古賀茂明が指摘する、フクシマの除染がさっぱり進まない本当の理由

週プレNEWS / 2013年4月8日 16時0分

南相馬市原町区大原に建設中の“仮の仮置き場”、通称“カリカリ置き場”。施行はゼネコン大手の竹中工務店だった

今、福島では復興に向けて、放射性物質を取り除く「除染作業」が行なわれている。しかし、手抜きが横行し、各地方自治体の足並みはそろわないなど数々の問題が発生。また、除染作業は国の計画から大きく遅れてしまっている。いったい何が弊害になっているのか。古賀茂明氏がその真実に迫る。

■遅々として決まらない汚染物質の仮置き場

福島県庁から約1.5km。福島市渡利(わたり)地区は今でも高い放射線量が検出されるエリアとして知られる。

その渡利地区の西端、阿武隈川(あぶくまがわ)を見渡す土手に立つ自宅前で、菅野和敏(かずとし)さんがあきらめ顔でこうこぼす。

「国の除染目標が毎時0・23μSV(マイクロシーベルト)なのに、自宅の庭付近で1μSVもあります。室内の線量も高く、1階の居間で0.6μSV、2階寝室は0.8μSVです。そのため、3人の子供は1階で寝て、私だけが2階で休んでいます。一刻も早く除染をしてほしいのですが、実施予定の3月になってもさっぱり順番が回ってきません。最低でもあと1年間くらいは待たされることになるでしょう」

除染の方針を定めた「放射性物質汚染対処特措法」が国会で成立したのは2011年8月26日のこと。

これを受け、同年12月には「除染関係ガイドライン」も策定され、誰もが12年の年明けから本格的な除染がスタートすると期待したものだった。

だが、現実は渡利地区のように、除染が遅々として進まないケースが続出している。福島第一原発から20km圏のエリアである南相馬(みなみそうま)市の除染事業関係者も証言する。

「対象となる1万9141戸の住宅のうち、除染に着手できたのはわずかに382戸。進捗(しんちょく)率にして1.9%にすぎません。11年8月から13年8月までの2年間で、空間線量を半減させるというのが国の目標でしたが、絶対に無理。今年の8月までに除染が終わるはずがありません。南相馬市で除染が終わるのは14年末の予定です」

どうして除染は進まないのか? その理由を探して福島県内のいくつかの自治体に足を運んでみた。

***

最初に向かったのは南相馬市西部にある原町(はらまち)区大原(おおはら)。ここで“仮の仮置き場”が建設されているというので訪ねてみた。

除染で排出された大量の放射性廃棄物や残土は福島県外に造られる最終処分場に持ち込まれ、半永久的に管理されるが、その前段階として福島県内に中間貯蔵施設を設け、30年以内を期限として保管することとなっている。

しかし、中間貯蔵施設建設のメドは立っていない。そのため、環境省は除染計画のある福島県の40の自治体に、独自の仮置き場を造り、一時的に放射性廃棄物を保管してほしいと要請したのだ。

だが、国が中間貯蔵施設の確保に四苦八苦しているように、被災自治体もまた、仮置き場の確保に悩んでいる。前出の南相馬市の除染担当者が言う。

「とにかく仮置き場の場所が見つからないんです。当初、原町区では海岸側にある北泉(きたいずみ)グリーンパークという元ゴルフ場の市有地を仮置き場にするつもりで、住民と交渉してきました。ところが、放射線量の高い市西部の山林地帯に比べ、海岸側は0.2μSvから0.3μSvと汚染度が低いんです。そのため、どうしてわざわざ放射線量の高い地区から低い地区へと汚染残土を運び込むのかという抗議が相次ぎ、元ゴルフ場を仮置き場にする合意がどうしても取れませんでした。仮置き場がないのだから、除染はできません。それが大幅なスケジュール遅れにつながったというわけです」

国は3年以内に中間貯蔵施設を造り、仮置き場での汚染残土の保管も3年以内にすると明言した。

だが、3年で中間貯蔵施設が確保できる見込みは小さい。そうなれば、仮置き場での保管は長期化する。場合によっては10年以上ということにもなりかねない。

「南相馬市でも多くの住民が国の言い分は口約束にすぎず、今の仮置き場が中間貯蔵施設の代替(だいたい)にされてしまうのではと不安視しています。こうした不安も、仮置き場の設置を難しくさせているのです」(前出・南相馬市の除染担当者)

そこで苦肉の策としてひねり出されたのが、“仮の仮置き場”設置というアイデア。仮置き場が完成するまで、集落ごとに“仮の仮置き場”を造り、そこに除染で出た放射性廃棄物を管理しようというのだ。

私が視察した原町区大原の“仮の仮置き場”は広さ約3000坪。かなりの広さだ。

現場は高さ2mほどの鉄製の塀でぐるりと囲まれていた。残土はフレコンバッグと呼ばれる1.1m四方の黒い袋に詰められ、敷地内にヒラ積みにして保管するという。

驚いたのはこの仮の仮置き場は周辺177戸分を対象としたものにすぎないということ。

「別の地区ですが、わずか16世帯の家屋を除染しただけで、3500袋ものフレコンバッグが積み上がってしまうというケースもありました。177戸だと、これくらいの広さがないと、とてもではないがすべての放射性汚染残土を保管しきれません」(前出・南相馬市の除染担当者)

原町地区だけで90の行政区があり、そのうちの74の行政区で仮置き場または仮の仮置き場が必要になるという。その総面積は実に2300万平方m(東京ドームの約500個分)にも及ぶ。



前述したように、南相馬市の除染対象住宅は2万戸近くにもなる。国が中間貯蔵施設を造らないままであれば、そのすべての除染を終えた頃には、市内は仮の仮置き場だらけになってしまう。

最終処分場が造れないので、中間貯蔵施設が必要となる。しかし、中間貯蔵施設もすぐには造れないから仮置き場が必要となる。だが、仮置き場もまた確保は難しいから今度は仮の仮置き場が必要となる。

保管場所が見つからないまま、汚染残土というジョーカーを下部へ下部へと押しつける玉突きゲームが繰り返されているのだ。

■仮置き場をめぐる自治体と住民の対立

そして、焦(じ)れた自治体では十分な合意のないまま、強引に仮置き場を設置する動きが目立っている。

全村民が村外へ避難している飯舘(いいたて)村の住民がこう証言する。

「村の小宮地区という所に、牧野(ぼくや)と呼ばれる入会(いりあい)地があります。86ha(ヘクタール)もあり、もともとは村の牧畜農家が共同で山頂を切り開き、牧草地として利用していました。この牧野を仮置き場にしようと、環境省と村が住民の合意もなしに動き始め、深刻なトラブルを引き起こしているんです」

環境省の申し入れがあったのは昨年8月のことだったという。牧野組合では9月下旬に受け入れを決め、その条件として(1)仮置き場が解消され、跡地の年間の空間線量が1mSV(ミリシーベルト)になるまで小宮地区に帰村できないようにする、(2)土砂の流出防止と水路整備を行なうなど、10項目の要望を環境省に提示した。

「しかし、環境省から戻ってきたのは“ゼロ回答”でした。そのため、反発した牧野組合では検討委員会で、牧野を仮置き場にしないことを決定したんです。ところが、2月17日に突然、小宮地区の総会が開かれ、議長裁定という形で牧野の仮置き場化が一方的に決められてしまったんです。住民の多くは膨大な数のフレコンバッグが山頂に運び込まれることの意味をはっきりと理解していません。牧野は村を流れる新田川(にいだがわ)のいちばん上流にあります。フレコンバッグの耐久期間は3年以内です。保管が長期化し、破れたフレコンバッグから汚染物質が下流に流れ出すと、小宮地区は再び深刻な放射能汚染を受けることになります」(前出・飯舘村の住民)

実は似たようなトラブルは南相馬市でも発生している。大山弘一(おおやまこういち)南相馬市議が言う。

「原町区馬場に10haもの巨大仮置き場ができることが、住民の合意なしに決められてしまったんです。このエリアには39軒の特定避難勧奨地点があり、3分の1ほどの住民が自主避難しています。仮置き場を造るなら、住民の合意が必要なはず。なのに、市は自主避難中の住民には何も伝えず、地権者を中心とする馬場地区の有力者だけで貸し出しを決め、3月26日の市議会で決議してしまいました。住民不在のスキを突くような形で仮置き場を強行決定するなんて、あまりにも乱暴です」

ことの真偽はさておき、国の無責任な除染対策が末端自治体を追い込み、さまざまなトラブルを誘発していることは間違いない。こうして、除染スケジュールはさらに遅れていくのだ。

■今ならまだ間に合う“除染の出直し”

国と自治体で除染の費用や規格に格差があることも、除染を遅らせる原因となっている。

現在、年間被曝量が20mSV以上のエリア(除染特別地域)を国が、1mSVから20mSVのエリア(汚染状況重点調査地域)を自治体が除染することになっている。

放射能汚染で国民が苦しんでいる状況は、ふたつのエリアで変わりなどあるはずがない。本来なら、国がやろうと自治体がやろうと、除染は同一でないといけない。

ところが、理解に苦しむことだが、国と自治体の除染に大きな格差があるのだ。

ある自治体の除染担当者がこう不満を漏らす。

「国と地方自治体では仮置き場の地代に、倍くらいの開きがあるのです。国直轄の除染エリアにおける仮置き場の地代は1反(約300坪)当たり、18万9000円です。ところが、地方自治体には9万6000円しか、予算措置を認めてくれない。あまりにも不公平すぎます」

汚染水の浄化も国はぜいたくに予算を使えるのに、自治体は冷遇されたままだ。

福島県内のある自治体関係者がこう明かす。

「自治体が行なった除染で排出された汚染水について、国はなんの基準も定めていません。とはいえ、汚染したままの水を放流できない。現在、私たちの判断で汚染水を10Bq/kg以下に浄化して放流していますが、その経費を環境省は認めてくれません。その一方で、国は自分だけに予算措置をし、汚染水をクリーンにする水浄化プラントを導入している。国はずるいですよ」

私も中央官僚だったから、環境省が考えていることはわかる。

環境省が国直轄の除染に多くの予算を割いているのは、後で責任を問われたくないからだろう。「除染が不十分だ」という批判を受けないよう、自省だけに多めの予算を配分し、高品質の除染を行なっているのだ。

一方、自治体の除染には関心などない。環境省が責任を問われることはないからだ。

要するに、自分の庭先だけはきれいにしておき、責任追及を免れようということ。これはキャリア官僚の悪しき習性といってもよい。

こうした官僚の習性は除染ガイドラインの不備にも現れている。

被災地では環境省の決めたガイドラインはひどく評判が悪い。

手探りの続く除染だが、それでも一定の知見は集まりつつある。放射性物質は時間の経過とともに移動するため、除染の効果的な方法も変わってくる。市街地、山林地帯など、地形別にどんな除染が有効なのかもわかりつつある。



当然、除染ガイドラインも見直されないといけない。だが、環境省に見直しの動きはない。

福島市渡利地区の住人が怒る。

「ガイドラインではいまだに屋根の高圧洗浄が推奨されています。でも、時間の経過とともにセシウムが屋根材や雨どいにがっちりと吸着し、高圧洗浄しても線量はほとんど落ちません。洗浄するよりもそれらを新しいものに替えたほうがずっと効果的なのに、ガイドラインにはそうした記述がない。そのため、自治体は高圧洗浄をするしかない。ガイドラインはとっくに陳腐化しているんです。環境省はそのことを認め、今すぐにでもガイドラインを改訂すべきです」

官僚主義の弊害のひとつは「無謬(むびゅう)性」、つまり、間違いを認めないことだ。一度高圧洗浄すると決めたら、それが不適切な方法でも改めようとはしない。

聞くところによると、環境省は文科省や経産省が予算措置した除染事業の更新にかかる費用も出さないと宣言しているという。

例えば、ある学校が文科省の予算で校庭の土を除去したとする。しかしその後、校庭の機能を回復するために覆土(ふくど)しようとしても、環境省はその予算を認めないのだ。

こうした中央省庁の縦割り主義、縄張り主義もまた、除染の遅れをもたらしている。

***

福島県下40市町村の住宅除染実績は計画戸数の16%ほどにすぎない。除染の遅れは深刻だ。それだけ復興が遅れるからだ。

だが、決して悲観的になる必要はない。国の除染対策の間違いがはっきりとした今、この状況を逆手に取り、従来の除染計画を抜本的に見直せばいい。

まず着手すべきは自治体ごとに最適の除染は何か、しっかりと議論した上で、それにかかる時間、費用などを“天井”を設けず算定することだ。

これまでの除染計画は2年以内に線量半減、5年以内にふるさと帰還といった“願望”を前提として造られたものにすぎない。これでは予定調和、アリバイ証明的な除染しかできない。手抜き除染、不適切除染がはびこるのも当然だ。

英語で「フロム・スクラッチ」という表現がある。ゼロベースから始めるという意味だ。

除染も一から計画を練り直し、各自治体のニーズに応じた除染が実施できるよう、出直すべきだ。何しろ、除染の進捗率は2割にも満たないのだ。今なら出直しは十分できる。それがスピードと実効性のある除染につながるはずだ。

(取材・文・撮影/古賀茂明と本誌取材班)

●古賀茂明(こが・しげあき)



1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。民主党政権と霞が関を批判した著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。現在、大阪府市統合本部特別顧問

週プレNEWS

トピックスRSS

ランキング