加藤嘉一「中国で蒔いた種が国境を超えて育ち、さまざまな場面でぼくを助けてくれてしまうんです」

週プレNEWS / 2012年11月12日 15時0分

慣れない環境にいるぼくを気にかけてくれる人たちには本当に感謝しています。しかし、そこに疑問を感じてしまうことも……。ぼくのわがままを許してください。

ぼくが初めてクレジットカードを持ったのは1年前、27歳のときです。基本的にこれまでは、支払いはすべてキャッシュというスタンス。母親からも「カードなんて持つもんじゃない」と言われてきました。

しかし、ここアメリカはキャッシュレス大国。どこへ行ってもクレジットカード、もしくはパーソナルチェック(小切手)での支払いを求められます。家賃、携帯電話料金、コンビニ、時にはタクシーでさえカードじゃないと文句を言われることがあります。最近はさすがに慣れてはきましたが、キャッシュレス生活は未来の自分から借金をしているようで、どうも釈然としません。

釈然としないといえば、実は周囲の人間関係にも若干、同じような思いがあります。

ハーバードの学生や大学界隈には中国人がとても多く、至る所で「あ、加藤さん! なんでここに!?」と声をかけてもらえます。異国の地で新しい生活を始めたばかりのぼくからすれば、心温まります。買い物に行こうと外に出れば、「クルマで乗っけていってあげる」と親切にアジア系食材店まで連れていってくれたり、携帯電話の契約や家探しを手伝ってくれたり、家財道具をタダでくれた親切な方もいらっしゃいました。

中華系ネットワーク恐るべし。ぼくが中国で蒔いた種が国境を超えて育ち、さまざまな場面でぼくを助けてくれてしまうんです。

また、ぼくが在籍しているケネディスクールでは、今年度は過去最多といえるほど日本人の学生が多い。その多数を占めているのが各省庁の優秀な若手官僚たち。以前ぼくの本や文章を読んでくださった人生の先輩方もいて、勉強会やパーティに誘ってくれます。非常に高レベルな議論ができる場に、労せずして参加できてしまう自分がそこにいる。

感謝の気持ちでいっぱいです。と同時に、正直、心境は複雑です。みんなが優しすぎるからです。

9年半前、単身で北京に行ったときは、人脈など一切ありませんでしたし、現地の日本人に頼るという選択肢も遮断して中国と向き合いました。未知の世界を肌で知るために“ミスター・ローカル”になりきって己を磨いたことが、中国語習得や中国理解に役立ったのです。

しかし、ここアメリカではそれができていない。

僕はもともと社交がとても苦手です。中国と日本を目まぐるしく往復していた多忙な日々から抜け出したのだから、自分の中にこもり、心ゆくまで研究やランニングに没頭したい。そしてとことんローカルに飛び込む形で、アメリカという国、特に社会の至る所で垣間見える民主主義のエッセンスを、自分の足を使ってリアルに感じてみたい。

ケンブリッジにおける現在の人間関係を大まかに表すと、「4(大学で接するアメリカ人など日中以外の人々):3(日本人):3(中国人)」といった具合です。これではあまりにも偏りすぎている。

当面の目標は、「3(大学で接する日中以外の人々):3(周辺に住むローカルのアメリカ人):2(日本人):2(中国人)」。これでも日中の比率は高すぎますが、これ以下は正直厳しい。自分が起こしてきたアクションの裏返しなわけですし、ぼくを助けてくれるのは親切で優秀な人たちばかりですから。

そんな日々、ひとりになると没頭するのが英語の勉強です。ここで調子に乗っている余裕はない。大学の行き帰りに現地のラジオ放送を聴き、家ではひたすら辞書とにらめっこ。寝るときもラジオのイヤホンを耳につけて睡眠学習です。

戸惑うことも多いですが、新しい環境は己を見つめ直すチャンスです。ここで初心に戻らずして、いつ戻るのか、逆に教えて!!

今週のひと言



ハーバード界隈の“日中”の人たち、そんなに優しくしないで!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)



日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。現在はハーバード大学ケネディースクールフェロー。2012年9月末現在、中国でのブログは7000万アクセス、中国版ツイッターのフォロワー数は160万人を突破。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中!



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