元外務省国際情報局長、孫崎享「秘密保護法で自衛隊がアメリカの戦争に利用される」

週プレNEWS / 2013年11月19日 20時0分

安倍政権が特定秘密保護法の成立を急ぐ理由とは? 元外務省国際情報局長の孫崎亨氏が解説する

行政機関が指定した「特定秘密」を漏らしたり、知ろうとした人に対し重罰を科すことが可能になる「特定秘密保護法」。日本版NSCとセットで進む、この法案の成立を政府が急ぐ理由は何か? 元外務省の情報収集のプロ・孫崎享(うける)氏に聞く、秘密保護法の本当の狙いとは?

■アメリカ軍と情報を共有するための法案

日本版NSCともいわれる国家安全保障会議の設立と、特定秘密保護法の制定……。

安倍政権がその実現に熱意を注ぐこれらの政策は、領土問題などで周辺諸国との緊張が高まるなか、日本の安全保障を確かなものにするために「必要不可欠」なのだといわれている。

だが、そうした安倍政権の主張は果たして本当なのだろうか?

ここでは日本版NSCの特集に続いて、「国民の知る権利を脅かすのでは?」とも懸念される「特定秘密保護法」について取り上げる。

まず、これほど重要な問題であるにもかかわらず、国民が十分に議論するどころかその内容を理解する時間すら与えずに、早急に進めようとしているのはなぜなのか?

「政府が秘密保護に関する法整備を急いでいるのは、ズバリ、『集団的自衛権』を行使できる環境づくりのためにほかなりません」と語るのは、元外務省の国際情報局長で、『戦後史の正体』(創元社)の著者としても知られる孫崎享氏だ。

「ちょっと考えてみてほしいのですが、この過去10年間、機密情報の漏洩が日本の外交や安全保障に大きな影響やダメージを与えたという事例はほとんどありません。それではなぜ、安倍政権が秘密保護法の成立をこれほど急いでいるのでしょうか?

それはこの法案がある意味、日本発ではないからです。もっと明確に言うと、日本がアメリカに対して秘密保護法をもつと約束しているからなのです。

具体的な証拠があります。今年10月3日に日米安全保障協議委員会、いわゆる『2+2(ツープラスツー)』と呼ばれる日米協議が行なわれました。

これはアメリカ側から国防長官と国務長官、日本側からは外務大臣と防衛大臣が出席して行なわれる日米の安全保障に関する協議です。その内容は『より力強い同盟とより大きな責任の共有に向けて』という合意文書として公表されています。




この文書は、日米の外交文書でありながら正文は英語のみで、日本語は“仮訳”しかないのですが、この仮訳がわざとかと思うほど、日本語として意味不明でして……。ですから私のほうで正文の一部を簡潔に訳すと『双方の閣僚は情報の保護を確実にする目的で、日本側が法的枠組みをつくるために真剣な努力をすることを歓迎する』と書いてある。

要するに日本が秘密情報を守るための法的な枠組みをつくりますと、アメリカに対して明確に約束しているわけです。

それではなぜ、アメリカが秘密情報保護の法整備を要求しているのかというと、図式は単純で集団的自衛権なんです。

2+2の合意文書には日本が『集団的自衛権の行使を可能にする』という内容も含まれています。そして、この集団的自衛権の行使で非常に重要なのが『相互運用性』という考え方なのです。簡単に言うとアメリカ軍と自衛隊が一体となって軍事作戦を行なうということです。

日米が一緒に軍事オペレーションを行なうとなれば、自衛隊はアメリカ軍と情報を共有する必要がある。となると、日本にもアメリカと同等の秘密保持に関する仕組みをもってもらわないと困る。そうした背景があって秘密保護法が急遽出てきたというわけです」

なるほど、憲法改正や解釈改憲など、あらゆる手段を使って集団的自衛権の行使を可能にしたいと考えている安倍政権だが、その前提条件としてアメリカから「秘密保護」のための法整備を要求されていた。で、2+2の日米協議の場でそれを約束してしまったのなら、政府が秘密保護法の制定を急ぐのも無理はない。

では、アメリカ側が想定している「集団的自衛権の行使」は、具体的にどのようなモノなのだろうか? それは本当に「日本を守る」ための軍事行動なのだろうか? 孫崎氏はそこにも大きな誤解があると指摘する。

「最初に理解していただきたいのは、ここで言う集団的自衛権の行使は、日本の安全とはまったく関係ないということです。なぜなら、すでに日米安保条約が存在し、日本本土をどう守るかということは決まっているのです。集団的自衛権は必要ありません。

それではなんのための集団的自衛権で、なんのための秘密保護なのか? それは例えばイラクやアフガニスタンのように、アメリカ軍が海外で軍事作戦を行なう際に、自衛隊と一体となって戦うことを想定していると考えるべきでしょう。




多くの方が誤解しているのですが、アメリカとロシア、中国のような大国同士の安全保障戦略では『秘密の保護』よりも、むしろ『情報の開示』のほうが重要な役割をもっています。

これは核による抑止力を前提とした現代の軍事戦略が『勝つための戦略』ではなく、『戦争をしないための戦略』を基本としているからです。専門的には『相互確証破壊戦略』といいます。一方の国が核兵器による先制攻撃をしても、その後、相手国が核による反撃ができる能力を維持していれば、お互いに怖くて核兵器は使えない……という考え方です。これが成立する前提として、相手の核戦力、軍事力を正しく把握する必要があります。どちらかがウソをついた時点で成立しません。

つまり、軍事情報は隠すのではなく、正確に開示することで『戦争をしない状況』を維持するというのが、1970年代以降の安全保障戦略の基本なのです。

ただし、これは大国同士の安全保障についてです。イラクやアフガニスタンに対して行なったようなアメリカに都合のいい政権をつくるような『新しい戦争』は別です。効率的な攻撃や味方の人的被害を最小限にするためにも、軍事作戦に関する秘密は厳重に守らなければなりません。

つまり、今回アメリカが求めている秘密保護というのは、平時における安全保障の維持のためのものではなく、アメリカが具体的に軍事オペレーションを自衛隊と一緒に行なうことを想定した秘密保護でしかないのです」

■秘密保護法で進む安全保障の拡大解釈

とはいえ、国民の中には尖閣諸島をめぐる中国の動きを現実的な脅威と感じている人も多い。有事の際に、日米が連携して対応するために「集団的自衛権の行使」が必要だというのが、安倍政権の言い分だったはずだ。

だが、孫崎氏はこの点についても疑問を投げかける。なんと、尖閣などでの有事の際に、アメリカが必ず助けてくれるとは限らないというのだ。

「先にも触れたように、日本本土の防衛については日米安保ですべて決まっています。その日米安保におけるアメリカの立場はどうなっているかというと、『日本の管轄地に対して他国の攻撃があった場合、自国の憲法に従って行動をとる』と書いてある。

アメリカの憲法では戦争の決定権は議会にあります。仮に日本の管轄地に攻撃があっても、米国議会が承認しなければ、アメリカは戦争ができないのです。

また中国が尖閣諸島に旗を立てて、自らの管轄地だと宣言したら、アメリカは何もできないという見方もある。事実、アメリカのリチャード・アーミテージ元国務副長官はこうも言っています。『中国が攻めてきて、尖閣諸島を取ってしまえば、管轄権は中国のものになるので、たとえ日米安保があってもアメリカは出ない可能性がある』と。

さらに言うなら、2005年の2+2協議での日米の役割分担に関する合意です。そこには尖閣などの島嶼(とうしょ)防衛は『日本側のやるべきこと』と書いてある。有事の際にアメリカが出てこないこともあり得るのです。









結局、アメリカが日本に集団的自衛権の行使を求めているのは、あくまでも自国の国益を考えてのこと。それはすでに述べたように、アメリカが他国でやる戦争に日本を付き合わせるためであり、そのために秘密保護に関する法整備を求めているのです」

このように、特定秘密保護法がアメリカの要求によるものだとする孫崎氏。かつて、外務省国際情報局長を務めた経験のある氏は、日本の機密保護を強化するべきと感じているのだろうか? すると孫崎氏はその必要性をキッパリと否定した。

「最初に述べたように、私はここ10年ほど機密漏洩によって日本の国益が大きく損なわれたことはないと思っています。ですから新たな法制度をつくる必要はないというのが私の考えです。また、世界を見渡しても、情報の秘匿ではなく、情報の開示を進めるという流れになっています。

また、アメリカがシリア攻撃を検討していたときも、オバマ大統領やケリー国務長官の意向に反し、ストップをかけたのはアメリカの世論であり、議会でした。このように安全保障について世論の影響力は高まっているし、無視できなくなっている。ですから、国民に広く情報を開示することが必要になってくるのです。

さらに恐ろしいのは、『スノーデン事件』が象徴的ですが、ひとたび安全保障を理由にこうした秘密保護の仕組みをつくられると、いくらでも拡大解釈が可能になるということです。

本来はテロ対策のために行なっていた通信傍受が、いつの間にか他国の首相の電話まで盗聴するようになり、歯止めが利かなくなっている。無人機攻撃についても、軍事作戦に参加した敵の兵士を攻撃することだけが許されていたのに、いつの間にかテロ政策に関与した政治家や指導者、ついには無人機攻撃に反対する人物までターゲットにされかねません……。

今回の特定秘密保護法についても、初めは集団的自衛権の行使を目的とした、アメリカの要求に応えるための制度だったとしても、安全保障の考え方を拡大解釈するだけで、まったく別の目的に利用されてしまう恐れがあります。

例えば野党の情報を集めたり、集団的自衛権の行使に反対する人たちをターゲットにしたりといったことが十分に考えられる……。そうした流れが国の進む道を大きく歪めてしまうことにつながる可能性があるのです」

(取材・文/川喜田研 撮影/岡倉禎志)

●孫崎享(まごさき・うける)




1943年生まれ。66年、外務省入省。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長などを経て、09年まで防衛大学校教授。著書に『戦後史の正体』『日本を疑うニュースの論点』など

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