福島第一原発4号機の設計者が緊急警告! 田中三彦「凍土遮水壁は不確実性の高いシロモノだ」

週プレNEWS / 2013年12月18日 6時0分

田中氏は「今のままでは検証が不十分。現在より濃い汚染水が出てしまう可能性もある」と危惧する

“汚染水対策の切り札”として、設置に国費投入の決まった「凍土遮水壁」。だが、専門家からは、その実効性について強い疑問の声が上がっている。福島第一原発を知り尽くした、元原子炉製造技術者で元国会事故調査委員会委員の田中三彦氏が解説する!

■超高濃度の汚染水が流出しかねない!

国と東京電力が福島第一原発の汚染水処理に悪戦苦闘しています。

東日本大震災による津波と地震で、福島第一原発の4つの原子炉が損傷しました。そのうち、稼働中だった1~3号機は冷却機能が失われ、炉内の核燃料がメルトダウンしています。

東電はこの核燃料を冷やすために、一日約400tの水を注入しています。原子炉内に注ぐわけですから、当然、この水は高濃度の放射性物質で汚染されています。

汚染水はポンプでくみ上げ、その後、セシウムを除去した後、再び原子炉に戻し、核燃料を冷やす。これを「循環注水冷却方式」といい、今はセシウムだけですが、最終的には62種類の放射性物質を除去できる「ALPS(アルプス)」という装置を導入しようとしています。

しかし、このシステムは稼働早々、大問題に直面します。循環する水の量が毎日約400tも増える。つまり、原子炉に一日約400tの水を入れると、なぜかポンプでくみ上げる汚染水の量が“倍返し”の約800tに増えてしまうのです。

原因は一日1000tともされる地下水。山側から海側にかけ、原発敷地の地下を大量の地下水が流れていて、なぜかそのうち約400tが原子炉建屋や隣のタービン建屋に流入しているのです。

原子炉建屋やタービン建屋の地下には何万tもの高濃度汚染水がたまっています。原子炉圧力容器、それを収める格納容器がともに損傷し、割れ目や穴から漏れ出ているからです。その汚染水と地下水が建屋の地下で混ざり、一日400tものプラスアルファの汚染水が生じているのです。

東電はおびただしい数のタンクを設置し、その汚染水を保管してしのいでいますが、タンクの容量は大型のものでも1000tにすぎない。つまり、2日半でひとつのタンクがいっぱいになってしまう。すでに汚染水の総量は大型タンカー2隻分、約50万tにもなっており、いずれタンクでの保管が限界を迎えるのは誰の目にも明らかです。



これ以上、汚染水を増やさないためには、建屋内に地下水が流れ込まないようにしなくてはいけません。そこで国と東電がやろうとしているのが「凍土遮水壁」です。

これはゼネコン大手の鹿島建設が提案したもので、等間隔で凍結管を地中約30mの深さまで打ち込み、そこに冷却材(マイナス約40℃)を循環させ、周囲の土を凍らせることで土壁を造るというものです。スケートリンクを水平でなく、地中に縦に設置するというイメージですね。

五輪招致のIOC(国際オリンピック委員会)総会で「汚染水は完全にコントロールされている」と大見得を切った安倍首相もこのプロジェクトを了承し、政府は凍土壁に320億円、そのほかの汚染水対策を含めて470億円の国費を投入することを決定。東電は来年度内の運用開始を目指しています。

しかし、凍土壁による地下水遮断には、いくつかの大きな懸念がつきまといます。

ひとつはこれまで流れていた地下水をストップさせてしまうことで、原発敷地内の土質が変わってしまうこと。水分量が減り、おそらく敷地内の土壌は乾いてガサガサになってしまうでしょう。

原発の耐震強度は建物と土壌の相互作用に基づき設計される。その土質が変わるのですから、当然、耐震の状況も変わる。ただでさえ傷んでいて健全でない4基の原発建屋がきちんと地震に耐え得るのか、心配です。

その土質の変化より、さらに懸念されるのが地下水の水位の変化です。つまり、凍土壁で原発への地下水の流入をせき止めると、当然、原発の下を流れる地下水の水位が下がります。なぜ、それが問題か。

原子炉建屋やタービン建屋のどこかが壊れているために、毎日約400tもの地下水がじゃぶじゃぶと建屋の中に流れ込んでいるのですが、水は高い所から低い所に流れるということを考えれば、現在、原発の地下水の水位は原子炉建屋とタービン建屋の地下にたまっている汚染水の水位より高いということになります。

ところが、遮水して地下水の水位が低くなれば話は逆。今度は建屋内にたまっている超高濃度汚染水が建屋から外へ大量に漏れ出す可能性があります。これは由々しき事態というほかありません。

地下水の流入さえストップできれば、汚染水の問題は解決に向かうと、多くの人々が漠然と考えている。しかし、凍土遮水壁という工法には原発の地下水の水位を低下させ、その結果、建屋外に高濃度汚染水の流出をもたらすリスクが潜んでいるということをきちんと認識しておくべきでしょう。

このことと関連して、凍土壁の強度も心配のタネ。

大量の地下水をせき止めるのですから、凍土壁には大きな水圧がかかります。氷に力を加えると、ある時点でパキッと真っぷたつに割れてしまうように、凍土壁が壊れる可能性はないか。大地震が起きたとき、割れないまでも、大きなひびが入ることはないのか。

もし凍土壁にひびが入れば、そこから再び原発の下に地下水が流れ込みますが、それまでにもし高濃度の汚染水が地下に漏れ出していたら、それが地下水とともに海に流れ出てしまうかもしれません。

凍土壁の総延長は1km以上にもなります。そして、凍土壁は廃炉が終わるまで、30年以上も維持しないといけないのです。

おそらく東電は、破損による水漏れなどは「凍土壁の随所にセンサーを入れてチェックできる」と、ひび割れも「短時間で再凍結するため心配ない」と、説明するはず。

しかし、私はそのような説明をたやすく信じることはできません。

■これほど不確実な技術に頼るべきか

東電は当初、核燃料を冷やす方法として、「水棺方式」を主張していました。これは燃料棒が入った圧力容器とそれを包む格納容器を水で満たし、冷やすというものです。ところが、格納容器から大量に水が漏れていることがわかり、このアイデアは早々に撤回されることになりました。

次に東電が着手したのが、先にも説明した循環注水冷却方式。しかし、このアイデアもまた予期せぬ大量の地下水流入によって頓挫しようとしている。

東電はこれまで打ち出したいろんな対策が、いかにも計算し尽くしたものであるかのように喧伝(けんでん)してきましたが、誤算が次々に発覚し、そのたびにその場しのぎの対策をひねり出してきたにすぎません。

原発の安全を突き詰めて考えようとしないのは、東電の企業体質といってもよいでしょう。原発に事故は起きないという安全神話に浸り、さまざまなリスクを無視してきたのです。

4号機プールからの燃料棒取り出し作業が11月中旬からスタートしましたが、そのどさくさに紛れて、震災前から1~4号機のプールに破損した燃料棒が計80本もあったと公表したことは、そうした東電の悪しき体質をよく表しています。

驚くのは1号機プールに70本もの損傷した燃料集合体があったという事実です。1号機プールには292本の燃料棒が保管されていたので、4分の1近くがなんらかのアクシデントに遭った計算になる。どうしてこんなことになってしまったのか、東電はその経緯を詳しく公表すべきです。





ところが、東電にその気配は見えない。まずいことは隠し通すという体質のせいです。おそらく4号機プールからの燃料棒取り出し作業がなければ、東電は今でも80本損傷の事実を隠し通していたと思います。4号機プールにも3本の損傷した燃料集合体がある。マスコミが作業を監視していては隠しきれないと観念し、渋々公表することにしたのでしょう。

そんな東電が持ち出してきた凍土壁だけに、全幅の信頼を置くことができないのです。

確かに、凍土壁が地下水をせき止めたという実績はあります。しかし、トンネル工事などで小規模に採用されたケースが主で、福島第一原発のような大規模な実用例はありません。理論と小規模な実験だけで、これから30年以上も事故なく維持できるのか、それは誰にもわからない。まったく未知のプロジェクトなのです。ひとりのエンジニアから見れば、こんな不確実な技術はありません。

私がお伝えしたいのは、私たちはこれほど不確実な技術に頼り、汚染水対策に乗り出そうとしているという事実なのです。

私個人としては、建屋の山側に井戸を掘り、流入前の地下水をくみ上げて海に放流する「地下水バイパス方式」が現実的な汚染水対策だと考えています。東電の試算では現在約400tの増加量を300tに減らせます。流量計でバイパスした地下水量を測れば、原発敷地内の水位をコントロールすることも、あるいは可能かもしれません。

なのに、現状は国、東電一体となって、不確実性の高い凍土壁方式で押し切ろうとしている。本当に凍土壁方式がベストなのか。広く世界から知見を集めることも考慮すべきでしょう。

2020年には東京五輪が開催されます。その直前に凍土壁が割れ、汚染水が大量に漏れて外洋に流出するようなことになったら、日本の威信は地に堕ちる。今はそんな最悪の事態にならないことをただただ祈るばかりです。

(取材・文/姜 誠 撮影/高橋定敬)

●田中三彦(たなか・みつひこ)



1943 年生まれ。68年に日立製作所の関連会社に入社。福島第一原発4号機などの原子炉圧力容器の設計に関わる。77年に退社後は、科学系の翻訳・評論・執筆などを行なっている。東日本大震災後は国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)の委員を務めた

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