加藤嘉一「『嫌われても必要』な不思議な国。スイスに学ぶべき点は多々あります!」

週プレNEWS / 2014年7月28日 11時0分

特定の陣営に属さず、強い通貨と“国防軍”を持ち、「中立」を保ちながら安定と繁栄を求める。スイスの独自の国家戦略は、多くの示唆(しさ)に富んでいます。

アメリカの相対的な影響力の低下、中国の台頭など、日本を取り巻く国際情勢は混沌(こんとん)としています。こんな時代だからこそ、日本は「どのような国であるべきか」というビジョンを明確にして、独自性を打ち出していく必要がある。例えば集団的自衛権をめぐる議論も、根底に国家ビジョンがなければ実りあるものにはならないでしょう。

その意味で参考になる国が、ヨーロッパの中央に位置し、ドイツ、フランス、イタリアといった大国に囲まれるスイスです。“永世中立国”として知られるスイスはEUやNATO(北大西洋条約機構)に加盟しておらず、ヨーロッパの共通通貨ユーロも導入していない。先日、ぼくはサンガレンシンポジウムという国際会議に出席するために初めてスイスを訪れ、ドイツに近いザンクトガレンやチューリヒ、イタリアに近いサンモリッツやルガーノ、フランスに近いジュネーブ、ローザンヌなど各都市を回ってきました。

壮大なアルプスの大自然に加え、驚かされたのが物価の高さ。街の普通のレストランでさえ、朝食が15スイスフラン(約1700円)と高級ホテル並みです。現地の大学生にマクドナルドの時給を聞いてみると、なんと25スイスフラン(約2840円)とのことでした。

ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語と、公用語が4つあるのも興味深い。各地方が隣接国と個別の経済的・人文的交流を行なっているため、それぞれの伝統的な使用言語を無理に統一しようとせず、統治体制としても連邦制を採用しているのです。UBS銀行で働く若い金融マンは、「統一言語がないため排他的なナショナリズムが生まれにくい。一方、安定・繁栄した生活が保障されているから愛国心は育ちやすい」と分析していましたが、実に絶妙なバランスのもとに成立している不思議な国家です。

法人税が低く、金融機関などの外資企業が集まるスイスの平均給与は、EUのどの国よりもずっと高い。当然、周辺国家にはスイスで働きたい人が山ほどいますが、すでに約800万人の人口の4分の1を移民が占めるスイスは、近年では移民の流入を制限する政策をとっています。

ユーロ危機の影響をさほど受けず、国家財政が安定していながら“閉鎖的”な政策をとるとは何様だ。責任感がない。スイスはヨーロッパ諸国からこうした反発を受けています。要は嫉妬ですが、それでも周囲から嫌われているというのはひとつのリスクです。

スイスはこのリスクにどう対処しているか。ぼくが出席した国際会議で、スイスのディディエ・ビュルカルテ連邦大統領はこう明言しました。

「ウクライナ問題の解決に向け、ロシアのプーチン大統領と積極的に協議をしていく」

加盟国が多く利害関係の調整が難しいEUが前面に出られないときこそ、スイスの出番というわけです。普段は嫌われていても、時には他国が避けたがる役回りを率先して引き受け、存在意義を示す――独自の道を行くには、それなりの覚悟と代償が必要だということでしょう。

公共交通網の発達をはじめとする都市効率のよさ、治安の安定、教育レベルの高さ。独自の世界観を持ち、安易に外へ心を開かない国民性。今年、国交樹立150周年を迎えた日本とスイスには多くの共通点がある。日本もまた、敗戦から独自の発展を遂げたオリジナリティあふれる国家のはずです。

現地の大学生たちは、「ずっとEUに加盟せずやっていけるのか。孤立してしまうのではないか」という危機感を持っていました。日本でもスイスでも、国の未来を支えるのは若い世代の冷静な現状認識と熱い問題意識。大国に挟まれた島国・日本が頭を使わずに生きていけるというなら、その理由を逆に教えて!!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)




日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラ ムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国 を離れ渡米。現在はハーバード大学アジアセンターフェロー。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)のほか、『逆転思考 激動の中国、 ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など著書多数。中国の今後を考えるプロジェクト「加藤嘉一中国研究会」も活動中!




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