ハリウッドに殴り込みをかけて撮り続ける唯一の日本人映画監督・北村龍平の“闘い”

週プレNEWS / 2013年3月29日 6時0分

新作『ノー・ワン・リヴズ』の主人公には自分なりの“悪のヒーロー像”を投影したと語る、北村龍平監督

かつて日本でメジャーの大作映画を撮っていた北村龍平は、17歳のときに心に決めた夢を叶えるため、2007年、日本からハリウッドへと活動の場を移した。“魑魅魍魎の世界”でもがき続けた6年間を経て、今、熱き男の反攻が始まる。

■ハリウッドでは監督さえいつでもクビになる

―北村監督がハリウッドへ渡って、丸6年がたちました。

北村 ハリウッドは一筋縄ではいかないですね。製作が決まり、発表までしたところで、そこから何も進まないケースもザラなんです。そういう意味では、最新作『ノー・ワン・リヴズ』は割とタイミングよく成立したほうですよ。とはいえ、脚本が届いてOKし、撮ると伝えてから実際に撮影が始まるまで10ヵ月はかかってますけど。

―撮影が始まるまでは、どのような作業をしてたんですか?

北村 めっちゃめちゃ脚本をいじりました。ハリウッドは、こちらの言うことに説得力があれば受け入れてくれる。そういうフリーダムはある程度あるんです。逆に言うと、脚本のクオリティはむちゃくちゃヌルいですね(苦笑)。完璧な脚本なんて割合的には50冊読んで1冊くらいだし、プロデューサーもそれをわかってる。そういう脚本を、叩いていいものにしていくスキルを求められているのが監督ですから。

―いわゆる日本の“映画監督”のイメージは大先生っぽい立ち位置だと思いますが、ハリウッドはだいぶ違うみたいですね。

北村 ハリウッドの監督というのはシステムの中では割と重要ですが、あくまで歯車のひとつでしかない。その歯車を回しているエンジンはプロデューサーでもなく、資金を出している映画会社ということになってくるので、監督でも簡単にすげ替えられてしまうわけです。プロデューサーですらクビになる世界ですから、常に“自分”を証明し続けなければならない。

―監督が全権を握っているわけではないんだと。

北村 ただ、僕にとってはそのヒリヒリ感が、大変でありながら面白いんですけどね。これを楽しめなかったら、おかしくなってるかもしれない。

―すさまじい世界ですね……。

北村 監督ならジェームズ・キャメロン、役者ならトム・クルーズみたいなごく一部の人間を除けば、全員オーディションですよ。最後まで勝ち残って仕事を取っても、いつでもクビになる。そのためにギャラも週払いなんです。

―でも、監督が背負う責任は大きい。

北村 そんなバカな!みたいな話ですが、たとえ僕が2週間ほどでクビになり、別の監督がクソみたいな映画を完成させたとしても、その映画は僕の名前で出るんです。

―そうなんですか? そういう話はあまり日本では知られていないですね。

北村 ハリウッドでは、完成した映画を300人くらいにテスト試写して、その後、15人くらいで座談会をします。その結果次第でエンディングを作り直したり、さらに見せ場を追加撮影したり、徹底的にクオリティコントロールをするんです。そこには監督の個性が入り込む余地なんて、ほぼない。

―でも、監督が納品したものと最終的にまったく違う映画になっていても、それに対する批判は当然、自分の責任になる。

北村 そこは、もう容赦ない。だからこそ、ハリウッドで闘うには大変な外交能力、交渉能力、人間力が問われるんです。

■映画屋が映画屋のプライドを持って

―監督は『VERSUS―ヴァーサス―』(2001年)で注目され、『あずみ』(2003年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)と順調にキャリアを築いていたわけですが、それらをすべて捨ててアメリカに渡った理由はなんだったんですか?

北村 僕は子供の頃からハリウッド映画を観て育った。ハリウッド映画があったからこそ、映画監督になろうと思ったんです。日本では極めて恵まれた環境でした。それで、あるとき、自分に問いかけたんです。「おまえ、すべてを捨てて、また一から挑戦できるか?」と。そのとき、「全然やれる」と思ったんですね。

―失礼ながら、監督はその歯に衣着せぬ物言いもあり、日本で仕事していたときはずいぶん攻撃されていたように思いますが……。

北村 僕は現場の叩き上げじゃなく、映画界のしがらみと全然関係ない自主映画から突然出てきて、やりたい放題やっていたから。それでも、自分はやっぱり映画側の人間だと思っているので、「映画屋なら映画屋の作りってものがあるじゃないか」という意識がすごくある。『告白』(2010年)みたいなすごい作品やヒット作を、映画屋ではなくCM業界やテレビ業界出身の人が作っている現実には、「映画屋が映画屋のプライドを持って、いい映画を作らなきゃ!」と思います。

―それは“ハリウッドのすごさ”にもつながってきますよね?

北村 なんだかんだ言って、ワールドスタンダードはまだハリウッドだと僕は思ってるんです。アメリカに行けば、ファクトリーとしてのすごさを感じるんですね。どこまで行ってもワールドスタンダードたり得るクオリティを、必ずキープしている。そこが僕にとって、刺激的なんです。

―とはいえ、ハリウッドっていわゆる“魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界”みたいにいわれますよね……。

北村 みんなが笑顔で、みんなが夢を語りながら、いきなり裏からブッ刺すみたいな(笑)。ハリウッドという虚像の中にいる悪党には、だまくらかすだけのオーラがあるんです。でも、そんな障害があろうとも、ごく限られた人たちは夢を実現しているじゃないですか。

―確かに、アブなすぎるけど、抗(あらが)えない魅力も持っています。

北村 「興味ある」とか「最高だ!」とか言っておきながら、コトを何も起こさない詐欺師たちが冗談抜きに99%以上いる(笑)。本物は誰なんだ? 誰を信じればいいんだ? ということを見極めるのがすごく大変で、僕も最近ようやくわかるようになってきたところです。6年間たってやっとですよ。

―そんな苦労の末、ようやくハリウッドでの2作目が完成した。

北村 今回の作品も、どうしても日本人監督がアメリカに行って作ったという目で見られてしまうけど、試写を観た人から「完璧な洋画ですね」と言われたのはうれしかったですね。

―『ノー・ワン・リヴズ』はまさにハリウッドテイストのバイオレンスホラーですが、徹底したリアリズムもあり、きちんと“北村ワールド”を感じるんですよ。

北村 日本でもそうでしたが、ファストフードのハンバーガーのように量産されるハリウッドというシステムでは、どこでどんな題材を撮ろうと“北村龍平印”みたいなものを押さないとダメだと思っています。毎回、その闘いですよ。だから、結局のところ僕にできることは、ベストを尽くして一生懸命いい映画を作るだけなんです!

(取材・文/米澤和幸[Lotus Records] 撮影/殿村忠博)

●北村龍平(きたむら・りゅうへい)



1969年5月30日生まれ。アクション映画『VERSUS―ヴァーサス―』(2001年)で長編デビュー以降、代表作多数。現在はハリウッドをベースに活躍する。『NO ONE LIVES ノー・ワン・リヴズ』はハリウッド進出第2弾作品

■『NO ONE LIVES ノー・ワン・リヴズ』



4月27日(土)より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開予定。



倒錯した愛を貫くため殺戮を繰り返す天才殺人鬼と、凶悪な強盗団の死闘を描く極限のバイオレンスホラー。主演:ルーク・エヴァンス(『タイタンの戦い』『ロビン・フッド』『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』『推理作家ポー 最期の5日間』)





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