アメリカ独立リーグの底辺で苦闘する、日本人“ノマド”リーガーの現実

週プレNEWS / 2014年7月19日 6時0分

昨年8月に"底辺"のフリーダム・リーグを取材、1万人収容の球場に観客はわずか15 人だった

アメリカには、メジャーリーグやその傘下のマイナーリーグとは別に“オラが町のプロ野球”とでもいうべき「独立リーグ」が存在することは、日本のファンにも知られているだろう。華やかな舞台とは対極の厳しい環境で日々、白球を追う「アメリカでプレーする日本人」たちも少なくないが、その現実は厳しい。

阪神や日本ハムで“安打製造機”として活躍し、40歳を迎えた坪井智哉(つぼいともちか)は現在、メジャーに挑戦すべく独立リーグの最高峰である「アトランティック・リーグ」のランカスターというチームでプレーしている。その彼ですら、月給は日本の新人サラリーマンと変わらない15万円前後だという。

「まあ、プロ野球というより、プロへの修業の場って感じですね。だから選手は給料が安くてもプレーするし、球団の経営も成り立つんでしょう。僕は3シーズンで4つのリーグを経験しましたが、今年プレーしているリーグはかなりレベルも高く、日本でもやっていけそうな選手もいるくらいです。でも、1年目に経験したリーグはレベルが低かったですね。守備練習なんてほとんどやっていませんでしたし……。日本の野球をせずにいきなりアメリカンドリームも悪くはないと思いますけど、自分から見れば、そこにドリームなんかあるのかな、と(笑)」

ひと口に独立リーグといっても、その実態はピンキリらしい。アメリカに独立リーグができて20年。アトランティック・リーグなどの“老舗(しにせ)リーグ”が、メジャーなどに選手を送り出して存在感を増す一方、「せめてプロと名のつくところでプレーしたい」という若者を集める“底辺リーグ”との格差は年々顕著(けんちょ)になってきている。

名門・法政大学野球部出身の南容道(やすみち)氏は、かつて一流企業の内定を蹴って2002年に渡米、ボストン・レッドソックス傘下のマイナー球団を経て、独立リーグでもプレーした。帰国後、社会人野球の都市対抗にも主力選手として出場するなど「あと一歩でプロ」というレベルの彼によれば、やはりアメリカに渡る日本人選手のレベルは玉石混淆(ぎょくせきこんこう)らしい。

「当時も今も、甘い言葉を使って箸にも棒にもかからないような選手をアメリカに連れていくエージェントがいるんですよ。先日も、知り合いが監督をやっているクラブチームの選手が渡米しましたが、その監督は『あいつはシロウト以下だ』と言っていましたから」彼らの多くは、まず通常のリーグがオフシーズンの期間に開催される「ウインターリーグ」に参加する。アメリカに複数あるこのウインターリーグの実態は、プロを目指す選手のための“トライアウトリーグ”だ。

選手たちは参加料を支払い、視察に来たメジャー球団や老舗独立リーグのスカウトのお眼鏡にかなえば、晴れてプロ契約を結べる。参加料は30万円から50万円で、さらに渡航費も当然自腹。ただ、ここで契約を勝ち取っても、さらに厳しい金銭面の問題に直面している。

開幕後にクビになった選手のために、ご丁寧(ていねい)に「サマーリーグ」というトライアウトリーグを併設している底辺リーグまである。ある日本人選手は昨年、ウインターリーグに参加後、独立リーグ球団とプロ契約を結んだが開幕直後に解雇され、「授業料」を払って再びサマーリーグに参加するハメになった。そのかいあって、再びプロの舞台に復帰できたというが、これぞ究極の「やりがい搾取」というほかない。

それでも、キャンプに参加できればまだ御の字。今年、ウインターリーグに参加して契約を勝ち取った別の日本人選手のもとには、結局なんの連絡もなかったという。契約相手は前出の底辺リーグ、フリーダム・リーグ。ウェブサイトをのぞいてみると、開幕した形跡がない。倒産でもしたのだろう。

また昨年、ニューメキシコ州の「ペコス・リーグ」に所属したある日本人選手は、月給がたった200ドル(約2万円)にも関わらず、それすら財政難を理由にうやむやにされた。しかも、アメリカのプロリーグでは本給と別に「ミールマネー」(食事代)が選手に支給されるのが通例だが、それもなかったという。

こういう待遇は彼らにとって珍しいものではない。それどころか底辺リーグでは、トライアウトリーグと同じように、参加料を払ってプレーしている選手さえいる。要するに「プロ野球選手」の身分をカネで買うのだ。

球団からすれば、こういった選手たちは「カモがネギしょって」いるようなもの。本来なら経費がかかるスカウティングがいらず、在籍させるだけで利益が出る。観客動員ではなく、選手から吸い上げる参加料が収益の柱なのだ。

今春、トライアウトリーグに参加し、その後に底辺リーグと選手契約を結んだふたりの日本人選手がいる。ともに20代後半になった今も夢を追い続け、日本国内の独立リーグやクラブチームでプレーしながら、バイトで稼いだ貯金をはたいて渡米した。海を越えてまで活躍できる場所を求めてさすらう姿は、まるで“ノマド”のようだ。

「ノマドワーカー」ーー遊牧民のように町中をさまよいながら仕事をするヤツらという意味だ。組織に縛られない自由な生き方というニュアンスも含まれているようだが……。

しかし、彼らが3ヵ月弱のシーズンで手にする報酬では、トライアウトリーグへの参加料という“初期投資”すら回収できない。それでも彼らは明るい表情で、自らの未来予想図をこう語る。

「NPBかメジャーです」

その夢が現実になる可能性はほとんどない。そのことは本人たちもわかっているはずだ。アメリカ中を渡り歩く“ノマドリーガー”たちは、「(夢を追うのは)30歳まで」と口をそろえる。

日本においても、将来の見通しを与えてくれない社会にある意味で見切りをつけ、やりたいことを追求しながら、のんびり自分の人生において座るべき“イス”を探すのもひとつの生き方かもしれない。ノマドリーガーの存在は、現代社会に対するひとつのアンチテーゼなのか?

(取材・撮影/阿佐智)

■週刊プレイボーイ30号「ノマドリーガーはつらいよ アメリカ“底辺独立リーグ”の日本人選手たち」より

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