橋本治の相変わらず役に立たない話 第14回「みんな好き勝手なことを言ってるけど」

週プレNEWS / 2013年6月2日 13時0分

アメリカの政府高官のような人達は、もしかしたら「東アジアはどうなっちゃったんだ?」なんてことを考えているかもしれない。

北朝鮮の「無慈悲に火の海にしてやる!」は毎度のことだけど、「尖閣は我々のものだ」と言う中国は、「沖縄も我々のもんだ」と言う。韓国の新聞には「日本に原爆が落ちたのは神の罰だ」という記事が載るし、日本の総理大臣はアメリカの新聞に「歴史認識に問題がある」と言われるようなことを言うし、某政党の共同代表である市長の「慰安婦に関する発言」では、アメリカ政府の報道官が公式に問題にしてしまう。北朝鮮も韓国も日本も中国も、元々は儒教の文化圏だから、本来ならえげつない発言を慎むような所ではあったはずだけれども、「それがどうなっちゃったんだ?」なんてことを考えてるんじゃないかと思いますね。

実のところ、こうした騒ぎがあるということを書くことさえ大変で、その発言を並べる順番だって大変だ。どうしてかと言うと、ある発言が騒ぎを起こすと、「我々はそんなこと言ってない」になり、「発言をそんな風に解釈するのはなにか特定の意図があってのことか!」になって、発言自体を捕捉して繰り返すのが大変だ。だから「なんの意図があってそんなこと言うのか?」が分からなくなる――分かったとしても、「それは邪推だ」と撥ねつけられる。

発言を並べる順序だって、「A国がああ言ったから、B国はこう言う」という因果関係があるというか、そういう考え方をしようと思えば、十分に考えられる。だから、そういう因果関係が生まれないように、バラバラに並べなければならない。そうしないと、「これは、なにか意図があっての並べ方か?」なんてことを言われてしまう可能性がある。そんな「意図」なんかないからバラバラに並べただけの私は、ただ「どうして東アジアは、荒れた中学の教室みたいになって、好き勝手なことを言っているのか?」と思ってるだけですね。

どの好き勝手な発言にも、「俺はどこも悪くねーよ! 悪いのはあいつだからよォ!」という仕返し感覚がある。「自分は悪くない。自分のせいじゃない」ということを前提にした、反省しない不良の言い方みたいだから、「荒れた中学の教室みたいだ」と思うんですけどね。

この中学の先生役は、やっぱりアメリカですよね。「あいつらがあんなことを言うから、俺は言い返してやってるだけです」的な日本の政治家の発言に、「そんなこと言っちゃだめじゃないか」と釘を刺すのはアメリカだし、釘を刺された生徒の方も、「あ、先生に怒られた」というノリで、少しだけおとなしくなる。不思議なことに、今までは日本の政治家がアメリカとは直接関係ないことに対して「威勢のいい発言」をしても、あまりアメリカ側からのクレームがなかった。それなのに、アメリカが日本に対して「それじゃだめだよ」と言って、言われた日本の方はシュンとするというのは、教室が荒れてきたおかげで日本も不良に感化されちゃったということなんじゃないかと思いますね。荒れた「東アジア」という教室の中で、「なんだよォ、お前はよォ!」といういちゃもんをつけられてるのは日本なんだから、優等生だった日本も、「君はどうしたんだ?」と言われる方向に傾いちゃうでしょうね。

じゃなんで、東アジアという中学は荒れたのか? 北朝鮮と韓国と中国と日本の共通項を探せばいい。その答えは、一度はうまく行った経済発展や経済成長が壁にぶつかったからでしょうね。

中国や北朝鮮は「自分達の国内事情に問題がある」なんてことは絶対言わないけど、どの国も国内事情には問題がある。経済が順調に行っていれば、どの国もその問題を隠せるけれど、「順調な経済発展」がなくなれば、その国内問題が露呈してしまう。だから、よその国の悪口を言って、国内問題から目を逸らさせる。だから、外に向かっての非難が、「俺はどこも悪くないけどよォ、お前はよォ!」という調子になる。

もっぱら悪口を言われる立場だった日本も、「なんにも言い返せない民主党」から安倍自民党に変わって、「アベノミクスは成功している。国内にはなんの問題もない」ということになると、威勢よく言い返して、先生に「ちょっと発言に気をつけなさい」と注意されちゃう。だから、逆に考えれば、外に向かって挑発的な発言をするということは、日本国内にちゃんと不安定要因が存在しているということでしょうね。「アベノミクスは本当に大丈夫なんだろうか?」という疑問が消えないままでいるのは、その証拠だと思いますけど。

東アジアが「荒れた中学」になったのは、アメリカが弱くなったからではない。東アジアの国が成長して、国際社会で「自己主張」なんかをするようになったからだ。東アジアの国々が自己主張をする「むずかしい段階」になったから、東アジアは荒れる中学になったのだ。

北朝鮮は、アメリカという先生に認めてもらいたいから、先生の気を惹こうとして悪いことばっかりしている。中国は始めっからアメリカを「先生」だなんて思っていない。「自分こそが先生だ」と思っている。でも、まだそれだけの実力がないからアチコチでボロを出して、「違う、そうじゃない。俺はなんにも間違っていない」と言い続けている。

韓国は、「先生、日本ばかりひいきにしないで、私のことも認めてください。私はなんにも悪いことしてないんですよ」と、先生に接近している。みんな自己主張し始めて、先生は日本にそうかまっていられなくなって、「自分はクラス委員だ」と思っていた日本に少し冷たくなっている。日本も、「いつまでも先生に頼っていないで、憲法を変えて自立しちゃおう」と、へんな風に目覚めかけている。

そして、「このまま行ったら戦争だ」というような、簡単なゴールはもうない。仮にどこかで武力衝突のようなことが偶発的に起こったとしても、そうなると同時に「戦争回避」の道を探し始める。もう世界は当事者国同士に戦争をさせておくほど甘くはない。だから北朝鮮は、「無慈悲に火の海にしてやる」と言って、その脅しから先へ進むことが出来ない。どうしてかと言うと、今や世界は、戦争なんかより経済の方が大事だから。全世界的に経済活動を中断させるような戦争を、世界がやらせるはずはない。戦争で金儲けが出来る時代は終わって、戦争は経済を頓挫させるだけのものになった。

困ったことに、世界の知的レベルは全体として上がって、戦争が可能になるような知的レベルの低い国は少なくなっている。知的レベルを低いままにしておくと、国そのものが立ち行かなくなるということが分かっているから。それが分かっていないのは、経済活動とは無縁のところにいる、軍人という種族だけじゃないかと思う。

経済活動は重要ですよね。そこからはずれて貧乏になって、抱えた不満を増大させるとテロリストのようなものになる。

戦争が成り立たないということは、実は、領土争いが起こりえないということでもある。よく考えると、そういうことにしかならない。

不良というのは「どうしていいのか分からなくて頭が混濁した結果、不良になっている」というのが多いから、不良相手に喧嘩をしたってロクなことにはならない。恐れずに近寄って、「君は何を考えてるの?」と尋ねるところからしか友情は始まらないと思うんだけれど、こんなことを言っても、「お前はなにを言ってんだ!」と言う人は多いんだろうな。

はっきりしてるのは、好き勝手なことを言って欲求不満のウサ晴らしをしているだけじゃ、問題は何も解決しないってことですけどね。

週プレNEWS

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング