ジャーナリスト・吉田敏浩と元外務省・孫崎享が激論!「“日米不平等協定”は見直せるのか?」

週プレNEWS / 2012年11月13日 13時0分

沖縄県民の怒りの高まりを現地で実感したという吉田氏(左)と、日米関係の内幕に 詳しい孫崎氏

解決の糸口も見いだせずに頓挫したままの普天間移設問題、国民の多くの反対にもかかわらず配備されたオスプレイ、そこに再び起こった米兵による集団強姦事件……。米軍や政府に対する不信感がかつてないほど高まるなか、政府は何をすべきか? 基地問題に精通する論客ふたりが、不平等な地位協定、日米関係の問題点を明らかにする!

■オスプレイを野放しにする特例法

“蛮行”はいつまで繰り返されるのか? 10月16日、沖縄県那覇市で米海軍兵ふたりによる集団強姦事件が発生。ただでさえ普天間の基地移設問題、新型輸送機オスプレイの強制配備などで翻弄され、多大な負担を強いられる県民の怒りは最高潮に達している。改善どころか悪化の一途をたどる基地問題。なぜ解決の道筋をつけられないのか? そこで週プレは、沖縄基地問題に精通するジャーナリストの吉田敏浩氏と、元外交官の孫崎享(うける)氏を迎え、基地問題と日米関係のウラにある構造的な問題点に鋭く突っ込んでもらった。

―米兵による非道な犯罪がまた繰り返されました。

吉田 罪を犯しても基地に逃げ込めば、起訴されるまでは米国側に身柄があって証拠不十分で不起訴に終わるなど、日米地位協定には米国側に有利な仕組みがあります。それを米兵も知っているわけですね。さらにそれを保証するかのように、「日本にとって実質的に重要な事件以外は裁判権を行使しない」という「密約」まであるのです。日本政府は密約と認めませんが……。こうした不平等な地位協定を変えていかない限り、米兵犯罪の再発は避けられないでしょう。これは「構造的な犯罪」なのです。

孫崎 私が気になるのはオスプレイの問題です。沖縄県民が大反対するなか、重ねて今回のような事件が起きた。にもかかわらずオスプレイの運用はまったく制限されておらず、むしろ夜間飛行が行なわれたり加速しています。県民に対してあまりにも無神経です。

吉田 アメリカ国内では住民の反対の声を聞き入れ、ハワイではオスプレイの訓練が中止されました。しかし沖縄では、国民の命を守る立場から政府が物を言わないから米軍のなすがまま。日米間でダブルスタンダードが生まれているのです。現地の取材で実感しましたが、沖縄の人々の怒りは相当に高まっている。アメリカへはもちろん、不安や痛みを共有してくれない本土の日本人にもです。

孫崎 日本にもダブルスタンダードはあります。防衛省は岩国には「準備が長引いて申し訳ない」とお詫びをし、沖縄には配備を進めるわけです。また、野田首相の軽率な発言も気になります。オスプレイの配備について「文句は言えない」とか、危険な飛行から日本を守るために航空法があるのに「オスプレイは航空法適用の対象外」と答えている。

吉田 オスプレイに日本の航空法が適用されないのは、航空特例法というのがあって、米軍の活動に口出しができないためです。在日米軍のために国内法の規定に特例を設けて運用する、いわゆる「安保特例法」というのが日本には40以上もあるんですね。

―日本の国土面積の0.6%の沖縄に米軍基地の74%が集中している理由はなんですか?

孫崎 1960年代、日本国内での反対運動が強かったことから、米軍は終戦後に定めた基地の配置を考え直しました。それで施政下にあった沖縄に集中したのです。基地に対する米軍の意向はジョン・フォスター・ダレス(当時米国務省顧問、後に国務長官)が51年の日米交渉で発した言葉に象徴されます。「われわれが望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保する、それが米国の目標である」という発言。これが日米関係の現実なのです。

吉田 とはいえ安保条約には事前協議の制度があって、在日米軍の装備における重要な変更は協議の対象となるはずです。しかし、オスプレイについては事前協議の対象としないという政府の姿勢がとても不思議でした。調べると60年の安保改定交渉で、当時の藤山愛一郎外相とマッカーサー駐日大使が「装備における重要な変更とは、核兵器及び中・長距離ミサイルの日本への持ち込み並びにそれらの兵器のための基地の建設を意味する」という密約を交わしているのがわかったのです。つまり、核とは無関係のオスプレイは事前協議に含まれないということ。しかし外務省はこの密約の存在を否定し、「口頭了解」で確認しているだけと主張しています。

―日米安保体制の下、米国に一方的に有利な日米地位協定。その背後に文書化されない数々の密約があると、吉田さんは著書『密約』で指摘されていますね。

吉田 はい。密約の存在もまた米軍優位・軍事優先という日米安保体制の“本当の顔”をあらわにするものです。政府は密約を認めて明らかにし、廃棄すべきなのです。戦後の日本は、孫崎さんがおっしゃったダレスの発言を受けて法的制度を整えてきたようなものです。

■普天間の海兵隊は日本を防衛しない

吉田 『戦後史の正体』の中で孫崎さんは「私自身も普天間問題に関与しました。鳩山首相に2010年1月と3月の二度『県外移転』を進言したのです」と書かれています。そのへんのいきさつを教えてください。

孫崎 はい。鳩山政権が誕生し、とある勉強会のため官邸を訪れました。教育、経済なども含めて政権を獲得した民主党の政策はどうあるべきかの進言をする会で、私は外交安全保障の座長でした。そこで私たちは、1月に長崎県の海上自衛隊大村航空基地等への移転を提言しました。さらに3月になり、鳩山首相の周辺はすっかり辺野古移転を主張する人に取り囲まれていましたので、川内博史議員、近藤昭一議員と一緒に普天間基地の「最低でも県外移転」を進言いたしました。結局5月には県外移設を断念してしまいます。

吉田 「最低でも県外」の発言を撤回したことが、普天間問題をさらに困難にしましたね。

孫崎 鳩山さんは孤立していました。防衛省や外務省にしても「移転のプランを考えろ!」と言われたら、10くらいのアイデアは出せるはず。しかし米国への政治的配慮があって官僚はアシストしなかった。当時の防衛省防衛政策局長、そして味方であるはずの防衛大臣や外務大臣も正反対の意見を勝手にアメリカに伝えるのです。「米国の意向を尊重するのが国益である」という変なメンタリティを官僚は抱えてしまったのです。そのへんは昨今の原発の問題ともよく似ていますね。

―日本の役人の米国追従は、自分の出世を考えてでしょうか?

孫崎 そのとおり。そのひと言でしょう。官僚に問いただせば「俺は自分のアイデアがある。そのアイデアを実施するには偉くならなければならない。それは何も理念と無関係な話ではないよ」とでも言うのでしょうが。でも保身以外に何もないですよ(苦笑)。

吉田 さらにアメリカに抵抗する政治家はつぶされてしまう。

孫崎 そのへんは菅(元首相)さんが特に敏感でした。鳩山さんがつぶされるのを見てるので政策は官僚に丸投げでしたから。

―では、ここであらためて普天間移設の策を考えるとしたら?

孫崎 普天間にいるのは「海兵隊」です。海外での武力行使を前提としていて本土の防衛が任務ではありません。つまり、海兵隊は日本の安全保障には貢献しないのです。ここは非常に大事なポイントです。アメリカも沖縄の世論を軽んじられないことはわかっている。騒音や安全性など近隣住民の生活不安を取り除くためにも、日本政府は普天間からの移転を求めるべきです。そして、日本の国民は基地があるから、米国に依存しているから日本の繁栄があるという幻想からいち早く抜け出すべきです。

吉田 何より大事にすべきは沖縄県民の主体性です。琉球新報と毎日新聞が共同で行なった今年5月の世論調査では、普天間基地の県外か国外移設、または無条件撤去を9割の県民が求めています。しかも今は尖閣諸島の領土問題もあって、もし日中間で軍事的衝突が起きたら沖縄が再び戦争の最前線にされてしまうことを、県民は非常に恐れています。普天間の基地は日本の他府県ではなく、アメリカ本土に今ある海兵隊基地に戻すべきです。

孫崎 実はその意見は米国内にもあるんです。米軍基地全体を削減して海兵隊員の数も減らそうという動きです。だったら何も沖縄に置く必要はない。沖縄の県民総所得における基地関連収入が、かつての20%から今は5%台しかないという沖縄国際大学教授の前泊博盛(まえどまりひろもり)さんの指摘も、ここに付け加えておきたいですね。

吉田 かつて基地があった那覇新都心や北谷(ちゃたん)町の跡地に商業施設ができると、雇用も増え、経済も回っているという実例もあります。

■水面下で進行する「日米軍事一体化」

―では、あらためて日米地位協定について、具体的にどこを変えるべきでしょうか?

吉田 たくさんありすぎるので一部を紹介すると、刑事裁判権に触れている第17条です。「被疑者の身柄が合衆国の手中にあるときは、日本国により公訴が提起されるまでの間、合衆国が引き続き行なうものとする」とありますが、合衆国が身柄を拘禁していても日本側に引き渡すべきでしょう。また、「合衆国の軍当局は公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪について裁判権を行使する第一次の権利を有する」とありますが、公務中でも公務外でも日本の法廷で裁くべきです。

―孫崎さんはいかがですか?

孫崎 地位協定をなくすなら現行の安保条約を一度破棄したらどうでしょうか。60年に岸信介が新安保条約を締結したように、新・新・安保条約をつくるといい(笑)。

吉田 それは斬新な発想ですね。確かに地位協定は安保条約の附属協定なので、安保自体がなくなれば刷新できますね。

―05年に両国が署名した「日米同盟:未来のための変革と再編」で、その関係は冷戦時代の安保体制から大きく様変わりした、と孫崎さんは著作に書かれています。かつての日本の専守防衛の精神は集団的自衛権へと変わっていったと。今、隣国の中国は日本のGDPを超えました。日本における現在の米軍基地の存在理由は?

孫崎 アメリカは「金融と経済は中国を取り込む」「安全保障の面は中国と対峙しなければならない」。そう決めています。ただしアメリカ軍のお金がなくなってきたので、そこは今まで以上に日本を使おうとしています。かつては日本に基地を置くことが重要だったのに、今は自衛隊をどう使うかに重きを置いているのです。

吉田 それは「日米軍事一体化」の流れですね。日本と極東のエリアを越えてグローバルな軍事介入、戦争を想定して、グアムやアラスカなどでの日米共同訓練・演習、沖縄のキャンプ・ハンセンの日米共同使用など、日米の軍事的連携の密度がぐんと高まっています。相乗りしようとする防衛省の思惑もありますね。日本が憲法解釈を変えて集団的自衛権を行使できたら、多国籍軍に参加することになります。アメリカが考えるのは、孫崎さんが書かれていたようにまさに「予防戦争」です。自衛のためでなく、衝突が避けられない国は先制攻撃で叩いてしまうという力の論理にほかならない。

孫崎 そういうことです。

吉田 米国の世界戦略のコマとして日本の若者が使われていいのだろうか? 自衛隊員が日本と無縁の戦争の犠牲になったり、他国民を殺傷する場合もあるでしょう。それに「日米軍事一体化」が進むと沖縄の基地はますます手放せなくなる。「自衛隊と米軍が沖縄を共同使用して実戦訓練して出撃を」なんて考え方を日本政府がしたら危険です。私はアメリカの世界戦略に追従しないことが沖縄の負担軽減につながると思います。

孫崎 同感ですね。もうひとつドラスティックな提案をしたい。米軍に沖縄から出ていってもらうには、現在の「思いやり予算」をグッと減額したらいいんです。ドイツは米軍基地の駐留経費を25~30%負担してる。日本は70~80%で、これじゃ居心地がよすぎて出ていかない(苦笑)。基地の固定化は、ある意味お金の問題なのでドイツ並みに減らせばいい。実は福田康夫政権(07~08年)は、わずかですが、予算を3%減らして抵抗の第一歩を示していました。

吉田 減らした「思いやり予算」を大震災の復興予算に回すと本当に国民のためになります。するとおそらくアメリカは報復策としてTPPのような難題を突きつけるでしょう。日本を自国のコマとして扱おうとしているのです。それに歯向かう政治家の気概がなくなっているのが悔しいですね。

孫崎 本当にそう。米国の動きをにらみつつ、対米追従ではなく自主路線の道を歩むべきときにきているのです。

(構成/長谷川博一 撮影/岡倉禎志)

●吉田敏浩(よしだ・としひろ)



1957年生まれ、大分県出身。アジアプレス所属。『森の回廊』(NHK出版)で、96年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。近著に『密約 日米地位協定と米兵犯罪』『沖縄 日本で最も戦場に近い場所』(ともに毎日新聞社)などがある

●孫崎享(まごさき・うける)



1943年生まれ。66年、外務省入省。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長などを経て、09年まで防衛大学校教授。近著に『戦後史の正体』(創元社)、『転ばぬ先のツイ』(メディア・パル)、『アメリカに潰された政治家たち』(小学館)



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