鉄人・金本知憲×江夏豊 アウトロー対談「プロ野球にも『古きよきもの』は必要」

週プレNEWS / 2012年12月21日 6時0分

来年は評論家としてネット裏からプロ野球を見る金本氏。引退発表後のバッティングを見て、「金本はまだまだやれる」と思ったと江夏氏

492試合連続フルイニング出場、1766試合連続出場、880試合連続4番先発出場、1002打席連続無併殺打……。数々の記録を打ち立てた日本プロ野球界、いや、世界の“鉄人”金本知憲氏がついにユニフォームを脱いだ。阪神、広島のOBとして親交のある江夏豊氏が、ねぎらいの意味を込めてたっぷりと話を聞いたスペシャルインタビュー!

■最後の3年間は野球がいやだった

江夏 本当にお疲れさん。結局、何年やったんだ?

金本 大学を卒業してプロに入って、21年間です。

江夏 なんだろう、それだけ長くやれたポイントというのは?

金本 「毎年優勝争いの輪の中にいたい」という気持ちと、「若いヤツに負けられない」という自分のプライドですね。

江夏 そのプライドというのは、いつ頃芽生えてきたもの?

金本 2004年、36歳の年に4番を打ち始めてからですかね。

江夏 タイガースに来てからか。えらい遅咲きだったんだな(笑)。でも、カープでもあれだけ実績を残して、自信はあっただろ?

金本 トリプルスリーを達成した2000年には、少しバッティングがわかり始めていました。でも、それまではただガムシャラで、「わからんけど、コーチに言われるとおり打っとこう」とか。自分でつくったものが何もなかったです。

江夏 そうか。外から見ている限り、決してそうじゃなかったけどな。相手ピッチャーをのみ込んでいる、配球を読んでいる、という印象だったから。

金本 配球は、もともと読んで打つタイプだったんです。

江夏 読むのが好きだった?

金本 好きというより、読まないと打てなかったんですよ。

江夏 その点、カープには同じ左バッターで前田(智徳/とものり)がいた。彼の場合は「天才的」という声も聞こえたよね。

金本 前田は「基本を守れる天才」だと僕は思うんです。元からバッティングの形が染みついているようなセンスがあって、自分にとっては目標でした。入団したとき、前田はもうレギュラーでしたから。(*前田は高校からプロ入りで、入団は金本より2年早い)

江夏 そんな差があったか。でも悲しいかな、前田は故障に泣いた。

金本 彼はアキレス腱を切るなどのケガがなかったら、相当なバッターになっていたと思います。

江夏 一方、あなたはケガに強かった。どうなんだろう、ケガに強い、弱いの違いは。ピッチャーでもあるんだけど。

金本 個人差がかなりあると思いますね。

江夏 骨折したら休むのが普通なのに、あなたは片腕でヒットを打つしな。(*04年7月、死球で左手首を骨折した後もフル出場を続けて打点王を獲得)

金本 あれはまぐれです(笑)。

江夏 まぐれでも振ったのは大したもんだ。ただ、そんなあなたも最後は右肩の故障(棘上筋[きょくじょうきん]断裂)に勝てなかった。引退のひとつのきっかけかな。

金本 大きな理由ですね。

江夏 なんで手術しなかった?

金本 復帰に1年半かかると言われまして。ケガした当時42歳ですから、復帰して44歳。今の年齢ですよ(苦笑)。

江夏 44でも50でもいいじゃない(笑)。中日には来年48歳の大ベテラン(山本昌)もおるんだし。

金本 でも、さすがに42歳、43歳で1年以上も休むと、ケガした箇所以外のパフォーマンスも落ちます。野球界では前例のない手術で、ベストに戻る保証もなかったので、結果的にはしなくてよかったのかなと。

江夏 そうは言うけど、最終的には“ごまかし”だったろ?

金本 確かに……。3年間、リハビリしかしていないですから。

江夏 野球が楽しくなかったんじゃないか?

金本 いや、もう、全っ然面白くなかったです。いやでした。「なんでこんな思いを……」「まさか自分が……」というような。

■新井はまっったくわかってません!(笑)

江夏 そんな苦しい思いをしたというのは、裏を返せば長年やった証(あかし)でもあるけどな。じゃあ、カープの11年とタイガースの10年、まったく違うものだった?

金本 違いましたね。お客さんの数からして違いますから。

江夏 タイガースを選んだことは間違いじゃなかったかな?

金本 はい。2回優勝できたので。

江夏 やっぱり、野球選手は勝つことを経験しないとな。逆に、今年のタイガースは何が原因で、ここまで落ち込んだんだろう?

金本 自分も含めて、取り憑かれたように打てなくなりましたよね。チーム最高打率の鳥谷(敬/たかし)が2割6分台。打点も60以上挙げた選手がいないんですよ。

江夏 なんで、そこまで連鎖するんだろう。

金本 不思議でした。僕も21年間で初めてです。「投打の歯車がかみ合わない」という以前に、とにかく打てない。ある程度、安定して投げてくれたピッチャーたちには申し訳なかったです。

江夏 そういう年に、あなたは辞める決断を下した。勝って男の花道を飾れなかったわけだけど。

金本 でも、チームが強かったら「辞める」という雰囲気にはならなかったかもしれないですね。

江夏 もし優勝でもしたら?

金本 辞めていないと思います。

江夏 9月12日に引退を発表した後、ファンの人も行く所、行く所で、あったかくあなたを見てくれたよね。

金本 ありがたいことに、ビジターでもスタンドや相手チームから声をかけてもらいました。

江夏 それで余分な力が抜けたのか、バッティング内容もよくなったと思う。「まだ俺はやれるんだ」という気持ちはなかった?

金本 練習ではよくなりましたけど、試合は休み休みでしたからね。それなりにやる自信はありつつも、もし来年やっても全盛期に近い数字は無理だろうな、という思いもありましたし。

江夏 なるほどな。

金本 あとはもう、本当にしんどかったというか……もう疲れたというのもありました(苦笑)。でももちろん、「疲れたから辞める」というだけの問題ではないです。やっぱりチームが負けていて、若返りを図りたいところでしたから。僕としては、別に代打がいやだなんてまったく思わないですし、最後の1年くらい代打専門でもよかったんですが。

江夏 個人的には、まだまだやってほしかったよ。“生きた見本”を見るのは、若い人にとってはとてもいいことだからね。あなたがどういう練習をして、野球に対してどんな考えを持っているのか。あれだけあなたの横にいた新井(貴浩)でさえ、なんにもわかっていない部分があるし(笑)。

金本 まっったく、わかってないですね! 冗談半分、本気半分ですが(笑)。本当にもう、その話だけで一冊の本が書けますよ。

江夏 はっはっは(笑)。そもそも、なんで弟分になったんだ?

金本 周りが言うだけで、僕は弟分と思ったことないです(笑)。ただ、彼はいじると面白いんです。例えば、僕と新井が広島にいた頃、監督の達川(たつかわ/光男)さんとこんなやりとりがありました。「おまえ、パーマ禁止だろうが」「かけてません」「かーかっとるだろうが、どう見たって。正直に言え!」「散髪に行きました」「散髪に行ってパーマかけたやろうが」「いえ……僕の記憶にはないです」って。どう見ても、絶対パーマかけてるんですよ。ウソつけ、と(笑)。そんなヤツだから、面白いんです。

江夏 はっはっは。弟(新井良太)はどうなの?

金本 ちょっと似てますね。弟のほうがまだピュアで一本気ですが、言い訳の仕方はそっくりなとこがあるので。

江夏 やれやれ(笑)。

■連続無併殺打記録は後輩に堂々と言える

江夏 さあ、ここでもう一度、21年間を振り返って、ホームランや安打数などの記録はどう?

金本 欲を言えば、タイトルはもう少し欲しかったですね。ホームラン王を一回は獲りたかったです。甲子園が本拠地の左バッターは非常に厳しい、というのはわかってはいたんですが。05年に40本打ったとき、たまたま43本打ったのが当時カープの新井(貴浩)なんですよ。まったく(笑)。

江夏 やっぱり、左バッターにとって甲子園の浜風は厳しいか。

金本 体感的には世界一広いです、あの球場は。そのなかで40本打てたのはうれしかったです。

江夏 タイトルには満足していなくても、積み重ねてきた通算記録は素晴らしい数字ばかり残っているよね。

金本 ヒット数は大学出ではトップですし、ホームランも僕より上の方で20歳を過ぎてからプロ入りしたのは山本浩二さん、門田(博光)さん、落合(博満)さんだけ。そこは胸を張れるかなと。

江夏 それと、あなた自身が最も誇りにしている記録は、連続フルイニング出場の世界記録じゃなく、連続打席無併殺打の日本記録だそうだね。

金本 ゲッツーになるような打球が少なかったとか、運も確かにありました。でも一応、全力疾走していないと絶対にできない記録ですよね。ランナーがアウトになった時点で打率が下がることは決まっているわけで、そういう局面での全力プレーが記録という形で残ったのは、後輩たちに堂々と言えることですね。

江夏 その姿を、もっと若い人たちに見てもらいたかった。もう1年でも2年でも、金本という男にグラウンドに立ってもらいたいというのが、失礼だけど、個人的な願望だったんだよな。

金本 うーん、そうでしたか……。

江夏 まあ、今さら言っても遅いからな(笑)。最後に、カープに対する思い、タイガースに対する思いを聞いておきたい。

金本 わかりやすく言えば、プロ野球選手としての生みの親がカープで、育ての親がタイガースだと思っています。タイガースで優勝できたことは最高でしたが、だからといって最初に入ったのがカープじゃなくてタイガースだったら、今の自分はない。これははっきり言えると思います。

江夏 例えば1、2年、ネット裏で休んで、指導者として次にグラウンドに立つときは、どっち?

金本 いやあー……(苦笑)。あくまで想像ですが、希望とか願望をまったく抜きにして言えば、カープのほうがやりやすいとは思います、正直。

江夏 それは、広島と大阪という地域性の違い?

金本 それもありますが、カープはいい意味で“ファミリー”で、こぢんまりしているんですね。いい面だけを言えば、まだまだ「古きよきもの」を残している。僕はそのなかで育ってきたので。

江夏 自分もそう思う。それはなくしてほしくないんだよな。

金本 いくらプロ野球でも、古いからというだけで「時代遅れ」とか、そんなことは絶対にないと思うんです。カープが持つ基本姿勢はあるべき姿で、そこが欠けてしまっているのが今のタイガース。横槍も多いし、手柄の取り合いも多いし、足を引っ張られることも多いですし。

江夏 うーん……。評論家の仕事で12球団を回っても、残念ながら、いちばん礼儀作法ができてないのがタイガースの選手なんだよな。結局、そういうものに慣れ切ってしまっている部分があると思う。あなたも、もしそういうことに気づいたらどんどんアドバイスしてあげてほしいんだよ。

金本 僕もずっと中にいたので、今のタイガースを客観的に見る目はないですからね。これからは客観性を持てるので、そこはアドバイスしてあげたいです。

江夏 身近なOBとして、ぜひ感じたままに伝えてほしいよ。よっしゃ、今日は本当にありがとう!

金本 ありがとうございました!

(構成/高橋安幸 撮影/五十嵐和博)

●江夏豊(えなつ・ゆたか)



1948年生まれ。阪神、南海、広島、日本ハムなどで活躍し、シーズン401奪三振、オールスター9連続奪三振などの記録を持つ伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ。現在は野球評論家

●金本知憲(かねもと・ともあき)



1968年生まれ、広島県出身。44歳。広陵高校、東北福祉大学を経て91年ドラフト4位で広島入団。2000年、3割・30本塁打・30盗塁のトリプルスリーを達成(史上7人目)。同年から翌01年にかけて、1002打席連続無併殺打の日本記録を樹立。02年オフ、阪神へFA移籍。翌03年、阪神の18年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献する。04年、初の打撃タイトルとなる打点王を獲得。06年、カル・リプケンを抜く904試合連続フルイニング出場の世界記録を樹立(その後、2010年4月に途切れるまで1492試合連続)。2012年限りで現役を引退し、今後は野球評論家として活動する



【関連ニュース】

週プレNEWS

トピックスRSS

ランキング