孤高の北朝鮮ストライカー、チョン・テセ「道なき道を歩んでいるプライドはある!」

週プレNEWS / 2013年4月20日 6時0分

強豪の水原三星では開幕スタメンの座をゲット。ACLでは日本の柏とも対戦。「成長した姿を見せる」と燃えるチョン・テセ

希有(けう)な人生である。生まれ育った日本でプロサッカー選手となり、韓国籍ながら北朝鮮のパスポートを取得し、W杯にも出場したチョン・テセ。そして、新たな挑戦の地に選んだのが「自分の中で一番遠い国」と話していた韓国だ。彼は今、何を思うのか? 現地で直撃した!

■韓国でこんなに注目されるとは……

Jリーグの川崎フロンターレでプロサッカー選手としてのキャリアをスタートし、2010年には北朝鮮を44年ぶりのW杯出場に導いたチョン・テセ。

大会後にはドイツ・ブンデスリーガ2部のボーフムに移籍。1年目から25試合に出場して10得点を叩きだし、ストライカーとしての能力の高さを見せつけた。

その活躍が認められ、昨年1月に同1部の名門1FCケルンにステップアップを果たす。だが、チームの低迷とともに自身も出場機会を得られず、悶々とする日々を過ごしていた。そして、チームは2部降格。プレーすることに飢えていた彼が選んだ新天地は、祖父母が生まれた地である韓国・Kリーグの強豪、水原三星(スウォンサムスン)だった。

驚くべきは、現地での注目度の高さだ。今年1月、ソウル近郊にある仁川(インチョン)国際空港に初めて降り立ったときに集まった記者は約100人、テレビカメラは15台ほど。現在でも、試合前後のニュースでチョン・テセの名前が出ない日はなく、韓国では完全にスター選手。取材のために招待してくれた自宅の高級マンションも自家用車もチームが用意したというから、期待の高さがうかがえる。

―移籍当初はかなりのフィーバーぶりだったようですが、あらためて韓国ではどのように受け止められているのですか?

テセ 自分で言うのもなんですが、それなりの注目度はあると思います。水原に移籍する前、昨年夏に韓国のテレビの人気バラエティ番組に出演していたので、ある程度は予想していましたけど、さすがにここまで注目されるとは思っていませんでした。(韓国代表の主力は海外でプレーしているため)Kリーグに注目選手がいないという事情もあると思います。そういう意味で、朝鮮代表FWでもある“チョン・テセというブランド”に光が当たりやすかったんでしょうね。

―韓国行きを決めた経緯を教えてください。

テセ ドイツでの終盤はベンチ入りメンバーにすら入れない日々が続いて、メンタルが完全に崩壊していました。そんななかでラブコールを受けたのが、韓国の水原だったんです。俺を必要としてくれるチームがあるなら、すぐに行こうと迷わず決心しました。韓国なら名門クラブの水原三星かFCソウルしか興味なかったというのもありましたね。(ヨーロッパではない)韓国でプレーするなら、それなりのやりがいも欲しいと思っていましたし。実際に水原に来てみたら、サッカーをする環境がすごく良くて、選択は正解だったなと思います。

―てっきりヨーロッパでのプレーにこだわるのではないかと思っていただけに、意外な選択に感じました。

テセ ずっと飛び続けられる鳥はいませんよね。一回着地して、羽を休めないといけない。一生、現役でいられる人もいない。もちろん、ヨーロッパに居続けられればよかったですが、うまくいかなくなることも十分にありますし、ドイツにいても、いつか韓国や日本に戻るかもしれないということは想像していました。マンチェスター・Uの香川真司選手のようにビッグクラブにステップアップできず、シャルケの内田篤人選手とか日本人のドイツ組みたいに活躍することもできないまま、今回、韓国行きを選択したわけですが、後悔はありません。韓国でこれだけ注目されながら試合に出られている時間は、本当に貴重だと感じています。

―3月のリーグ開幕戦からスタメン出場して、まだゴールはありませんが(4月2日時点)、自分としての評価は?

テセ ゴールがないのが残念ですけど、インパクトは残せていると思います。鳴り物入りでドイツから移籍してきて、「どれだけできるんだ?」とか「(ヨーロッパで)失敗して帰ってきたんじゃないのか?」って思われているのは間違いない。だからこそ、早くゴールを決めて力を証明したいんです。ちなみに、チームメイトに自分の印象を聞いたら、「ボールを持ったらすべてシュートする」っていうイメージがあるらしいです(笑)。

―間違ってはいない気もします(笑)。

テセ 第4節(3月30日)の全北現代(チョンブクヒュンダイ)戦では初アシストを記録して2-1の勝利に貢献できましたし、ゴールは時間の問題でしょう。とにかくゴールへのプレッシャーは常にのしかかっています。試合ごとに「テセのゴールはいつになるか」という記事もたくさん出ているので、一日でも早く期待に応えたいところです。

―韓国では“助っ人”として見られているのですか?

テセ 韓国では外国人選手のことを“傭兵(ヨンビョン)”と呼ぶのですが、僕はそう呼ばれていません。それは韓国では“外国人”ではないからです。ただ、チームとしての扱いとは“助っ人外国人”で、常に結果を求められています。サポーターからも「北朝鮮の選手」と見られているはず。

―実際にプレーして、韓国のサッカーをどう感じていますか?

テセ やっぱり特徴のひとつは、球際が激しいということ。ただ、ドイツはもっと激しかったので、Kリーグがタフだといっても、守備を突破するのはそこまで難しくはない印象です。ちなみに、Kリーグと比べると、Jリーグは球際がすごく弱いですね。ボールへ積極的にアプローチはするけど、最後の一歩が出なくて奪えないケースが多い。それじゃ、激しさのないフットサルみたいなものです。

ただ、Jリーグのほうがレベルが低いかといえば、そう単純な話ではない。実際、韓国の選手は日本のサッカーをすごくリスペクトしています。選手やJリーグから学ぶことが多いって言っています。そう聞くと、Jリーグでプレーしていた自分としてはとてもうれしくなりますよね。

■“たられば”はすごく考えます

―韓国で生活するのは初めてだそうですが、何か驚いたことは?

テセ 生活面は特に何も問題ありません。言葉も話せますし、食事も合います。そういえば、韓国では有名人なんだなって思う出来事がありました。高速道路の料金所にいるおばさんが、僕の顔をほんの1秒だけ見て、「あ、テセだ!」って言ったのには驚きましたよ。マンションの外に出ても普通に声をかけられるので、とてもありがたいです。それがなくなったら寂しくなるだろうなって。

―「自分の中で一番遠い国」と言っていた韓国での生活を満喫しているようですね。それにしても、生まれ育った日本でプロ選手になり、北朝鮮代表としてW杯の大舞台に立ち、そして、今は祖父母が生まれた韓国でプレーしている。そんな珍しい自分の境遇やサッカー人生をどう思っていますか?

テセ 朝鮮代表を選択したことについて、もちろん、後悔はありません。でも、“たられば”はすごく考えます。朝鮮代表は“名誉職”みたいなもので、日本代表や韓国代表みたいに報酬がもらえたり、待遇がいいわけでもありませんから。仮に日本代表や韓国代表を目指していたとしたら、今の自分がどうなっていたのか、正直わかりません。例えば、日本代表の選手たちは(イングランドの)プレミアリーグにとって、(マーケティングの面も含めて)すごく価値があると思うんです。

一方で、朝鮮代表の選手は有名リーグから見向きもされません。ヨーロッパに出ていろいろな世界を見聞きするうちに、そういうジレンマに悩まされることは多かった。それでも、朝鮮代表としての誇りはすごくありますし、朝鮮代表だからこそ、今、自分はこうやって韓国で注目を浴びている。誰にも歩めない自分だけの道を見つけて、道なき道を歩んでいるというプライドはありますね。

―確かに、誰も歩んだことがない道を進んでいると思います。

テセ 自分みたいなヤツがひとりぐらいいてもいいだろうとは思いますよ。いろいろな経験をしてきましたが、何より今が楽しいですから。例えば、チームの練習中に、コーチが「チームのトップ選手はテセだ。そこに追いつくために、普通に頑張っていても仕方がないだろう」ってほかの選手に言うんですよ。「そこまで持ち上げてくれるの?」って思うんですけど、いやな気持ちはしませんよね。

自分の存在価値はほかにはマネできないものだし、自分の生い立ちがあるからこそ、今の立場があると思っています。みんなと同じ道を歩むよりも面白い人生じゃないですか。ただ、重要なのはゴールを決めて結果を残すことです。そうじゃないと、今の人気も長続きしないですよ。

―それでは今季、結果を残せそうな手応えはありますか?

テセ もちろん、上位争いできる手応えはあります。個人としても、ゴールを決めるのは時間の問題。最初の2試合で、いずれ得点できるなって思いました。これはFWとしての感覚です。かれこれ1年間はゴールから遠ざかっているので、その感覚を一日でも早く戻すために努力している最中です。

シュートを打つ瞬間に何を考えるのか、シュートを打つときはキーパーを見るのか、ゴールポストを見るのかなど、いろいろと頭の中で考えていることがあるんです。ゴールへの欲というよりも、シュートにもっていく技術が今の自分には必要かなと。今季15得点という目標も、きっかけをつかめれば達成できると信じています。

―来季以降については、どのようなキャリアプランを描いているのでしょうか?

テセ もちろん、今季の韓国での結果次第ですが、ヨーロッパに行くチャンスがあれば、もう一度チャレンジしたいと考えています。そんな簡単なことじゃないですけど、あきらめてはいません。ドイツでもいいし、イングランド、スペイン、イタリアでもいい。でも、もう2部でプレーするのはいやなので、1部リーグにこだわっていきたいですね。とにかく韓国でゴールを量産して、ドイツで失った自信を取り戻すことが先決。日本の皆さんとは、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)の舞台でお会いできるのを楽しみにしています。

(取材・文/金明昱)

●チョン・テセ(Chong Tese)




1984年生まれ。29歳。愛知県出身の在日コリアン3世。2006年に川崎フロンターレに入団。07年6月、北朝鮮代表に初選出され、10年南アフリカW杯に出場。その後、ドイツのボーフム、1FCケルンと渡り歩き、今季より韓国の水原三星に加入。鍛え抜かれたフィジカルと、激しい接触プレーも恐れぬ闘争心を最大の武器にする点取り屋。181cm、80kg

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