なぜ人間は芸術を求めるのか、その理由を考えたい
週プレNEWS / 2012年11月20日 6時0分
批評=“堅苦しくて批判的な文章”、というイメージをお持ちではないか? しかし、この『批評時空間』に収められた文章は、日記風であったり講演口調であったり、果ては本の上下に異なる文がつづられていたりと、ユニークで自由な批評文ばかり。いったいなぜ、このような本が生まれたのか? 著者の佐々木敦氏に聞いた。
***
―この本は、文芸誌『新潮』の連載をまとめたものですが、批評の対象になっているのは、映画や演劇、音楽など、むしろ“文学以外”のジャンルですね。
「そうですね。僕はもともと映画や音楽について書いてきた物書きなんですが、今回はより広い意味での『芸術』について考えたいと思って、あえて文芸誌の本流である文学を外しました。その上で、書く内容に合わせて文体を毎回変えるというルールを自分に課したんですが、やってるうちに面白くなっちゃって、“読者を驚かせたい”というほうに向かっていったんですね(笑)。結果的に、これ自体が小説みたいな不思議な文章になりました」
―一番驚かされたのは、3・11の直後に書かれた、私小説なのか虚構なのか判然としない章です。
「震災当時、いろんな人がいろんなことを言っていたけれど、僕にはみんな混乱しているように見えた。だから、自分は5年後、10年後にも読まれる本質的なものを書こうと思いました。たまたまそのタイミングで、クリント・イーストウッド監督の『ヒアアフター』という映画を観たんです。作品自体は、津波のシーンがあったことからすぐ上映が中止されたんですが、そこで描かれていたのは、“あの世はあるのか?”“死とは何か?”という人間にとって根源的な問題だった。そこで、僕は自分自身を踏み台にしてその問題に迫ろうと考えたんです」
―この本では、生活やビジネスとは程遠いような“芸術の持つ意味”が一貫して問われています。
「芸術がなくても人は生きていける。でも、その不要なものをなぜ人間は求めるのか、その理由を考えたいんですね。しかし、3・11以降、“芸術に何ができるのか?”“なんの役に立つか?”ということばかりがいわれるようになった。僕はその考え方はおかしいと思う。社会を動かしたりお金を稼いだりしなくても、芸術で人生が豊かになるということはあるはずだから。端的に言って、『そういうものも面白がれたほうが人生楽しいよ』と言いたいんですね」
―この本の中にはたくさんのアーティストの名前が出てきますが、ほとんどが極端にマイナーな作家ばかりですね。
「それも、読者の方に新しい芸術に出会ってほしいからです。『今自分が知らないものの中に、もしかしたらすごく好きになれるものがあるかもしれない』、そう思える好奇心が、未来へ向かって生きる活力になるからです。それに、今回は知らない人にもわかるように固有名詞をすべて一から説明してあります。だから、予備知識なしで気負いなく読めると思いますよ」
―実際にこの本を読んで思ったんですが、こうして何かについて考えるという批評の方法は、実生活でも使っていたりするものじゃないでしょうか。
「そのとおりです。批評とは、物事を“読解”する能力と、それを“うまく伝える”能力のふたつで成り立っています。これって、人の話を理解したり、こちらの意図を伝えるためのコミュニケーション能力といってもいい。だから、週プレ読者の方も、まずはお試しで3章くらいまで読んでほしいですね」
(取材・文/西中賢治 撮影/高橋定敬)
●佐々木 敦(ささき・あつし)
1964年生まれ、愛知県名古屋市出身。批評家としてジャンルを問わず執筆するほか、早稲田大学、武蔵野美術大学などで教鞭を執る。音楽レーベルHEADZ主宰
『批評時空間』
新潮社 2100円
映画、演劇、音楽、写真など、あらゆる現代の芸術作品について、時評形式で書かれた批評集。「死」「虚構」「記憶」「風景」といった、人間にとって根源的なテーマを徹底的に問い直している。批評家として数多くの著作を持つ著者の、集大成
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