加藤嘉一「日本の将来にとっては円高のほうがむしろベターかもしれません」

週プレNEWS / 2012年11月19日 13時0分

アメリカで暮らすぼくを、ある意味で最も助けるもの。それは「円高」です。海外で自分を磨こうという若者にとって、今はまたとないチャンスです!

ボストンは成熟した大人の街です。アメリカで最も歴史の古い街のひとつであり、ハーバードをはじめ多くの大学が集まる文教地区でもあり、趣深い風情が漂っています。

ぼくの住居の近くを流れるチャールズ川周辺では、人々が集まって憩いの時間を過ごしています。散歩をする人、ランニングで汗をかく人、カヌーで水面を滑る人、楽しげにバーベキューに興じる人。この悠久の流れを拠点とし、日々の生活を営んでいるのです。

北京や上海のようなエネルギーあふれる街も魅力的ですが、今のぼくにとっては、この落ち着いた街で体を鍛え、先人たちの研究にどっぷり浸かり、思考を培うことが最も必要なことです。そのために中国を離れ、アメリカに来たのですから。

しかし、だからといってボストンが完璧な場所かといえば、そうとも言えません。不便な点もあります。特に気になるのは外食がおいしくないことです。

ボストンで、一、二を争うといわれる日本料理店や中華料理店にも行きましたが、どうもピンときません。グルメでは決してなく、基本的に腹に納まればいいタイプのぼくですらそう思ってしまう。日本料理なら北京や上海のほうが明らかに上です。その他の食事にしてもジャンクフードばかりで、栄養面で偏ってしまいがちです。

あらためて日本、特に東京の素晴らしさを感じずにはいられません。「価格の割においしくない」店などほとんどなく、庶民的な定食から世界各国の料理まで、栄養のバランスも考えられた上で供される。スタッフのサービスは細かいところまで行き届いており、正直言って非の打ちどころがありません。

ボストンに拠点を移してから、原則としてぼくは自炊しています。食材を買いながら、食事を作りながら、食器を洗いながら、限りある人生をどうコーディネートしていくか、日々思考を巡らせています。地に足をつけた生活ができますし、経済的なのがありがたい。

そういう意味で、ぼくの生活を支えてくれているのが「円高」です。ここ最近は1ドル=80円前後で推移していますが、これがもし100円や120円だったら、ぼくはもっと生活を厳しく見直さなければならなかったでしょう。

物事にはふたつの側面があります。多くのメディアは“円高不況”をあおりたてますが、一方でぼくのように円高に救われる人もいる。

日本の経済構造が輸出中心であることを考えれば、痛手は少なくないでしょう。それでも、この円高を機に高校生や大学生を思い切って海外留学させ、社会の外向き志向を刺激するという別の意味での“景気”を促すことはできないものでしょうか。危機ばかりが取り沙汰され、チャンスであるという側面が無視されてしまっていないでしょうか。

大企業寄りの発想が先に立ち、柔軟かつ大胆な発想が損なわれていることで、海外で勝負したいと思っている学生たちが縮こまってしまっている。円高そのものより、この状況にぼくは危機感を感じています。一概に円高がいいと言っているわけではありません。ただ、一方で一概に「円高=悪」というわけでもない、ということは声を大にして伝えたい。今こそオールジャパンで若者を海外に送り出すべく、官民一体となって取り組むべきです。

誤解を恐れずにいえば、30年程度の中期スパンで考えた場合、日本の将来にとっては円高のほうがむしろベターかもしれません。通貨として世界から信用されているということですから。「円高こそ国力」と感じる局面が海外生活では少なくないのに、これをチャンスと考えない理由があるというなら、逆に教えて!!

今週のひと言



「円高=絶対悪」ではない。海外に飛び出すチャンスです!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)



日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。現在はハーバード大学ケネディースクールフェロー。2012年9月末現在、中国でのブログは7000万アクセス、中国版ツイッターのフォロワー数は160万人を突破。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中!



【関連ニュース】

週プレNEWS

トピックスRSS

ランキング