消費税増税の陰で、「価格転嫁監視隊(Gメン)」が大手小売業者と戦っている!

週プレNEWS / 2014年7月11日 6時0分

■“立場の弱い”メーカーに増税負担を押しつける大手小売業者

消費税が5%から8%に上がる3ヵ月前、茨城県のある納豆メーカーの社長はため息をつきながらこう話した。

「取引先の大手スーパーから納入価格を増税分(3%)安くしろと求められています。『条件に応じないと取引先を変更する』と圧力をかけてくるバイヤーもいました」

当時、同社の商品は取引先のスーパーにおいて「税込み78円」で販売されていた。しかし、消費増税によって値上げをしなくてはならない。このスーパーは、なんとか値段を据(す)え置きたいと考えていた。納豆や豆腐など、店頭で特売の対象になりやすい日配品は、数円の値上げが客離れに直結するからだ。

「でも、その負担はスーパー側が行なうべきで、メーカー側に押しつけるものではないでしょう? 現状でさえ、安く買い叩かれてギリギリの商売をさせられているというのに、さらに『納入価格を3%分下げろ!』だなんて……。このままでは多くの日配品メーカーが廃業に追い込まれてしまいます」(納豆メーカー社長)

消費増税による商品の値上げを避けたい大手小売業者が、取引上の“立場の強さ”を利用して、立場の弱い納入メーカーに増税の負担を押しつける。こうした行為は“消費税の転嫁拒否”と呼ばれ、過去の消費増税時にも多くの零細メーカーを苦しめた。

そこで、国は昨年10月に消費税転嫁対策特別措置法(特措法)を施行。転嫁拒否を違法とし、取り締まり強化に乗り出した。

その実行部隊として、全国に600人配置されたのが、転嫁対策調査官、通称“転嫁Gメン”だ。

この転嫁Gメンを統括する中小企業庁・消費税転嫁対策室の課長補佐、利根川雄大(とねがわゆうた)氏がこう話す。

「転嫁拒否の疑いのある小売業者は、それによって被害を受けている納入メーカーからの情報提供や、公正取引委員会と中小企業庁が合同で実施する書面調査によって把握。そこで違法性が確認されれば、被害を受けている納入メーカーへのヒアリングや、転嫁拒否行為の疑いのある企業への立ち入り検査を行ないます」

加えて、転嫁拒否行為の実態把握のために、転嫁Gメンがスーパーなどの店頭に抜き打ちで検査に行く“Gメンパトロール”を実施する日もあるという。

立ち入り検査や証拠書類の提出を拒否すると50万円以下の罰金が科せられることもある。また、検査の結果、転嫁拒否が認められた場合の処分も重い。

「まず違反業者に対して『指導』を行ない、転嫁拒否によって不利益を被った場合はその分を納入メーカーに対して返還させる。その上で何をどう是正したのか、きちんと報告させます。転嫁拒否の対象が大多数に及んでいたり、一件当たりの被害額が大きいような悪質なケースは企業名の公表も行ないます」(利根川氏)

■“転嫁Gメン”は違法業者をこう見抜く!

では、転嫁拒否を取り締まる現場で、転嫁Gメンたちはどんな戦いを繰り広げているのか?

今回、週プレは現役の転嫁Gメンを直撃。約30年勤めたメーカーを退職し、転嫁Gメンに転身したというA氏に、匿名を条件に話を聞くことができた。

「われわれは企業に立ち入り検査を行ない、シロかクロかを判断するという“憎まれ役”です」(A氏)

その憎まれ役の仕事とは?

「まず、転嫁拒否の疑いのある企業に対し、検査日を決めるために電話を入れるところから始まります。こちらが『中小企業庁ですが……』と言った途端に『ウチは何もしていません!』と否定から入ってくる企業も少なくありません(苦笑)。増税前後にGメンの活動が多数報道されて認知が広がったため、彼らも警戒心を強めていたというわけです」

その電話口で、立ち入り検査日をムダに引き延ばそうとしてくる業者も少なくない。だが―。

「時間稼ぎのつもりでしょうが、転嫁拒否には“動かぬ証拠”があるので、あまり意味がありません」

A氏が続けてこう話す。

「企業間取引には、必ず見積書、発注書、納品書、請求書、銀行の支払証書といった、取引実態を示す関係書類が残っています。それらの内容を確認すれば、取引の流れは丸裸。万が一、改竄(かいざん)されても、事前に調査した情報と照合すれば“数字のズレ”が見えてくる。逃げられません

小売業者への立ち入り検査で違法性を見極めるポイントは?

「例えば、増税前後の伝票を見比べ、納入メーカーとの取引額や納品価格が増税前より低くなっているケースはよくあります。その理由について具体的かつ合理的な説明があればいいのですが、多くの場合、小売り側にとって都合のよい、曖昧(あいまい)な説明に終始します。そうした場合、取引先メーカーに対して納入価格を不当に引き下げる買い叩きを行なっている疑いが強いと思われます。ただし、これはあくまで一例にすぎません。詳細には申し上げられませんが、検査においては、さまざまな視点から証拠を集め、違法性を見極めています」(A氏)

さらにA氏の場合、“一を聞いて十を知る”理解力もある。

「違反の疑いのある情報を提供した企業にヒアリングする際、その取引実態を伺うだけでピンとくることがあります。仮に取引が適切に行なわれていない場合、違法行為がまかり通っている可能性がある。そのような業者に立ち入り検査を行なうと、買い叩きといった転嫁拒否が見つかる場合が多いんです」

転嫁Gメンは、民間企業に勤めていたときの豊富な経験から、プロパーの公務員では見通せない商取引の裏側を知り尽くしている人物が多い。

加えて、その行動力とスタミナは、転嫁拒否を常態化させている小売業者にとっては最大の脅威だ。

「Gメンパトロールでは、朝から晩までバスや電車を乗り継いで各店舗を回り、その店頭で転嫁拒否が行なわれていないかどうかを抜き打ちチェック。歩数計で一日2万歩以上を平気で歩くGメンもいますよ」(A氏)

もちろん、転嫁拒否を告発した納入メーカー側の扱いにも細心の注意を払う。例えば、違反の疑いのある小売業者への立ち入り検査で取引実態を示す関係書類の提出を求める際には、告発した納入メーカーが特定されないよう必ず、1社分だけでなく複数社の書類を請求するように徹底している。

「“タレコミ”をした納入メーカーがバレてしまうと、その業者は取引の打ち切りなど、小売業者から報復行為を受ける恐れがあります。転嫁拒否を正すことは重要なミッションですが、その結果、情報提供業者が不幸になってはいけません。中小企業を救うことがわれわれの第一使命ということです」(A氏)

こうして、転嫁Gメンは5月末までに2148件を調査。そのうち、「指導」件数は1232件、「勧告(社名公表)」は6月20日現在、3件だ。

転嫁Gメンを統括している前出の利根川氏はこう胸を張る。

「こうした対応実績は転嫁拒否の抑止力です。Gメンの活動によって、増税以降、大きな混乱もなく価格転嫁はスムーズに進んでいるとの声もあります。ただ、転嫁Gメンのこれまでの活動でわかったのは、報復行為を恐れて声を上げられない業者や、違法行為を受けていることに気づかず、当たり前のように買い叩かれてしまっている業者が少なからずいるということ。その“声なき声”をどう拾っていくが課題です」

そして今後、転嫁Gメンによる取り締まりはさらに厳しくなりそうだ。

「増税直後は、転嫁Gメンに関するたくさんの報道の影響もあり、多くの小売事業者が“しっかりと転嫁を行なう”ということに注意していたと思われます。その危機感が薄れてくるこれからの時期、納入メーカーへの転嫁拒否行為が増える可能性があると考えています。特に、小売業者が価格改定を行なう秋の商品入れ替え時、安売りが頻発する年末商戦には、買い叩き行為が横行する恐れもあります。今後も目を光らせて、転嫁拒否行為の芽を摘んでいきたいと思います」(利根川氏)

(取材・文/興山英雄)

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