SMマニア、頭蓋骨フェチ…現役医師が描く医師の“嗤(わら)える”実態とは?

週プレNEWS / 2014年4月1日 6時0分

「ここに登場する医師はどれも、私自身の分身かもしれません」と笑う久坂部羊氏

患者にも自分にも厳しい天才外科医、人の頭蓋骨に並外れたフェティシズムを覚える医学部職員、相手の嘘を見抜く特殊能力を備えた内科医……など。医療の現場には、多種多様な個性が繚乱(りょうらん)する。

現役医師でもある久坂部羊(くさかべ・よう)氏が、自身初となる短編集形式『嗤(わら)う名医』で、時におかしく、時に怖い医師の実態をリアリティ豊かに活写する! 久坂部氏に聞いた。

―医療小説は数あれど、さすが現役医師の方が書かれただけに、専門的な知識が随所にそつなく盛り込まれていますね。

「それこそが自分にとって最大のセールスポイントですからね。ただ、医療用語というのは諸刃(もろは)の剣でもあると思っています。どうしても小難しくなりがちなので、わかりやすく盛り込むよう心がけているつもりです」

―SMマニアや頭蓋骨フェチなど、実に多彩な医師たちが登場しますが、実際に医師というのは個性的な人が多いのでしょうか。

「というより、ここに登場する医師はどれも、私自身の分身と言ったほうがいいかもしれません(笑)。私の中に存在している潜在的な欲求や不満を、切り分けて大げさに表現するとこういう医師になるんです。

医師だって皆、日々の業務の中でさまざまなストレスを抱えているわけですが、それを患者の前で露(あらわ)にするわけにはいきません。今回の収録作『名医の微笑』には、SMショーでストレスを発散する医師が登場しますが、こういう発散法を持っていると有効だろうなと思うんですよ。……私自身にはそういう趣味はありませんが(笑)」

―患者からのしつこいクレームに対し、内心で「お願いだから裁判にしてくれ」とぼやく医師の姿などは、非常にリアルですよね。

「実際にそう思ったことのある医師は多いと思いますよ。自分に100パーセント非があるわけではないのに、医療ミスだのなんだのと責め立てられるなら、司法に委ねてしまったほうがこちらも楽ですからね」




―今回の作品にかぎらず、医療の世界の“闇”を果敢に抉(えぐ)られている印象ですが、医師業に差し障りはありませんか?

「幸い、小説に書いたことを理由に職場で不愉快な思いをしたことは、これまで一度もありません。確かに私は医療業界の暗部に触れることが多いですが、周囲の医師たちも皆、同じことを感じているはず。むしろ、『よくぞ書いてくれた!』くらいに思っているんじゃないですかね」

―久坂部さんのほかにも“現役医師作家”は複数存在します。激務であるにもかかわらず、なぜ医師は小説を書くのでしょう?

「私の場合はもともと、学生時代から医師よりも小説家になりたかったので、昔からの夢を叶えたにすぎません。ただ、実際に医師になってみて感じるのは、この職業は科学的な面でも人間関係の面でも、さまざまな出来事に遭遇する立場であるということ。

場合によっては最悪の悲劇に立ち会わなければなりませんし、逆に、患者やその家族から深く感謝されることもある。少しでも文学的な下地を持つ医師なら、体験を文章にしたいと考えるのはむしろ自然かもしれません」

―なるほど。その意味では、医療の現場にいるかぎり、まだまだネタは尽きませんね。

「そうですね。それにドラマでも小説でも、医療のジャンルは今、ちょっとしたブームが到来していますから。ほかに書きたいジャンルがないわけではないですが、少なくとも風が吹いているうちは、その流れに乗っかっておきたいですよね(笑)」

(取材・文/友清 哲 撮影/岡倉禎志)

●久坂部 羊(くさかべ・よう)




1955年生まれ、大阪府出身。大阪大学医学部卒。医師として勤務する傍ら、2003年に『廃用身』で小説家デビュー。以降、『破裂』『神の手』など、話題作を発表。ほかに、大学勤務医として現場の実態を暴いた新書『大学病院のウラは墓場』など

■『嗤(わら)う名医』




集英社 1575円




嫁の介護に不満を募らせ、なんとか復讐しようと企てる要介護老人の心情をつづった『寝たきりの殺意』、豊胸手術に失敗し、シリコン除去の再手術を受ける女の不運を描いた『シリコン』ほか、思わず嗤わずにはいられない“名医”たちのオムニバス、全6編!




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