古賀茂明が徹底検証する「アベノミクスの先にある日本経済」

週プレNEWS / 2013年1月17日 15時0分

「『アベノミクス』はいわゆる財政ファイナンスによる究極のバラマキ政策にすぎない」と語る古賀氏

安倍新首相が掲げる「アベノミクス」で日本経済はどう変わるのか、古賀茂明氏がイチから解説。景気V字回復の“最高のケース”と、経済崩壊の“最悪のケース”をシミュレーションした!

■円安がもたらす“バラ色の未来”

安倍新首相の唱える経済政策「アベノミクス」が話題だ。

「アベノミクス」とはデフレ脱却、円高是正のため、(1)防災、減災を中心とした大型公共事業の実施、(2)年率2%以上の物価上昇目標(インフレターゲット)の設定、(3)日銀による大胆な金融緩和などの財政・金融政策をパッケージにしたものだ。

専門用語が並んでいていささかわかりづらいが、要するに景気を回復させるために大型の公共事業をバンバンとやる。そしてそれに必要なお金を工面するため、国が新たに借金の証文(国債)を発行し、日銀に2%物価が上昇するくらいの巨額のお金を供給させた上で、その証文(国債)を買い取らせようというアイデアである。

「アベノミクス」の描く日本経済復活のシナリオはこうだ。

2%の物価上昇とは、2%分だけ円の価値が下がること。しかも、日銀が国の証文(国債)を買い取るために円を大量に市中に供給した分、円通貨への信認が下がり、さらに円安圧力は強まる。

円安になれば、輸出企業は国外へ輸出しやすくなるから、売り上げ・利益がアップする。加えて円安による為替差益(*1)も利益を押し上げる。トヨタなどの大手輸出企業はわずか1円の円安でも数十億円単位の経常利益増が転がりこむからだ。

(*1)為替レートの変動によって生じる利益のこと。例えば1ドル=100円の為替が円安で120円になった場合、購入していたドルを円に替えれば1ドルにつき20円の利益が発生することになる

企業の業績が上がれば、当然、株価も上がる。すると株を持っている富裕層、高齢層は含み益(*2)が大きくなって気前よく買い物をするから、消費が上向く。

(*2)所有している株の時価が上昇し、株を所得したときよりも高くなった場合に、時価から取得時の株価を引いた差額を指す

内需が拡大すれば、その恩恵は輸出企業以外の国内企業にも及ぶ。そこで働く労働者の給与もアップし、消費がさらに拡大して実体経済が回復する。すると国の税収も増え、財政赤字が改善する―。

このように「アベノミクス」は企業利益、国民所得、国家税収の3つが増える、マジックのような経済政策だ。

事実、安倍新首相が「アベノミクス」を主張すると、市場は敏感に反応した。円はあっという間に1ドル=85円台までに急落し、日経平均株価も円安と公共事業による需要増が好感されて、一時的とはいえ、久々に1万円台を上回った。

これに気をよくしたのか、安倍首相は10兆円規模の超大型補正予算を組むことを宣言。返す刀で日銀に圧力をかけ、金融機関が保有する国債などを購入する「資産買い入れ基金」を10兆円上積みし、101兆円規模に拡大させるなど、「アベノミクス」にますます前のめりとなっている。

■借金だけが増え続ける日本経済の悪夢

だが、本当に「アベノミクス」でデフレ脱却と円高是正ができるのだろうか?

これまで説明した「アベノミクス」のシナリオはあくまで“吉のシナリオ”にすぎない。実は「アベノミクス」は一歩間違えると、“凶のシナリオ”になりかねないことを忘れてはいけない。

そもそも、「アベノミクス」はいわゆる財政ファイナンスによる究極のバラマキ政策にすぎない。国が自ら輪転機を回してお金を刷り、借金をし、使ってしまうのだ。いわば将来の収入と需要を先取りするわけで、その後には膨大な借金=国民負担が残る。

このバラマキ政策を国は過去20年間繰り返し、1000兆円を超える借金をつくってしまった。しかし、それでも一向に景気は回復していない。同じように「アベノミクス」はカンフル剤のように一時的に景気回復をもたらすかもしれないが、その後にさらに深刻な不況をもたらす危険性がある。

その凶のシナリオを紹介しよう。

「アベノミクス」で円安となったとき、国内のお金はどう動くのか? 今、国内の金利はほぼゼロだ。預金などの円資産を放っておけば、円安で日々に円資産は目減りする。当然、人々は防衛のために円を売って外貨を買い、海外預金や外国株式への投資に走る。

すると円がどんどん売られるのだから、ますます円安になる。例えばその結果、1ドル=80円が1年後に90円になったとしよう。

外貨預金をしておけば、1年後に80円が90円になるのだ。さらに外貨預金の金利もつく。1年間の利回りは十数%にもなる計算だ。

一部の金持ちが余裕資金を外貨預金にシフトさせるだけならよいが、多くの国民が10%以上の利回りに飛びつき、外貨預金に殺到するとまずい事態となる。

そのとき、国内では「アベノミクス」で大量の国債が発行されているはずだ。国債の大部分を買ってきたのは日本の金融機関。長引く不況で貸し出しが伸びないため、とりあえず積み上がった預金で国債を購入している。

しかし、大量の円預金が海外に流出すれば、預金量が減り、金融機関はこれまでのように大量の国債を引き受けることができなくなる。その結果はどうなるか?

国債が売れなくなり、国債価格は下がる=国債金利が上昇するはずだ。しかもその間にも円安はさらに進む。円安が進めば、円の信用も落ち、さらに国債の価格下落=金利上昇への圧力は高まる。

金利が上がると「アベノミクス」でせっかく景気が良くなっても、企業は設備投資をためらうようになる。アップした金利負担に見合う収益を上げる自信がないと、設備投資は中折れしてしまうのだ。

こうなると、「アベノミクス」は吉のシナリオから凶のシナリオへと一転する。

金利上昇で住宅ローンも上がる。これでは「アベノミクス」でちょっと給料が増えたとしても相殺され、労働者は消費を手控えることになる。

銀行も大変だ。持っている国債が値下がりして、巨額の評価損が発生する。経営の苦しい地銀などでは経営破綻するところも出てくるかもしれない。

国の財政も危機に直面する。それでなくても日本の財政赤字はGDP比マイナス9.2%と、先進国中、最悪の水準にある。国債が暴落して利払いが増えれば、政府は財政破綻の淵へと追いやられるだろう。

そのときには円安で石油やガスなど、燃料や資源の輸入費も膨らみ、原材料を輸入する企業の収益を圧迫するし、貿易赤字がさらに大きくなっているはずだ。日本経済は財政赤字と貿易赤字という双子の赤字に悩まされ、あっという間に失速してしまう危険性もある。

本来なら、「アベノミクス」というカンフル剤で日本経済が一時的に元気になったときこそ、国内の産業を筋肉質にしておかなければいけない。規制緩和を推し進め、利益の上がる成長産業を育てておけば、カンフル注射をやめても日本経済は確実に上向くのだ。

ただ、安倍新首相はその手当てをやらない可能性が高いと、私はみている。

なぜなら自民党内部に、「アベノミクス」は夏の参院選に勝利するためのものと位置づけているフシがあるからだ。夏までに農協、医師会、建設業界といった既得権益グループにバラマキを行ない、組織票を固めようという動きが垣間見える。これでは規制緩和は進まず、とてもではないが、既得権と戦う成長戦略は実行に移せない。

そうなれば、「アベノミクス」は国の借金が増えたのに不況から脱出できない結果に終わったというだけでなく、場合によっては物価は上がるのに経済は縮小という悪性インフレ――スタグフレーションをも招きかねない。

「アベノミクス」は私たちに吉運を運んでくれるのか、それとも凶運をもたらすのか? 新春早々から目が離せない。

(撮影/山形健司)

●古賀茂明(こが・しげあき)



1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。民主党政権と霞が関を批判した著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。現在、大阪府市統合本部特別顧問



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