『ハゲタカ』の作者が見た農薬とテクノロジーとリスク

週プレNEWS / 2013年4月30日 6時0分

「科学技術とリスクをうまく扱えるかは、結局、そのとき生きている人間の叡智と理性と節度に期待するしかありません」と語る真山仁氏

農薬散布のラジコンヘリが突如として暴走。近くにいた子供は農薬を浴びて重態に陥ってしまう。実はその子供の父親は、散布されていた農薬の開発者でもあった―。

こんな強烈なエピソードから始まる『黙示(もくし)』。『ハゲタカ』などで知られる社会派作家・真山仁が今回テーマとするのは「食と農業」だ。

―農薬を扱うのは、4年前に発表された短編小説『ミツバチが消えた夏』以来ですね。

「ええ。『ミツバチ…』は養蜂家の方から、突然ミツバチの大量失踪が起きてしまった、ということを聞いて書いた小説です。調べてみると、その原因は農薬らしいとわかった。さらに、農薬が人間に影響を及ぼすかもしれない、という話もあって、専門家に取材をしました」

―農薬は危険なんですか?

「散布の際に配慮しないと、そもそもが殺虫剤ですから虫には影響があります。それから、化学物質過敏症の人にも影響が出たりすることもある。でも、現在では対策が進んで、普通の人にとってはそこまで危険なものではない。非常に厳しい国際基準もあります。

とはいえ、誤った使い方をしたら危険です。農薬は怖いし、ないほうがいいと感じる方も多いでしょう。でも、農薬は今もなくならない。それは、一年中、安くておいしくて、形のよい野菜が消費者に求められているからです。現在、野菜は化学肥料を使うことで効率よく生産されるようになり、工業製品に近くなってきています。そう考えると、実は農薬の問題は、今の社会の危うさを象徴していると思えてきました」

―達成しなければならないものと、リスクのバランスですね。

「そうです。先進国は、かつてでは考えられないようなリスクを抱えている。原発や、新幹線や自動車など、事故が万一起きたら大変なことになる。そういうリスクをどう理解して、どう折り合いをつけていくのかが問われています」




―本の中では、日本の農業をのみ込もうとする本当の「敵」として、アメリカの巨大GMO(遺伝子組み換え食品)メーカーが出てきます。GMOも同じように考えるべきですか?

「GMOが本当に安全かどうかは、あと10年はたたないとわかりません。でも、世界的に人口が増え気候変動が起きるなかで、飢える人を減らせる技術であることは確かです。実際、農薬研究をやめ、GMOを進めるのが世界的な潮流。今も農薬を開発しているのは日本くらいでしょう。この流れに乗り遅れたために、今、日本の種苗メーカーは、何十年もかけて開発した『種』を遺伝子レベルで解析されてしまう危険にさらされています」

―真山さんは小説家になる前は新聞記者だったそうですね。ノンフィクションとして書かなかったのはなぜですか。

「『黙示』では、農薬の危険性を訴えて、GMO導入に奔走する政治家が登場します。こんなふうに、ある問題を糾弾して排除すると、別の得体の知れないものが出てくるということが、現代ではよくあります。そうした科学技術とリスクをうまく扱えるかは、結局、そのとき生きている人間の叡智と理性と節度に期待するしかありません。でも、ノンフィクションでそんな結論にもっていくわけにはいかないでしょう。リスクに直面したときに人はどう変わるのか、どのように叡智や理性、節度を発揮できるのか、できないのか。それを描くのは小説でしかできないと思っています」

(撮影/高橋定敬)

●真山仁(まやま・じん)




1962年生まれ、大阪府出身。同志社大学法学部を卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収を描いた小説『ハゲタカ』でデビュー。『マグマ』(角川文庫)、『ベイジン』(幻冬舎文庫)など著書多数

■『黙示』




新潮社 1785円




農薬は危険なのか? 元戦場カメラマンの養蜂家、農薬メーカーの開発者、農水省の若手女性官僚、巨大な敵を招来する政治家……。ある者は逡巡し、ある者は自らの目的に向かって突き進む。果たして日本の農業に未来はあるのか?









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