)。

 この間、素晴らしい放送事故みたいなクイズ番組を見たんだよ。この話を聞いたら、絶対怒るよ?

樋口 大丈夫です。僕、今まで怒ったことないんで(笑)。

 「第二次世界大戦で日本が戦った相手はどの国でしょう。1・アメリカ。2・イタリア。3・ドイツ」ってあって。

樋口 ほう(笑)。

 「ヒントください、ヒント」って。某女性タレントは「アメリカは友達だしな」ってつぶやいてて。それで、みんなで出した答えが「イタリア」。「残念、アメリカでした!」って。オレは夢を見てるのかと思って……。今、こんなに地盤沈下してるのかってビックリした。広島、長崎に原爆を落としたのは誰だと思ってるんだろ。







樋口
 今の日本は「希望の国」じゃなくて「子供の国」ですね。

 つぶやきもいいよね。アメリカは友達だからなーって、マクドナルドとかハリウッド映画とかのことを言っているんだろうね(笑)。あれはね、映画化するべきだと思うよ。本人に出てもらってね。

樋口 ……自分で言うのもはばったいですけど、僕の著作、今まで何十人もの人に「園監督で映画化希望」と言われてきまして。

 原発よりタブーじゃないの?(笑)。原発映画を撮ってるから撮れるかな。だけどオレ、『ヒミズ』を撮ったときに散々「原作と違う」って叩かれたからね。

樋口 ふざけるなですね。僕は『ヒミズ』の原作マンガも大好きだけど、3・11があって園監督がラストを変えたと聞いて、胸を打たれたし。

 あの時期、ラストに自殺はあり得ないよ。だけど皮肉だよね。もし、あのとき撮っていたのが『ヒミズ』じゃなかったら、3・11は入れにくかっただろうし。そうでなければ、その後、『希望の国』を撮ったかどうか。

樋口 だけど、『ヒミズ』はドンピシャのタイミングだった。

 だから3・11を入れざるを得なくて、一度撮ったら撮り続けていくしかなくなってしまった。これからも福島の映画は撮り続けるんだろうな。ただそうなると、沖縄の映画も撮りたいとか、原爆の映画もとか、広がっていっちゃうんだよね。

樋口 でも、やるんだよ!

 日本人は視野が狭いんだよ。戦争にもいろいろなテーマがあるのに、今のところ日本の優秀な戦争映画ってイーストウッドの『硫黄島からの手紙』と『火垂るの墓』くらいしかない。外国人が撮ったものとアニメかよ、と。情けない。

樋口 『硫黄島からの手紙』は、おすぎさんが「普通の映画のレベル」って言っていましたけどね(笑)。あきれるね、あのおじさん。

僕も書き続けていきますよ。忘れたふりなんかしない。いろいろ言ってくるヤツらより、僕たちのほうが思いは強いですから!

(取材・文/山脇麻生 撮影/佐賀章広)

●園子温(その・しおん)



愛知県出身。『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『ヒミズ』などの作品で国内外から高い評価を受ける。今回、『希望の国』で第37回トロント国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞

●樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)



東京都出身。出版社勤務を経て2009年『さらば雑司ヶ谷』でデビュー。以後、精力的に作品を発表。最新作『二十五の瞳』には著者自身と妻が登場し、物語誕生の秘密が明かされる

■園子温監督最新作『希望の国』



東京・新宿ピカデリーほか全国ロードショー公開中



東日本大震災の数年後、長島県沖で巨大地震が発生。長島第一原発から半径20km圏内は警戒区域となり、酪農を営む小野家の庭を分断して境界線が引かれる  (c) 2012 The Land of Hope Film Partners



【関連ニュース】

週プレNEWS

トピックスRSS

ランキング