デモなどの運動で、大事なのは“過程”

週プレNEWS / 2012年11月27日 12時0分

「原発問題というのは、社会全体の変化のひとつの“現れ”にすぎません」と語る小熊英二氏

500ページを超えるボリュームに、“社会”という文字が付されたタイトル。とっつきにくい印象を抱いてしまうが、この『社会を変えるには』では、現在の日本が置かれた状況や、その歴史的経緯が、懇切丁寧に説明されている。社会学者として、幅広い知見を盛り込んだ骨太な仕事で知られる著者・小熊英二氏に話を聞いた。

***

―どうして今、このような本を書かれたんですか?

「昨年から脱原発デモなどに参加するようになって、いろいろな人に『こうした運動は有効なのか?』『どうすれば社会を変えられるか?』ということを聞かれました。震災がきっかけになって、人々の中に“もう根本的に社会を変えないとダメじゃないか?”という自覚が生まれたんでしょう。そうした問いに答えるために、この本を書きました」

―ここでは、原発やエネルギー政策といった個別のイシューではなく、さまざまな日本の状況があぶり出されています。

「原発問題というのは、社会全体の変化のひとつの“現れ”にすぎません。日本では、バブル崩壊とともに昭和的な工業化社会が終わり、ポスト工業化時代が始まりました。その変化は、雇用問題であったり、不況であったり、ポピュリズム政治であったりと、さまざまな問題として現れている。見る角度によって、問題が異なるんです。だから、“社会を変える”といっても、立場によって意味は異なるはずなんですね。本では原発やデモだけでなくさまざまな問題に言及しましたから、誰が読んでも、その人が『苦しい』とか『おかしい』と感じている問題について、必ずどこかに書かれているはずだと思いますよ」

―そうした問題は解決可能なんでしょうか?

「雇用や年金の問題は、はっきり言って難しい。でも、原発の問題はもっと簡単だと思う。少なくともデモで変えられるくらいにはね。原発のような重厚長大型の産業は、日本型工業化社会の象徴であり、今の社会では時代遅れです。しかも、震災と原発事故で人々の安全とリスクの意識が高まったなかでは、必然的に行き詰まらざるを得ないものですから」

―小熊さんは、今年8月に行なわれた野田首相と反原発グループの話し合いを取り持ったことでも知られています。そのように運動に関わることは“楽しいことだ”とも書かれていますね。

「ええ。私自身、去年の9月にデモの場で1万人の参加者からハッピーバースデーを歌ってもらったことがある(笑)。そういうことは、いくらお金を積んでも体験できません。また、そういうところへ行くと、10年ぶりに会った人と握手するというようなこともよくある。志を同じくする人々との連帯を感じるというのは楽しいものですよ」

―では、個人が“社会を変える”ために動くことは、どんな意味を持つんでしょうか?

「よく、『それで目的は達成できたのか』という結果論で語りたがる人がいる。でも、運動というのは過程が大事なんです。たとえ当面の要求が通らなくても、次の政治決定に影響することもあるし、政治との対話の回路が開けることもある。その過程で、何より参加者たちが変わり、ひいては社会全体の意識が変わります。結果が出なければ無駄だという考えは狭い。例えば、ある女のコに好かれたいと思ってダイエットしたり趣味を広げたりした結果、もしその女のコと付き合えなくても、その過程であなたは変わっているでしょう。その変化する過程こそ重要で、それが積み重なって社会も変わるわけです」

(取材・文/西中賢治 撮影/高橋定敬)

●小熊英二(OGUMA EIJI)



1962年生まれ、東京都昭島市出身。出版社に勤務の後、東京大学にて学術博士号を取得。現在、慶應義塾大学教授。主な著書に、『〈民主〉と〈愛国〉』『1968』(ともに新曜社)

『社会を変えるには』



講談社現代新書 1365円



旧態依然とした社会を変えろ、とは言われるけど、そのための最適な行動は「投票」だけなのか? 現代日本の立ち位置を詳述し、望ましい運動のあり方を思想史や古代ギリシャの思想にまで立ち返って解説する









【関連ニュース】

週プレNEWS

トピックスRSS

ランキング