TPP交渉で日本がアメリカにつけこまれた理由

週プレNEWS / 2013年5月2日 9時0分

TPP交渉参加をめぐる日米の事前協議に際して、日本がアメリカの要求をほぼ丸のみしたことはあまり報じられていない(「TPP交渉で日本は早くも屈辱的要求をのまされている」http://wpb.shueisha.co.jp/2013/04/25/18710/)。安倍首相は「日本の国益は守られている」と自信たっぷりに語るが、実態は大きく異なっている。

そもそも、アメリカ政府が発表した合意文書は、日本のものと内容が違う。NPO法人「アジア太平洋資料センター」(PARC)事務局長の内田聖子氏が指摘する。

「アメリカが出した合意文書に、日本の農産物に配慮する記述は一行たりとも存在しません。むしろ、『TPP交渉はすべての物品が対象である』ことが明確に書かれています。それが日本政府発表の合意文書からは丸ごと削除され、真逆なことが書かれている。事前協議でアメリカに譲歩し、あまりに多くの“敗退”を繰り返したものだから、なんとかそのボロを隠そうと都合よく文書を作成したということでしょう。怒りを通り越して、あきれるほかありません」

なぜ、日本はこうも一方的につけこまれることになったのか。元レバノン特命全権大使で、著書に『外交力でアメリカを超える』などがある作家の天木直人氏は言う。

「日本が交渉に参加するためには、アメリカ議会の承認が不可欠。それには、アメリカ政府が日本の交渉参加を議会に通知してから90日かかるんですね。逆算すれば、日本が交渉参加を目指す7月にぎりぎり間に合うかどうか。だから、日本は事前協議で一刻も早くアメリカからの合意を取りつけなければいけませんでした。焦(じ)れる日本を見透かすように、アメリカは次々と厳しい要求を突きつけてきたというのが実情でしょう」

さらに、関係省庁の間では縦割り行政の弊害も表面化していた。

「各省は自分たちが管轄する業界の利益を守ろうとするので、利害がぶつかる省庁……例えば、経産省と農水省は情報共有がまったく図れていません。農水省は関税を撤廃してもいいと考えている農産物の品目を、頑として経産省に教えない。『経産省に交渉を有利に進めるためのカードとして使われてしまう』と疑心暗鬼になっているためです」(天木氏)

TPP交渉に参加する前から、日本の足元はぐらつき始めている。関税撤廃の例外にするように求めている“重要5品目”(コメ、麦、乳製品、牛肉・豚肉、甘味資源作物)についても、「1品目すら守れる見通しが立っていない」(天木氏)というのが実際のところだ。

外務省国際情報局の元局長で、著書に『戦後史の正体』がある評論家の孫崎享(まごさき・うける)氏が語る。

「そもそもTPP交渉に途中から参加した日本に、アメリカなど9ヵ国がすでに合意した内容を変える権限はありません。これは岸田文雄外相も国会で認めていて、そのことは安倍首相も理解しているはず。安倍政権はこれまで憲法改正、集団自衛権の行使、防衛費の増大、アメリカ産牛肉の輸入規制緩和……と、ことごとくアメリカの要求どおりの、オバマ大統領に嫌われないための政策を打ち出してきました。長期政権を保つためには対米従属でいることが重要だと考えているためですね」

となれば、安倍首相の方向性は最初から決まっていたということか。

「そんな安倍首相にとって、TPPに参加しない選択肢などあり得なかった。彼の本音を代弁するなら『もうどんな条件でものみますから、TPPに参加させてください』と、最初からアメリカと交渉するつもりなんてなかったということです」(孫崎氏)

この調子では、7月から始まるTPP交渉は、日本国民にとって“絶望の始まり”でしかない。

(取材・文/興山英雄)

■週刊プレイボーイ18・19特大合併号「絶望のTPP交渉 やっぱり日本は“聖域”を守れない!」より

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