制作者が語る、テレビ視聴の革命機「SPIDER」の全貌

週プレNEWS / 2013年1月18日 6時0分

SPIDERが「期待させておいて、なかなか発売されない理由」を有吉昌康社長に直撃した

テレビに革命を起こす! なんてデカイこと掲げると、かえって安っぽい絵空事のように聞こえるが、このSPIDERに限っては知れば知るほどワクワク感が色濃く見えるのだ。

■シーンも逃さない前代未聞の検索力

SPIDERはまず、地デジで放送されるテレビ番組1週間分すべて録画する。この点では、ほかの“全録レコーダー”と一緒だが、このマシンのすごさは「前代未聞の検索機能」にある。例えば、好きなアイドルが出演した番組を探すだけなら一般の“全録”でも、電子番組表データを利用して可能だが、SPIDERは、出演中のCMはもちろん、何かの番組で出演者がそのアイドルをトークの話題にしたシーンまでも拾ってくるのだ!

なぜそんなことができるか? それは、スタッフ約70人が“人力”で、番組内の会話や、CMの出演者・テーマ曲などの情報を、絶えず入力し続けているからだ。もちろん、人物名だけでなくニューストピック、地名、商品名、料理名なども検索対象となる。テレビ番組は、1週間に2000あるといわれるが、これなら自分が興味のある番組は絶対見逃さない。

SPIDERは、企業向けのみの商品としてマーケティングに関わる人には知られていた。各企業が、テレビ上における自社製品の露出や評判などをチェックするために使われてきたのだ。しかし、SPIDERの製造販売を行なうPTP社は、2011年中に家庭用も販売すると発表。なのにその後、発売はおろか新たな情報すら出てこなくなってしまった……。

だが、12年10月、山が動く!

SPIDERのフェイスブックページに、家庭用マシンのリモコンの画像が公開。加えて新たな正社員募集まで。いよいよ事業拡大か? しかもホームページでは2012年末発売予定と発表。なのに……続報のないまま2012年も終了。期待が膨らんだ分、ファンの落胆も大きい。「もう出ないのでは?」「会社がヤバいのでは?」といったネガティブな推測も出始めた。では実際どうなのか。PTP社の有吉昌康(ありよしまさやす)社長に直接聞いてみることにした。

***

―単刀直入にお聞きしますが、なぜこんなに発売が遅れているんでしょうか?

有吉 発売を前に、販売方法をめぐって闘っているんですよ。

―闘ってる?

有吉 販売店がメーカーに要求してきたこれまでのやり方に従うと、僕らが適正と思っている価格にマージンが上乗せされるので高くなってしまう。そもそも僕らはハードウエアで儲けようと思ってませんからハードはできるだけ価格を抑えたいし、ほかのメーカーのように毎年モデルチェンジを繰り返すこともしません。僕らはひとつの商品しか出さないし、それはずっと使っていただける一台なんです。だから機能も価格もまったくスキがない完璧なモノでなければいけない。2011年の発売を延期したのは、ハードとソフトで少しずつ完成度が足りず、納得できなくて。だから筐体も地デジ版マザーボードもすべてオジャンにして、結局、一から作り直しました。もちろん、ハードディスクは壊れることがありますが、僕らは72時間以内に修理してお客さまの元に戻します。

―定期的に新機種を出さずに、メーカーとして儲かるんですか?

有吉 僕らはハードウエアメーカーではなく、サービス業者です。お客さまのテレビ録画環境を常に守り、お客さまが面白いコンテンツと出会うためのサービスを提供して対価をいただきます。録画環境というのは、例えばお客さまひとりひとりのSPIDERを24時間監視するんです。

―監視?

有吉 例えば掃除をしていてコンセントが抜けたら「電源が抜けています」とメールしたり。「機械の温度が昨日より6℃高いので風通しをよくしてください」とか、「ハードディスクにエラーが出始めています。大事な番組は保存しておいたほうがよさそうです」とか。

―「番組を絶対逃さない、なくさない」という安心も含めたサービスなんですね。ただ、例えば大手家電メーカーでも、少額の情報課金サービスを提供したりします。でも会員獲得には苦労しているようで。SPIDERも情報を検索できる課金サービスですが、ユーザーの獲得は難しくないですか?

有吉 払う価値のないサービスだと評価したものには、ユーザーは1円だって払いませんよ。そんなものと比べられるようなサービスを僕らはやっていません。

■ソーシャル機能がまた、すごい

―「検索」と並ぶSPIDERの特徴として、「SNSと連動し、ユーザー同士で面白い番組やシーンをシェアできる」という機能があります。例えば話題のドキュメンタリーの必見シーンとか、アイドルのセクシーな表情とか、他人にオススメしたい“シーン”にボタンひとつでリンクを張り、SNSに投稿すると、興味をもった友人は、そのリンクを踏むだけでいきなりオススメシーンから視聴できるんですよね。これだと確かに、普段見ていない番組に出会う機会も広がります。

有吉 いまのツイッターでもテレビ番組に関するつぶやきは多いですが、ツイッターだと「時間とコメント」をつなげているだけなんです。つまり、番組自体に紐づけられているわけではないので、東京でお昼に放送されている番組が地方では夕方に放送されていたら、同じ番組についてのつぶやきでも、番組を観るときには、つぶやきを見られないし、逆につぶやきを見て番組を観ようと思ってもタイミングが合わない。

でもSPIDERでは個々の番組をすべてデータベース化します。全番組の映像パターンをキャッチし、番組をコーナー単位で区切ってすべてにIDを振っていく。だから、ある番組やCMにコメントをつけてシェアすると、放送時間の違う地域でそのコメントを見たとしても、IDが同じなので、自分のSPIDERから、すぐにその番組やCMを呼び出すことができる。ローカル番組やCMは対象外だが、それ以外は、SPIDERだけの細かい「検索」ができます。

―あと、全顧客のSPIDERを常時“監視”しているということは、どの番組やCMを、誰がいつ見たかもわかるんですよね。

有吉 もちろんです。

―だとすれば、録画では数字にカウントされないなど、曖昧さがずっと指摘されていた現行の視聴率調査と比べても、はるかにリアルな“視聴数”が出てきますよね。

有吉 テレビ局や番組制作者の利益は大きいですよ。ソーシャルなクチコミによって番組やCMが話題となれば新しい視聴者を呼び込めるし、正確な人気を知ることで、より良い番組作りができるわけじゃないですか。視聴者にとってはテレビの質が上がり、良い番組が増えることで還元されます。お金を払ってSPIDERを見ている人も、良い番組作りに参加してくれるということです。

―ただ、CMがスキップされて、クライアントはいやがるのでは?

有吉 そこはSPIDERに限ったことではないです。だから今後ますますCMもコンテンツ力にかかってくると思います。SPIDERなら番組でもCMでも、いいモノは検索して観られます。

―そこはテレビのビジネスモデルへの影響も大きそうだなあ。あと、テレビの新しい見方として、確かにSPIDERは面白いんですが、販売店の売り場では、やっぱりほかの“全録”レコーダーと並べて売られると思うんです。売り場で、この新しいサービスはお客さんに伝わりますかね?

有吉 だからいま闘っているんです。販売店には、売り場も変えていただきたいと言ってますからね。

―ああ、それは確かにモメるかも……(笑)。まあ、アップルやBoseはそうやってきたし。あと、ここまで発売を延期してしまうと、いいかげん、会社がヤバイんじゃないかという説も……。

有吉 いえいえ、法人向けのSPIDERはしっかりと事業として成り立っていますから。いま、契約いただいているクライアントがそろそろ500社で、サービス料金が月6万円ですから、単純計算していただければおわかりになると思いますよ。社員は22人ですし。

―なるほど! もうひとつ、そもそもの話ですが“全録”レコーダーというジャンルが発売から約2年たちますが、あまり普及していません。その市場にSPIDERを投入して大丈夫ですか?

有吉 モノが魅力的でなかったからですよ。壊れやすく、ちゃんと全録できない機種もあるし(笑)。SPIDERは故障を防ぐノウハウに加え、監視もするから故障の不安もない。そもそもハードメーカーはハードで利益を取らなければいけないからどうしても高くなる。でも、SPIDERなら魅力的な価格で出せる。

―では販売価格と毎月のサービス料金はいくらぐらいに?

有吉 それはまだお教えすることはできないです。ただ、皆さんの手の届く値段で出すために、いま苦労しているところです。

―そこで販売店とも闘っている、と。ちなみにどれくらいの数が売れたら、SPIDERが目指す「テレビをめぐる新たな視聴とコミュニケーション」が社会に定着すると思いますか?

有吉 100万台ですかね。

―大きく出ましたね!

有吉 いま、月に2万台までの量産はできるようになりました。これが5万台とか10万台となると、日本の家電メーカーのお家芸でもある大量生産の世界になるわけです。これをこなすには、人材が必要です。工場でトラブルが発生したときにすぐ解決できるようにしなければいけませんし。いま、日本のメーカーから、そういう技術者がどんどん辞めて韓国のメーカーに移ったりしていますが、われわれとしては正社員募集をかけて、そういう方にうちに来てくださいと募集しています。われわれの次のステージは、まさに日本のお家芸の世界ですからね。

―いまの話で発売が目前という期待度がグッと高まりました! ところで、新しいSPIDER、ちょっと触らせてください?

有吉 どうぞどうぞ。

―おおーっ、このリモコンは手のひらにすっぽりと収まりつつ、重さが妙にしっくりきますね。

有吉 いい重さでしょ。実はiPhoneと同じ重さなんですよ。使いなれた重さなんです。

―検索のすごさを見てみたいんですが。

有吉 では、「武井咲」で検索してみましょう。

―番組4件、CM12件に加え、コーナー58件のヒットだ。

有吉 一般的なレコーダーでは、番組の4件しかヒットしません。

―ワイドショーでちょっと話題になった場面まで引っかかりますね。しかも、検索した番組の呼び出しの反応がメチャクチャ早いし、家の中で保存された番組をスマホやタブレットに飛ばすのもサクサクじゃないですか!

有吉 僕自身、機械の反応が遅いのってすごくいやなんですよ。

―週プレももう待ちきれません! 早くSPIDER出してくださ~い!

(取材・文/頓所直人 撮影/内山一也)

●有吉昌康(ありよし・まさやす)



株式会社PTP代表取締役。野村総合研究所を経て、「テレビの次の50年」となるアイデア実現のため起業。2007年、法人向けSPIDER PROを販売開始



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