【現地ルポ】福島県民を苦しめる“除染”のどん詰まり

週プレNEWS / 2013年8月28日 12時0分

原発から20km圏内の田村市都路地区。汚染土が入った黒い袋が住宅の前に並ぶ。これで除染完了とは無理がある

除染の方針を定めた「放射性物質汚染対処特措法」の成立から間もなく2年がたつが、福島県内にはなかなか除染が進まない、また、いくら除染をしても効果が少ない地域や自治体が目白押しだ。なぜ、こんな事態になってしまったのか? 現場の怒りの声を聞いた。

■「線量が下がった? その発表はうそだ!」

福島県田村市都路(みやこじ)地区―。

福島第一原発の20km圏内にあるこのエリアで、国による直轄除染(対象11市町村)がスタートしたのは昨年7月のことだった。

住宅121戸、道路約96km、農地約127万平方km、森林約192平方kmの除染に投入された人員は延べ約12万人。費用は当初予定の30億円を大きく上回り、66億円にも膨らんだ。

その都路地区の除染が完了し、8月1日から3ヵ月間、地元住民には自宅での常時宿泊が認められたと聞き、現地を訪れてみた。

国道399号沿いの民家。ひとりの中年男性がネズミにかじられてできた天井の穴を修繕していた。

「こんにちは。この辺りの除染はすっかり終わったんですよね」

そう声をかけると、男性は首を振った。

「いいや。新聞がそう書いているだけで、まだ終わってない。うちは6月に終わったけど、ほら、隣の家も向かいの家も、まだ除染作業をやっているのが見えっぺ」

振り返ると、確かに隣の民家ではまだ除染作業の真っ最中。隣家といってもかなり離れているので気づかなかったのだ。いったい、どうなっているのか。

「除染をやってもやっても、なかなか線量が下がらないんだよ」

腕組みをしたまま、男性がそう答える。

環境省の発表では除染の結果、都路地区では平均2.6~0.4マイクロシーベルトあった住宅地の線量が、0・53~0・32マイクロシーベルトまで下がったとされている。そのことを伝えると、男性は怒気をはらんだ声で言った。

「その発表はうそだね。俺の家はそうなっていないもの!」

この男性によると、今年5月、除染作業員に自宅周辺を計測してもらったところ、雨どいの下など、12マイクロシーベルト前後のホットスポットがいくつも見つかったという。

「びっくりしたよ。だって原発事故から2年2ヵ月もたっているのに、そんなに高い線量が出てくるんだもの。慌てて地面を40cm掘って土を入れ替えたんだけど、ほとんど下がらない。結局、1m掘って、ようやく4、5マイクロシーベルトまで下がったので、それで我慢しようということになった。ところが、つい最近、雨どいの下を計り直したら、7マイクロシーベルトにまた上がっていたんだ。裏山の除染は手つかずだから、雨や風のたびに放射性物質が新たに自宅周辺に流れてきているに違いない。高さ1mの空間線量も0.8マイクロシーベルト前後もあるし、除染の効果を疑うよね」

男性の自宅前には黒い「フレコンバッグ」と呼ばれる袋が150個以上も野積みになっている。その中身は除染で出た土や草などの汚染物だ。

袋の表面には放射線量が白いマジックで書き込まれている。その数字はほとんどが1マイクロシーベルト前後。男性が続ける。

「汚染物質の仮置き場がいっぱいで、置く場所がないんだよ。仕方なく、こうして現場保存している。早く搬出してくれと市に頼んでも、『いつになるかわからない』の一点張りだ」

確かに、これではせっかく巨額の予算を投じて除染をしたといっても、実態は放射性物質を住宅からせいぜい数m遠くに移動させただけのこと。

こんな除染にどれほどの意味があるのだろう?

こう書くと、それは田村市だけの特殊なケースではないかと反論する人がいるかもしれない。

だが、それは違う。“除染の優等生”とされる自治体でも、期待したほどの効果が上がらずに苦悩を深めているのだ。

■効果が低いのは国と東電のせい

例えば、福島県川内(かわうち)村―。

この自治体は除染を行なっている福島県内40市町村の中で、いち早く住宅除染を100パーセント済ませた村として知られる。

地元紙記者がこう語る。

「多くの自治体が仮置き場を確保できないなどの理由から除染を実施できずにいます。飯舘(いいたて)村は住宅地の除染さえ計画の2%(今年6月末現在)にとどまっています。そんななかで川内村だけは昨年1月31日、『帰村宣言』を出し、除染に取り組みました。その結果、ほかの自治体に先駆けて今年2月の段階で、村内1061世帯の除染をすべて完了させたのです。除染事業のモデル的存在ですね」

川内村復興対策課除染係の横田正義係長が話す。

「11年8月末の『放射性物質汚染対処特措法』の成立を受け、国が示した目標はその後の2年間で村の住宅地の線量を半分にするというものでした。しかし、それではあまりにもアバウトすぎます。そこで独自に年間追加被曝量を1ミリシーベルト以下、具体的には、住宅玄関前の高さ1mの空間線量が毎時0・23マイクロシーベルトになるまで除染すると決め、実行に移してきました」

8月上旬、川内村のメインストリートに設置された線量計は0・08マイクロシーベルトを表示していた。へたをすると、東京都内よりも低い。これなら帰村は十分に可能だろう。

だが、これだけスムーズに除染をやれた川内村でさえ、除染事業の難しさを日々実感しているという。横田係長が続ける。

「確かに、国が示した線量半減という目標はクリアしました。しかし、川内村の目標はあくまでも国が長期目標とする年間追加被曝量1ミリシーベルト以下。これが達成できないと、村民の安心、安全は確保できないと考えています。ところが、除染が終わった1061世帯のうち、目標の毎時0・23マイクロシーベルト以下にできたのは649世帯だけ。残り412世帯の住宅で未達成のままです。国際的な安全基準である年間1ミリシーベルト以下を実現するというハードルは極めて高いと痛感しています。そのため、国に再除染の要望を出しているところです」

なぜ、自治体の懸命な努力にもかかわらず、除染の効果が上がらないのか?

多くの除染担当者は環境省が作成した「除染関係ガイドライン」の不備を指摘する。

「ガイドラインどおりの除染では十分に線量が落ちないんです。例えば、住宅周辺の山林除染範囲は宅地から20mまでとされていますが、山林の勾配がきついと、実際には住居から10mまでしか山林除染ができないというケースもある。樹木の枝打ちも、根元から半分の高さまでしか予算がつかないため、その上の枝に付着したセシウムの除染はできません。これではいくら除染しても線量は下がりっこありません」(某自治体の除染担当者)

別の自治体関係者もこう話す。

「以前から、ため池の除染を認めてほしいと、国には何度もお願いしてきました。ため池の底の泥に高濃度のセシウムが沈殿している。これを除染しないと、安心して農業用水にも使えません。ところが、環境省はため池の底の放射性物質は水で遮蔽されているから影響は少ないと、除染を認めようとしない。今年5月に出たガイドラインの改訂版でも、ため池は除染対象に盛り込まれませんでした。ガイドラインにない除染に予算はつかない。つまり、ため池の除染はできないということです」

こうした国の姿勢について、環境省のある職員がこう囁く。

「除染費用はいずれ東電が負担することになっています。だから、自治体の要求を認めていたら、除染費用がどんどんかさみ、東電が破綻しかねません。そのため、環境省は東電の示す安上がりな除染をもっぱら採用し、自治体の望む丁寧でお金のかかる除染は突っぱね続けているのです」

この職員が教えてくれた具体例を紹介しよう。

セシウムを吸着した雨どいは高圧洗浄してもなかなか放射性物質を取り除くことができず、線量も落ちない。そこで、ある自治体が環境省に雨どいの交換を認めてほしいと交渉したという。

しかし、環境省はこの要求を認めなかった。そして、その裏には「雨どいの除染は高圧洗浄で十分」という東電の主張があったというのだ。

加害者の東電と被害者の自治体。いったい、国はどちらを向いて除染を進めるつもりなのだろうか?

取材を終え、再び田村市都路地区で出会った男性の自宅を訪ね、こう質問してみた。

国から宿泊許可が出たけど、どうするつもりですか?

「泊まるつもりはない。実は俺、福島第一原発で作業員やっていたんだ。だから、よくわかる。今の都路は、除染しても事故前の原発施設内よりずっと放射線量が高い。俺の自宅は、本当なら防護服やマスクをつけて管理区域にしなければいけないレベルなんだ。いくら国が安全宣言を出しても、そんな所に家族を連れ戻せないよ」

(取材・文・撮影/姜 誠)

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