さらば、“ラーメンの鬼”! 客にも厳しかった佐野実さんのガチンコぶり

週プレNEWS / 2014年4月26日 6時0分

4月11日、“ラーメンの鬼”こと佐野実さんが63歳で亡くなった。今年2月に倒れ、緊急入院していたという。

佐野さんといえば、過激な指導ぶりが話題を呼んだ往年のTBS系バラエティ番組『ガチンコ!』の人気コーナー、「ガチンコ ラーメン道」出演時の印象が強い。しかし本来の姿は、1986年に創業した神奈川県の伝説的名店「支那そばや」の店主。彼が作る一杯は、多くのラーメンファンの舌を魅了してきたのである。

それはいったい、どんな味だったのか? ラーメン評論家の大崎裕史氏が言う。

「スープ、タレ、麺、具のすべてに選び抜いた食材を使いながら、どれかひとつが突出することなく、絶妙なバランスでまとまっている。重層的な味のハーモニーを楽しめる、素晴らしいラーメンでした」

使用していたのは名古屋コーチンの鶏がら、九条ネギ、ヨークシャー種の豚など。モンゴル産のかん水を使った自家製の麺は、醤油味用と塩味用で作り分けていた。

「そのこだわりと探究心は、まさに鬼。佐野さんのラーメンは、ガツンとパンチのある味ではないので、時に『物足りない』と評されることもありました。しかし、彼はそうした声に一切迎合せず、わかる人にだけわかればいいと自分の信念を貫き通したのです」(大崎氏)

すると「ラーメン道」で見せていた、弟子のデキの悪いスープを容赦なく捨てるなどのコワモテぶりは、文字どおりガチンコ?

「ことラーメンに関しては、ほぼあのままですね。私もあるイベントでカメラも何もないのに、彼が弟子のスープの寸胴鍋をひっくり返すところを見たことがありますから(笑)」(大崎氏)




そしてまた支那そばや独特の流儀も、鬼の異名を裏づけるものだった。店内ではたばこ、ケータイ、香水、おしゃべり禁止。しかも佐野さんは訪れる客に対し、「いらっしゃいませ」も「ありがとうございました」も言わない……。

「でも、それらは精魂込めておいしいラーメンを作りたい、出来上がったものを最高の状態でお客さんに味わってほしいという思いの表れなんです」(大崎氏)

店内によけいなにおいが漂うとラーメンの風味を損ねるし、大きな声で話されると自分の集中が乱されるだけでなく、ほかのお客さんにも迷惑がかかる。食べている最中に長話をしていると、麺がのびてマズくなってしまう――確かにどれも一理ある。

「ただ、挨拶さえしなかったのは客商売としてどうかと、私も思わないではありません。だけど、『うまけりゃ客は来る。客への礼は味で返す』というのが彼のポリシーだから仕方ない(笑)。実際、そうした雰囲気を嫌って足を運ばない人もいました」(大崎氏)

しかし素顔の彼は、鬼とは正反対の性格だった。

「優しくて、男気のある人でした。酔ったときに見せる笑顔がすてきでね。私にも、会うたびに『体は大丈夫なのか?』と声をかけてくれました。彼の死後、弟子筋でない店主たちでさえ、『佐野さんのラーメンに大きな影響を受けた』『いつかウチのラーメンを食べてもらいたかった』といった追悼文をフェイスブックに載せているのを、あちこちで目にしました。若手にとってはそれほどの目標だったし、父親的存在として慕われていたんです」(大崎氏)

折しもこのところ、一時期隆盛だったこってり濃厚味に代わり、すっきりスープの「清湯(チンタン)系」といわれるラーメンの店が増えている。「支那そばや的な味が復権してきていた矢先だっただけに、なおさら佐野さんの死が惜しまれてなりません」(大崎氏)

天国の佐野さんは穏やかな笑みを浮かべつつ、「ようやく俺に時代が追いついてきたよ」なんて毒づいているのだろうか。

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