従来のグルメ漫画とは一線を画す世界観。『バンビ~ノ!』作者・せきやてつじ「厨房版の『ER』を描きたいと思った」

週プレNEWS / 2012年11月18日 6時0分

『バンビ~ノ!』主人公のモデルは「全然ダメダメで使いもんにならなかった」と自ら振り返る会社員時代のせきや氏自身とか

『バンビ~ノ!』で料理人たちの現場をリアルに描き切るせきやてつじ氏。従来のグルメ漫画とは一線を画した世界観のなかには、漫画への熱すぎる思いが……!

■厨房版の『ER』を描きたいと思った

―初のグルメ漫画『バンビ~ノ!』。描き始めたきっかけは?

せきや もともと会社員をやってて、その会社を辞めて漫画家になったんですけど、なかなか芽が出なくて……。「一発当ててーな」と思ってたんです。でも売れるためならなんでもいいわけじゃなくて。基本的にアクション漫画や活劇を志していたので、そのなかで売れないと意味がないと。

そんなとき、たまたまイタリアンのオープンキッチンのお店に行くことがあったんですけど、客席から厨房がよく見えるんですよ。煙がぶわーって上がって火があって、食材持って走り回ってる人がいて。「なんかアクション漫画みてーだな」と。『ER』(海外ドラマ『ER緊急救命室』)みたいに見えたんですね。それで厨房版の『ER』を描きたいなと。客を満足させるために全力投球する集団の漫画が描けるんじゃないか、料理で活劇をやったら目を引くだろうって、そのとき着想したんです。

―そこで、イチからイタリアンの勉強を始めたんですか?

せきや 1年くらいかけていろんな取材をしましたね。千葉のイタリアンのお店に泊まり込みで行って実際に働かせてもらったり、本を買ってきて片っ端からイタリアンを作ってみたり。自分が料理人になりきった状態までいかないと、キャラクターが降りてこなかったんですよ。

―それで厨房がまさに戦場のような世界観が生まれたわけだ!

せきや 海賊みたいなアウトロー集団が厨房にいて、主人公の普通の青年がそのなかで揉まれて成長していくという。僕も現場をたくさん見ましたけど、さすがに取材だと後輩をぶん殴ったりはしてくれなくて。でも「実はやってるだろ?」って(笑)。それをさらに漫画的に大袈裟に描くみたいな。

―確かに、作中では実際の料理人たちの本気のぶつかり合いが垣間見えるような……。

せきや ぶつかり合いや対立とかサバイバルがあるのは、どこの職場でも一緒だと思うんですけど、それが目に見える形で表れるのがレストランの仕事なんですよね。

―実際、キャラクターにモデルがいたりはするんですか?

せきや 特別いないんですけど、『バンビ~ノ!』というタイトルにしようと思ってたから、主人公の「伴省吾(ばんしょうご)」って名前だけは最初に決まってました。主人公の青二才が周りに鍛えられるっていうストーリーは自分の会社員時代の経験からフィードバックしてる感じで。イラストレーションの制作会社にいたんですけど、全然ダメダメで使いもんにならなかったんですよ(笑)。腕はないくせに生意気っていう大変情けない状態でね。そのせいで上司との折り合いも悪いし、会社を辞める最後の夜なんか上司と取っ組み合いのケンカまでして(笑)。当時は「俺にはできるはずだ」みたいな根拠のない自信があったんですよね。

―まさに伴じゃないですか!

せきや まあ、そう言われればそうかもしれない(笑)。もともと自分のことを描こうと思って始めたところはあるんですよ。やっぱり人から聞いた話を描いてもしょうがないですからね。

■人を応援しない漫画は俺が滅ぼす!

―でも従来のグルメ漫画と違って、レシピや料理のうんちく的な要素は感じないですよね……?

せきや メシを食うっていうのは“生きる”ってことなので「人間ドラマを描くんだ」「人と人のぶつかり合いを描くんだ」って思いは一貫して強いですね。だから、食の情報は意識的に入れてなくて。グルメ漫画を描いてるって意識もないんですよ。

―その一方で、料理漫画特有の“バトル”要素はありますよね。

せきや 基本的に戦わなければ面白くないというか。でも脈絡なく料理バトルのトーナメントが始まるような非現実的な感じにはならないように。あくまでリアルにはこだわろうと思ってます。なかに出てくるような料理人の腕比べとかは実際の現場でもあるらしいんですよ。料理人同士が「おまえと俺、どっちが料理うめーと思ってんだよ」って言ったら、「じゃあ夜中にみんな集めて試食会だ!」みたいな。おいしい店ほど、そういう切磋琢磨してるんです。

―そんな漫画みたいなことが実際に起こってるんですか?(笑)。では、次々登場するバラエティに富んだ料理のアイデアなんかは?

せきや 取材先のレストランに相談させてもらったり、最近は自分で考えたりもしますね。登場させる料理はだいたい自分で作って、それを写真に撮って描いてます。手打ちパスタもさんざん作ったし(笑)。やっぱり実際に作って食べたほうが臨場感のある、読んだ人が味を感じられるような絵が描けると思うんですよね。それを食べた気になるような感じにしたいし……でも『バンビ~ノ!SECOND』はどんどん難しい料理が増えてきて(苦笑)。

―ほかのグルメ漫画を読んで影響されたとか「うまそう!」と思った経験なんかは?

せきや それはありますよ! 『包丁人味平』の“ドラム缶ラーメン”なんかもううまそうで! 『クッキングパパ』とか『味いちもんめ』とかいろいろ好きでしたけど、思い出深いのはやっぱり『味平』だよなぁ。マグロに火薬をブスブス刺して爆破させて解体したり、いきなり火炎放射器で魚を何十匹も焼いたり。やってることはむちゃくちゃ強引でトンデモないんだけど“芯”はハズしてないんです。実際うまそうだし、食欲わきましたからね。昔は定食屋さんとかに必ず置かれてて、油とか手垢でボロボロになってるけど、そういうとこで読むとまたおいしそうなんだ(笑)。

やっぱり、70 、80年代は時代も漫画もエネルギッシュでしたよ。僕はあの頃の漫画が一番好きだし、なんの楽しみもなかった高校時代は本当に漫画に救われましたから。だから、今の心を病んでる人が多い世の中にはすごく腹が立つんです。そのいら立ちみたいなものから僕の漫画は生まれてるのかなと。「人を元気にできない、応援しないような表現は全部俺が滅ぼしてやる!」と思って描いてますからね。

―食べることが生きることなら、元気になるために「俺の『バンビ~ノ!』を食え!」と?

せきや 食べていただければと思いますよ。やっぱり漫画は「なくてもいい」ものなんですけど、それのおかげで俺はこれまで生きてこれたわけだから。今度は自分がこの「なくてもいい」もので人をいい気持ちにさせるんだって思いながら描いてます。

(取材・文/short cut [岡本温子、佐藤真由]) 撮影/五十嵐和博)

●せきやてつじ



1969年10月12日生まれ、福岡県出身。2000年に『ジャンゴ』(原案:木葉功一・講談社)で初連載。『バンビ~ノ!』で07年度の小学館漫画賞一般向け部門受賞



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