竹田圭吾(ジャーナリスト)×山本一郎(投資家・ブロガー)「ネット解禁で日本の選挙はもっとヒドくなる?」

週プレNEWS / 2013年2月7日 13時0分

ネット解禁で選挙や政治はどう変わるのか? ジャーナリストの竹田圭吾氏(左)と投資家・ブロガーの山本一郎氏が語る

現行の公職選挙法では全面的に禁止されている「ネット選挙」(本特集では、政党、候補者、有権者が公示後にインターネットを利用して選挙運動を行なうことを指す。「ネット投票」とは別)。昨年末の衆議院選挙でも、日本維新の会の橋下徹代表代行(当時)が公示後もツイッターを更新していたことが「違反の可能性あり」と、話題になった。

「時代遅れだ、なぜやらない」

そんな声が聞かれ始めてから、はや数年。今年の通常国会で提出される見込みの改正法案が無事に成立すれば、早ければ今夏の参議院選挙から、日本でもついに「ネット選挙」が解禁となる。

一般的に、ネット選挙については「お金がかからない選挙になる」「よりフェアな選挙が実現する」「若者の投票率向上につながる」などなど、どちらかといえば好意的な意見が多い。しかし、そこに待っているのは、本当にバラ色の未来なのだろうか?

『Newsweek日本版』元編集長で、日本のみならず各国の選挙事情に詳しいジャーナリストの竹田圭吾(けいご)氏と、膨大な選挙関連データを扱うリサーチ会社でアドバイス業務を行ない、ネット住民の“生態”にも精通する投資家・ブロガーの山本一郎氏に、「ネット選挙解禁後の日本政治」について語ってもらった。

■政治の“プロ化”がより促進される?

―まず、「解禁」という判断についてはどうお考えですか?

山本 それ自体が是か非かということであれば、さっさとやったほうがいいですよね。この時代、ネットを使わない選挙というのもおかしな話ですし。

竹田 僕も解禁そのものには賛成です。既存メディアは選挙運動の質を高めるどころか、むしろ逆の方向に作用してしまっていますからね。その“限界”を超えるためには、長期的に見れば選挙期間中のネット使用は絶対に解禁したほうがいい。ただ、短期的にいえば、解禁したところでそれほど影響力はないでしょう。

山本 そうなんですよ。計量分析をしてみると、最終的に政治態度を決定するときの情報が「ネットでの意見」だったという人は2%程度しかいないんです。

竹田 結局、そこまでネットに深くコミットしていない有権者がマジョリティだということ。昨年末の衆院選でも、国内有数の“ネット議員”だった民主党の逢坂(おおさか)誠二氏ですら、地元でベタベタなドブ板選挙をしていました。当たり前の話ですが。

山本 それと、勘違いされがちですが、ネットだから公平な選挙になるということはありません。例えば、故意にしろ偶然にしろ、事実ではない情報が流れたときの訂正が難しい。有権者がミスリードされたまま、選挙戦が行なわれるリスクはあります。

竹田 ネットを見るときは、自分が好む情報だけを選んでアクセスするケースが多いですからね。それを逆手にとって、有権者に好まれるような“アピール”を強くできるところが注目される。組織票をより大きくすることも、これまで以上にやりやすくなる。

山本 「政党のバックアップがない候補者のチャンスが増える!」と思う方もいるでしょうが、実際にはその逆で、政治の“プロ化”が促進されると思います。中選挙区時代と比べ、今は選挙技術が向上していて、各政党間、政治家間でも選挙活動の効果に大きな差がある。そこでさらにネットというインフラを利用するとなれば、当然、選挙期間以前からきっちり活動していなければ票は増えません。

竹田 よりお金のある人、技術力のある人が有利になる。少なくとも短期的には、それは間違いないと思います。

山本 当面は、今の選挙戦術にネットが取り込まれるだけ。相応の財政基盤があって選挙がうまい陣営はより強く、そうでない陣営はよりしょっぱく、という二極化が進むでしょうね。

■選挙の「バカ対策」がさらに激しくなる?

―昨年末の衆院選では、あれだけメディアが騒いだにもかかわらず、投票率が低迷しました。ネット選挙は「投票率を上げる」という効果もあるといわれますが、その点については?

竹田 そもそも、「投票率が低い」イコール「政治に無関心」ということではないと思いますよ。

山本 そうですね。ここ5年くらいで、投票率というものが政治関心を決定的に示すわけではない、あまり関係ないということがわかってきました。

竹田 今回の選挙は何かと争点が多く、決められないからと投票を回避した有権者も多かったということでしょう。

山本 実際、投票率が低下したとされる30代男性にヒアリングしてみると、「投票で意思決定する能力が自分にはないから棄権した」という人もけっこういるんです。

―逆に、2005年の“郵政選挙”や09年の“政権交代選挙”は、悪い意味でもわかりやすかったからこそ、投票率が上がったと。

山本 これは言っちゃいけないことなんでしょうけど、乱暴に言えば選挙は「バカ対策」が重要なんですよ。考えて投票する人も、あまり考えないで投票する人も同じ一票で、あまり考えない人がマジョリティである限りは。

竹田 それが基本ですよね(笑)。そして、ネット選挙が解禁されるからといって、それだけで有権者の政治リテラシーが上がるわけではない。むしろ、リテラシーを上げないほうが政党や政治家にとってはラクなわけです。この点は、もう少し強調しておいたほうがいいかもしれません。

山本 自分のメシはどこから生まれて、社会はどこに向かうべきか。そういった考え方のコア(核)がある人が本来の有権者だと思うんですけど、コアのない人にも投票させようとするのが、政党側にとってはネット選挙の目的のひとつですからね。海外の現状を見ても、フランスなどは特定の主張しかしない政党がネットをうまく活用して、見事に議席を取ったりしています。

竹田 オランダしかり、ドイツしかり。もちろん海外でのそういった事例は、ネット選挙以前からあったことですが、その傾向はより強まっていますね。

山本 そう考えると、ネット選挙の解禁自体はいいことだと思うんですけど、その未来を考えてみると、そんなに明るくないのかなあ……という気もしてくるんですよ。何も考えずに導入して、それが本当に日本にとっていいことなのだろうか、と。

■“ウェブ版・小泉純一郎”が出現する?

―えー、なんだか非常に暗い話になってきました(苦笑)。

竹田 そこであえて楽観的な予想をすると(笑)、ネットには一定の自浄作用というか、“バカ駆逐機能”もあるじゃないですか。東日本大震災の後に大量のデマが出回ったときも、バカを見つけて、それがどうしてバカなのかをロジカルに解明して……という。山本さんもツイッターで一生懸命やっていらっしゃいましたが。

山本 確かに、ネットには「バカチェッカー」みたいな人がいて、日夜、検証作業をしています。特に東日本大震災の後は、学者やジャーナリストも含め、相当な数のバカが炙(あぶ)り出された。

竹田 そういう機能に関しては、リアルよりネットのほうが強いと思うんです。しかも、プロセスがすべて可視化されている。

山本 トレーサブルなのは大きいですね。過去の発言も含めて検証できる。橋下徹さんにしても、最近はツイッターでツッコミどころ満載の発言を繰り返しているせいで、大阪以外の地域ではガクンと支持率を下げてしまっていますし。ネットでは、言論のチェックをそれなりの精度で積み重ねられるようになってきているということでしょう。

竹田 その経験則を生かし、さらにその機能を伸ばしていくような努力をすれば、ネット選挙、ネット政治の未来も少しは明るく見えるのではないかと。デマを排除し、バイアスを中和した中間的な世論醸成装置みたいなものができるかどうか。まぁ、そんなに簡単にはいかないでしょうけど。

―逆に言えば、これからはネット上でバカなことを言ってしまうと、政治家としても非常に損をするということに?

山本 発言だけではなく、ネットとの関わり方やイメージの問題ですね。ウェブで語るスキルみたいなものって、テレビなどとは別物で、向き不向きもあると思うんです。テレポリティクスとは別の、“ウェブポリティクス”みたいなものがどんどん出てくるかもしれない。そうなると、いずれネットでポピュリズムのできる“ウェブ版小泉純一郎”のような人が出てくるかもしれません。

竹田 それは歴史の必然ですね。メディア史を振り返ってみても、新しいメディアインフラができたときは、それまでのゆがみやしがらみを加速させ、拡幅させる作用が大きいですから。

山本 PR会社なんかは、手ぐすね引いて待っているでしょうね。

■今後の選挙戦術は“ヤクルト野球”型?

山本 話は変わりますが、「有権者の投票行動のデータが誰のものなのか」ということは、このへんで真剣に考えておく必要があると思います。

―どういうことですか?

山本 選挙に関するネットの利用が進めば、政党側には調査会社などを通じて集めた有権者個人のメールアドレス、ツイッターやフェイスブックのアカウントといった情報が蓄積されていきます。各個人のネット上での日々の発言などもそこにひもづけられ、政治的な姿勢もわかってしまう。“心の中身を為政者に分析される”というイメージでしょうか。

竹田 アメリカの選挙ストラテジストがやっているのは、そういうことですよね。有権者個々人に、どのようなアプローチをすれば投票行動を変えられるか、といった情報も集積される。

山本 ええ。例えば、ある候補者に対して「あなたは育児と家庭の話をしてください、それ以外のことはマイナスのリスクがあるので言わないでください」と指示する、とか。より“ヤクルト野球”的に、データを重視しリスクを回避する方向になっていくと思います。

竹田 同じ選挙区内でも、通り一本隔てただけでアプローチが全然変わってくる、というようなこともあるでしょうね。地方選挙はすでにそうなり始めている部分もありますが。

山本 気象予報に近いですね。国政選挙でも、現在すでに公示日には96%程度まで当落予想をつけられる状態にあります。ネット選挙の解禁で情報の集積がさらに進めば、選挙戦が始まって候補者が判明した瞬間に、ほぼ100パーセント、結果もわかる。もっと言えば、いつ選挙をすべきかも明確にわかる。間違いなく選挙技法そのものが変わってくる。

竹田 見えないところで規定されてしまうという意味では、夢がないですね(苦笑)。アメリカにおいても、ネット選挙は賛否両論です。ネットをうまく活用しているオバマ大統領を「アメリカの政治や民主主義の良識」と解釈する人たちはもちろんいます。しかし、その一方で、「ウェブマーケティングに長けているだけで、中身のない人間を大統領にしてしまった」と見る人たちも多い。後者の意見を持つ人にとって、選挙におけるネットの使われ方は非常にネガティブなものでしょう。

山本 日本とアメリカではカルチャーが違うので、単純に比較はできませんし、まったく同じ技法も通用しないでしょうけど……。そこまで心の中を把握されて、幸せですかねえ?

―また暗い話になってきましたが、どうせ解禁されるならデメリットもわかっておいたほうがいいよ、ということで……。

山本 それと、ウェブって多くの人が思っているほどキレイなものではないですからねぇ。あのウェブメディアはどこどこに肩入れしている、とか、あそこは色がついている、とか、いざネット選挙が始まったら、間違いなく業界内でケチがつく。ウェブメディア同士の罵倒合戦ですよ。汚物が飛び交う世界。それはそれで個人的には大好物ですけど(笑)。

竹田 すてきですね。僕もそんな世界は大好きです(笑)。ただ、あまりダーティになると、潔癖な人はどんどん離れていきますよね。

山本 ホント、悩みは尽きません。どうしたらうまくいくのか……。

竹田 もう、やるしかないでしょう。前に進みつつ、問題を修正する地道な作業をしていくしかないと思います。

(取材・文/コバタカヒト 撮影/高橋定敬)

■山本一郎(やまもと・いちろう)



投資家、イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役(2000年に設立)。1973年生まれ。ネットでは“切込隊長”のハンドルネームで知られるアルファブロガー(現在は本名で活動)。コンテンツ開発、IT業界の動向に詳しい。『情報革命バブルの崩壊』(文春新書)、『ネットビジネスの終わり』(voice select)、『けなす技術』(ソフトバンククリエイティブ)など著書多数

■竹田圭吾(たけだ・けいご)



ジャーナリスト、名古屋外語大学客員教授。1964年生まれ。慶應義塾大学卒業後、アメリカンフットボール専門誌の編集記者を経て、国際ニュース週刊誌『Newsweek日本版』編集部へ。98年より副編集長、2001年1月から10年9月まで編集長。現在は情報番組のコメンテーター、ニュース解説ラジオ番組『JAM THE WORLD』(J-WAVE)の木曜ナビゲーターも務める

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