フィクションで書いたほうが真実に迫れることもある

週プレNEWS / 2014年3月11日 6時0分

本作で初めて小説を発表する石井氏。「どういう形で表現するかというのは、描きたいテーマから逆算して考えるべき」

四国の山奥で発生した、連続老人失踪事件。村に言い伝えられる“黒婆”の仕業だと住民たちは畏(おそ)れるが―。現地で容疑者として身柄を確保された実父の元へ、警察とともに駆けつけた「私」は、そこで60年前に横行したハンセン病患者への狂気的な差別の実態に触れることになる。

当代随一のノンフィクション作家・石井光太氏が、綿密な取材に基づいて書き上げた、とびきり社会派なミステリー小説が『蛍の森』だ。石井氏に聞いた。

―そもそもハンセン病というテーマに関心を持たれたきっかけはなんだったのでしょう?

「大学時代に読んだ、宮本常一さんの『忘れられた日本人』ですね。日本全国の説話を集めた本なのですが、この中で四国の山奥を遍路するハンセン病患者の姿が描かれているんです。病気の治癒を求め、あるいは幸せな来世を求めて巡礼する彼らの様子を思い浮かべたら、なんだかとても愛おしく感じて、いつか書こうと温めていた題材でした。差別問題への関心もさることながら、そこには生き物としての根源的な姿があるように思えたんです」

―小説として発表するのは、石井さんにとって初の試みですね。

「フィクションで書いたほうが真実に迫れることもありますからね。それに、もともと発表の形式にこだわりはないんです。どういう形で表現するかというのは、描きたいテーマから逆算して考えるべきだと思っているので。恋愛でたとえれば、相手を決めてから口説き文句を考えるのと同じ理屈ですよ(笑)」

―では、ミステリー仕立てで構成する作業も、すんなり筆になじんだ感じでしょうか。

「そうですね。強いて違いを挙げるなら、取材で得た情報と情報の間を文献でつなぐのがノンフィクション、想像力でつなぐのが小説ですかね。ただ、若い人にこそ読んでほしいテーマですから、エンターテインメントでなければならないとは思っていました。そこで今回は『神隠し』というミステリー的なモチーフを取り入れたんです」




―実際、ハンセン病差別は日本にとって重要な問題であるにもかかわらず、若い世代には詳しく知られていない印象ですよね。

「なぜこの問題があまり取り上げられてこなかったかというと、答えは簡単。日本人全員が加害者だったからですよ。差別をしていたのは一般の人々で、そう導いていたのは国です。つまり、大多数の日本人にとって、これは直視したくない現実なわけです。その意味では、これは時代によっては書けなかった作品だと思いますね。松本清張は『砂の器』でハンセン病に少し触れていますが、あの時代はあれが精いっぱいだったはず。なぜなら、自身が加害者の世代だからです」

―つまり、非常にデリケートな題材です。執筆中、表現や描写にもかなり気を使われたのでは?

「それはありますね。ただし過剰なほど自己規制する必要はないと思っています。現実世界には、差別表現というのはあるものです。だから絶対に書いてはいけないということはない。でも、不用意な書き方をして無意味に差別を助長すべきではありません。その点をしっかり認識し、言葉を識別すれば本来は書いてもいいと思っています」

―なるほど。ともあれ、ぜひまた小説でも楽しませていただきたいです。

「そうですね。今後も引き続き、小説という形式にふさわしい題材については、小説として書いていくつもりですし、実際に進めてもいますので期待してください」

●石井光太(いしい・こうた)




1977年生まれ、東京都出身。国内外の貧困、医療、戦争などをテーマに取材、執筆活動を行なう。主な作品に『物乞う仏陀』『レンタルチャイルド』『遺体』『津波の墓標』ほか多数。また、責任編集として『ノンフィクション新世紀』も発売中

■『蛍の森』




新潮社 1785円




四国の山奥で発生した、謎の連続老人失踪事件。容疑者となった父親の真実を探るために現地へ向かった「私」だが、そこには日本が長らく目を背けてきたハンセン病を取り巻く差別、人権蹂躙の歴史があった。史実とフィクションが巧妙に絡み合う、著者の初小説




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